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#オカルト
リユ
7
聖次
693
【エルラ村】
メルド村を出発した近衛兵団は、道中、魔物との戦闘で負傷した仲間の搬送と、小休憩を兼ね再びこのエルフの里へと降り立っていた。
かつてメアリーを無慈悲に追い出した「受付嬢」の処分(罪)については、メアリー自身の申し出により、大勢の村人や騎士たちに囲まれた広場で、公開処刑さながらの重々しい空気の中で言い渡されることになる。
「貴女の罰として、メルド村の農業指導員、および子供たちの教師になってもらいます。……その村で精進するのであれば、これまでの無礼は全て許してあげます」
完璧なドヤ顔で言い放つメアリーに、受付嬢はガタガタと震えながら平伏した。
「はっはー! か、畏まりましたメアリー様ぁぁっ!」
青ざめて大汗を流す彼女がここまで怯えているのは、事前の打ち合わせ通り、横に立つウィラードが「いっそ首を刎ねた方が早いのでは?」と大剣の柄に手をかけながら、わざと冷酷に脅しをかけておいたおかげだ。死罪を覚悟していた受付嬢は、涙目でメアリーの「罰(という名の雇用)」を救いの神のように喜んで引き受けたのだった。
とはいえ、あの堅物エルフだけに教育を任せては、学んだ子供たちが同じようにクソ真面目で融通の利かない性格になってしまう恐れがある。なのでメアリーは、王都からまともな人間の教師を別途送り込ませる手筈も、すでに裏で打っていた。
「……少女とは思えないタフな交渉術を、いつの間に覚えたのだ」
広場を後にし、並んで歩きながら、ウィラードは苦笑いを浮かべて深いため息を漏らす。
メアリーが王都に出向く条件として申し出た「王都からのまともな教師の派遣、メルド村の存続、および住民たちのこれまでの罪を問わない」という要求。
元盗賊たちを無罪放免にするなど、正義感の塊である近衛兵団にとっては到底看過できるものではない。それゆえウィラードは苦虫を噛み潰したような渋い顔を浮かべたが、メアリーはしたり顔で彼を見上げた。
「たかだか辺境の小さな村一つですよ? 国家の命運を握る私を動かすための対価としては、随分とお安い条件ですよね」
――国家の危機だ!君の魔眼が必要だ、なんだと大騒ぎしている割に、「お前ら随分と器が小さいんだよ」。
暗にそう語りかけるような完璧な表情を決められ、人類最強の騎士は言葉の力技で黙らされる。結果、その条件を渋々認めざるを得なかったのだ。
「あら、貴族の嗜《たしな》みってご存知ですわよね、ウィラード様」
「それにしても……血判状を四通とは恐れ入る」
「ああ、貴方様の高貴なお名前が入ったものであれば、後から国が約束を反故にするわけにはいきませんものね?」
そう、強かで容赦のないメアリーは、口約束だけで済ませないために、交渉条件を明確にしたためた紙に、関わる全員の血判を押させた四通の契約書――いわば『絶対の保証書』を作らせていたのだ。
ぶっちゃけ騎士団の武力で全て取り上げて燃やしてしまえば効力はなくなるが、この小娘は「最後の一通」の隠し場所を決して教えることは無かった。
もし約束を破れば、その血判状がどのような裏の経路で世間に暴露され、近衛兵団と王室の不祥事として拡散されるか分からない。ウィラードは完全に、この10歳そこらの元貴族令嬢に敗北したのだ。
※※※※※
【フィルモア王城・装束の間】
「ああもう! こればっかりは、どうしても慣れないのよ!」
控室にメアリーの怒気を含んだ声が響く。
プンスカと怒っている彼女は、今まさに謁見のための盛装(純白ドレス)に着替えさせられている最中だった。
「メアリー様、動かれますと紐が締まりませぬ。少々息を止めてくださいませ」
「くっ……! う、動かないわよ……!」
何とかの嗜みとかいう奴で、容赦なくコルセットを締め付けられ、歩くだけで足首がグキッとなりそうなヒールを履かされる。正直言ってメアリーは辟易していた。せっかくメルド村で、可愛らしい子供達に囲まれ平民ライフを謳歌していたというのに、これでは台無しだ。
「はい、完成です。メアリー様、凄くお綺麗ですわよ」
とはいえ、今回は国王陛下との直接の顔見せであり、国家の命運を賭けた大舞台。いくら「籍を抜けた平民」と言い張ったところで、元貴族令嬢としての教養や、立ち振る舞いが試されているのだ。
鏡に映る、窮屈だが完璧に着飾った己の姿を睨みつけ、メアリーはふぅと覚悟の息を吐き出した。
そしていよいよ、フィルモア王との命がけの折衝が始まろうとしていた――。
【フィルモア王城・謁見の間】
重々しい大扉が開け放たれ、絨毯の敷かれた長い一本道の先に、フィルモア王国の絶対者――ミラードが玉座に鎮座していた。
コルセットの窮屈さに内心で毒づきながらも、メアリーは一歩一歩、完璧な令嬢の足取りで進む。玉座の前で「ご機嫌ようミラード陛下」と透き通る声で挨拶をしつつ、美しく気品のあるカーテシーを捧げた。
静寂の中、玉座の上から低く、だがどこか見下すような声が降ってきた。
「息災だな、メアリー。……かつてお前を追放し、その魔眼の力を忌むべきものとした国の非は、素直に詫びよう。許せ」
(どの口が言うの、勝手極まりないのよ!)
