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部屋に戻ると、ドアの下から一枚の紙が差し込まれていた。彼はそれを拾い上げ、内容を確認しながら眉をひそめた。
「なんだこれ…」
小さくつぶやきながら、その紙をアキラにも見せる。
紙には、もし今の女の姿のままで船を下船する場合の注意事項が、淡々とした文体で記されていた。
【注意事項】
この船から女の体のまま下船する場合、以下の点をご理解ください。
・現在の肉体の状態が固定化し、二度と元の体に戻ることはできません。
・元の男性の体は別の用途に再利用されます。具体的には完全女体化され新たな人格や意識を入れる器として使用される予定です。
下船を選択した場合、これを承諾したものとみなされます。
あなたの選択が、あなたの未来を決定します。慎重に判断してください。
その文章は、驚くほど冷徹で無機質だった。
「…なんだよこれ…『新たな人格や意識を入れる器』って、冗談だろ?」
アキラが紙を睨みながら呟く。声には明らかな怒りと動揺が混ざっていた。
「どういうことなんだろうな…今のこの体で生きる選択肢があるってことか。でも、その代わり元の体は…」
彼はそこまで言って、言葉を詰まらせた。元の自分の体がただの「器」として使われる未来を想像し、背筋が寒くなった。
「そんなのあり得ないだろ!」
アキラが立ち上がり、強く拳を握りしめる。その瞳には、怒りと恐怖が混ざり合った感情が渦巻いていた。
「絶対に元に戻る。俺の体を、そんな風に扱わせるわけにはいかない!」
彼もまた、深くうなずいた。
「ああ、そうだな。どんなに恥ずかしい思いをしても、どんなに辛い思いをしても…俺たちは元に戻るしかない。」
アキラは彼の目をじっと見つめ、真剣な表情で答える。
「俺たちは一緒にここを乗り越えるんだよな?」
「もちろんだ。絶対にな。」
彼は力強くうなずき、アキラの肩に手を置いた。
2人はお互いの決意を確認し合いながら、もう一度深く息を吸い込んだ。紙に書かれた冷たい事実が2人を追い詰める一方で、その絶望的な状況がかえって彼らの意思を固くしていた。
どんな困難が待ち受けていようとも、絶対に自分の体を取り戻す――2人の心にはその強い決意だけが残っていた。