都合が悪くなれば放り出し、国家の危機となれば手の平を返して呼び戻す。そんな王族の勝手極まりない「謝罪」の言葉に、メアリーは怒り心頭だ。
仕返しとして眼帯の奥に冷徹な光を秘めたまま、メアリーは満面の、どこまでも完璧な淑女の笑みを浮かべてみせる。
「陛下、ご機嫌麗しゅうございます。――フフ、その件に関しましては『水に流す』所存でございますわ」
(クッソ、ふざけんな! 末代まで呪ってやる!)
胸の内でそう毒づくメアリーの不敵な笑みに、ミラード王は一瞬だけ奇妙な圧力を感じたが、すぐにそれを気のせいだと切り捨て、彼は傲然と本題を切り出した。
「我が国は今、魔王軍の脅威に晒されている。貴女の持つその特異な魔眼の力を使い、異世界から世界を救う『勇者』を召喚してほしいのだ」
薄々、この特殊な魔眼は後々利用してくるだろうとは予想していた。だが、その予想を遥かに超える王の無茶振りに、思わずメアリーは心の中で頭《こうべ》を振り、のけぞってしまった。
……なぜって? そりゃあ、たかだかレベル10の魔法使いが――。
国家規模の『勇者召喚魔法』なんて使えるわけがないじゃない!
自分の実力を鑑みれば、王の言葉は綺麗にオブラートに包まれているだけで、要するに「お前の魔眼レーダーで、異世界に行って直接勇者を探してこんかい」としか聞こえないのだ。
無茶を言うのも大概にしてほしい。
だが、ここで取り乱しては元貴族令嬢の名が廃る。メアリーはすぐにスッと真面目な顔に戻ると、眼帯の奥の魔眼を鋭く光らせ、不敵な笑みを浮かべた。
「条件があります。メルド村の存続、後任教師の確実な派遣、および――過去に犯した罪を今後一切問わないこと。これらを約束してくださるのなら、王の望みを聞き届けましょう」
「うむ、それしきの事当然だ。約束しよう。但し連れて帰ることが条件だ」
ミラード王は深く頷き、慈悲深い笑みを浮かべた。それだけの非道をメアリーに重ねてきた手前、もはや要求を呑むしか選択肢が無いのだ。ここで異論を挟めば王としての沽券にかかわるため、そうせざるを得なかった。一応条件という足枷を付けたのは、王としてのせめてもの意地であろう。
その言葉を聞き、安堵したメアリーが、一礼して謁見の間を退出していく。
……しかし、その重々しい扉が閉まった瞬間、玉座の王の表情から、一切の温情が消え失せた。
「……ふん、生意気な小娘が。適当に『罪人の女』でも送り込んでおけ。魔族領に隣接する辺境の地だ、何かあっても我々のあずかり知らぬ所。従う振りだけしておけば良い」
「……御意に」
貴族の傲慢さと冷酷さを煮詰めたような王の命令に、ウィラードは複雑な表情を浮かべながらも、ただ静かに頭を垂れるしかなかった。
※※※※※
【王城・地下大魔法陣】
メアリーが王城に入る前から、既に魔法士が招集され、異世界への勇者召喚――いや、魔眼少女をあっちの異世界に送り出すための禍々しい準備が始まった。
パパ・ヤーガ魔導士を筆頭に巨大な魔法陣が、発動のその時を静かに待っている。
「メアリー様、異世界の結界を破り、貴女様を向こう側へ送り込むには何かしらの物質に変えなければ送れない。というのも……」
そこから始まった長話を要約すると、単純に「こちらの世界の常識《魔法》を外の世界に漏らさない為」である。生身の使者を送り、万が一帰らずあっちの世界にいつけば混乱を引き起こす原因になるためだ。
なので、メアリーの存在を意識のある物質へと変えれば、世界の理に反せず送り込めるという事だった。
そして現地で対象者を見つけたら、「あとは強制的に連れてくればいいだけ」と言われ、余りの適当ぶりにメアリーは頭を抱えた。
「えっ? 物体になるってことは、向こうで会話とか出来ないんじゃ……」
「メアリー様は魔力をお持ちですので念話は可能かな?」
「まさか元の姿に戻った時、裸じゃないですよね!?」
「それに関しては極秘じゃ」
まあ何とも酷い条件だ。ちなみに「形は何に?」と問うても、パパ・ヤーガは連れて帰る未来が想像できないらしく、「それは任せるのじゃ」と無責任に言い切る始末だった。
『じゃぁ我の得意とする武器だな(ドヤ)』
凄く弾んだ声でメアリーの脳内にアングィスが煩く語り掛けてくる。どうやら今の状況を、この神様は完全に楽しんでいるらしい。
「何でしたっけ、ブーメラン?」
『おい! 我は槍だ槍、重要だからもう一度言うぞヤリィ!』
「あっそ」
アホな会話をしていると、不審な目をしたヤーガが睨んでいる。きっと漏れ出る殺気や、彼女が纏う魔力の違和感を察知したのだろう。
「ヤベあのオッちゃん高位な魔法士だったわ。違和感を抱いているくさい」
『あー、あいつは今日の儀式で精も根も果てて死ぬわ』
「ギャー、出発まえに不吉なこと言わないでよ~」
『うっそー』
異世界《地球》へとお出掛けが楽しいのか、ルンルン爛々とアングィスがはしゃいでいる。あほなやり取りをしている間に準備が整ったようだ。
「メアリー様、魔法陣に吸い込まれましたら、好きな形を想像すればその形になります」
「あっ、それなら宝箱にすれば楽勝じゃない? 覗き込んだらパクリって!」
「ミミックはちと問題かと……そうですね、例えば『転生したら剣でした』とか?」
悪ノリアングィスが影響したのか、メアリーの口が滑らかになっていた。そんなこんなしていると、魔法陣が眩い光を放ち始める。
さらに、数十人の魔法士たちが一斉に呪文を唱え、地下室が眩いばかりの魔力光に染め上げられた。
オオオオオオオオオオオッ!!!
「……待っててねみんな、本物の勇者を見つけて戻ってみせるから」
魔法陣の上に出現した次元の裂け目へと吸い込まれていくメアリー。
まだ見ぬ世界、まだ見ぬ主――自分たちをこの理不尽な運命から救い出してくれる「勇者」を探すために。混沌たる異世界の闇へと猛然と送り込まれていくのだった。
(過去回想・メアリー編 完)
※※※※※
「何だ微妙な匂いがするこの場所は?」
「武器庫でしょうか、木製の剣が置いてありますね〜」
湿っぽく、微妙にすげた匂いが充満している部屋。なんとアングィスとメアリーはどこかしらの剣道部に現出したのだ。もちろん槍の形を想像したのでその通りの形なのだが、日本の物とは違う金属風の柄だったりする。
「そう言えば場所の指定が無かったよね」
『あー、この辺りはレベルが高く、今日いちの反応があったからな、そこにした』
「テキトー」
出現した場所の横浜は、狛、匠、華奈がいて、まあ確かに近いと言えば近いし、愛莉もいるので分からなくもない。間もなくがちゃりと扉が開き、引き寄せられた理由が判明する。
「ねえ愛莉、帰りにマクドにいかへん」
「もう、関東はマックだって」
「じゃレイコーやわ~」
そう、愛莉を含む割とレベルが高い剣士が部活で密集していたのだ。だが、彼女たちが床に転がる見慣れない槍を見つけると……。
「あら、何この槍? 誰のかしら? 忘れ物?」
「ええやん別に槍やし使わへんし。あ、これ丁度ええわ。小手干すのにピッタリや。悪いけどちょっと借りるでー」
――お分かりだろうか。
異世界から猛然と送り込まれ、数多の試練を乗り越えるはずだった神の武器は、現出してわずか十分足らずで『ただの物干し竿(兼・防具乾燥スタンド)』へとクラスチェンジさせられたのだ。
しかも干されたのは、汗と涙と青春が極限まで染み込んだ、剣道部名物「洗えない小手」。それは想像を絶する匂いの怪異(ディザスター)。
頑張れアングィス! 負けるな異世界の神!
『ブッ……!? ゲホッ、ごふっ、何だこの世の終わりみたいな呪詛の香り……! くっさ! 割とマジでくっさーーー!!』
「うわぁ、アングィスの柄《もちて》側に直撃してるよ。……私は刃の側だから、そよ風が香る程度でセーフみたいね。がんば!」
『おいメアリー! 持ち主(マスター)だろお前! 早くこの邪悪な布切れをどかせ!我の神格がすり減る!! 溶ける!!』
神の叫びなど知るよしもない女子部員たちは、寄り道するマックで何を頼むかの議論に花を咲かせている。
かくして、救世の主である「匠」に出会うその瞬間まで、アングィスの鼻腔(概念)を破壊する未知の苦行は延々と続くのだった。
コメント
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ちょっと第23話読み終わったよ〜!😭💕 メアリーの過去編、まさかこんなに深掘りされるとは思わんかった! 受付嬢に粋な罰与えるとことか、王との交渉で血判状4通作らせるとことか、10歳でこのしたたかさマジ尊敬するわ…✨ でも内心「末代まで呪ってやる」って毒づいてるギャップがめっちゃ可愛いんだが?!笑 んで最後のオチ、剣道部で物干し竿扱いされてるアングィスwww 「神格がすり減る」って叫んでるところ吹いた😂 メアリーの過去が分かって、今のストーリーがもっと好きになったよ! 続きが気になる〜!