__夜も更けた頃。自分は後先考えず飛び出してきた家を背中に
酷寒の冬をゆらりと放浪していた。
足元に腐る程有る降り積った雪は、踏めば踏むほど嫌悪感が増していく。
そんな中、自分の体を刺してくる冴えた吹雪が、益々自分を絶望に陥れた。
どうしてあんな事をしたか、更には自分は今何を果たすべきなのかすらも忘れてきた頃、
そして同時に、自分の視界に靄がかかってき来た頃。
このままでは息絶えると生き急いだ自分は、
過食気味だった自分の減った腹を満たすため、村へと出向いた。
_やうやう松明の暖かい光に包まれたあばら家ばかりの家が立ち並んだ村へと到着した。
とりあえずは生きたがりな自分の渇望を満たすため、食料を探しに出た。
暫く村を歩いて居ると、小笠原印の押された旗を掲げた小隊を見つけた。
村の危機=自分の危機 の為、仕方なくばその隊を殲滅した。
同じような小隊が3度ほど来たが、問題なく殲滅。本当に何も無い村で少し不審に思ったが、いざ入ってみると幼子だけの村だった。
大体何故なのかは察して分かる。恐らく敵軍の邪な思考で親のみ殺されたのだろう。
_と思うと、道中で死体が懇切丁寧に並べられた家や、異常に悪臭のする家など、”殺された”という事と辻褄が合う。
ただ自分はそんなことを考えている余裕もないので、そこら辺の住民を訪ね、飯を貰った。
とても暖かくて無難で質素な飯は、何より美味しく、まるで自分の凍りきった冷酷の心をゆっくりと溶かしていく様な、そのような心地の良い感じがした。
ただこんな状況もずっと続いてくれる訳でも、無く、早くも村は壊滅の危機に陥っている様だった。
この村での最年長として、見回りに出ている途中、何やら軍議のようなものをしている男女織り交ざった集団党に出会った。
自分が存在意義を見出したこの村のためなら身を呈して戦う事も辞さない。
得意の二刀太刀を鞘から引くと、それは武士が戦闘を始める合図。
自分はこの村の為、剣流戦を始めた。
暫く夢中になって戦っていると、奥に見覚えのある少女を見かけた。
「お前…もしや、雫か?」
半信半疑で前出会った名前を少女に問う。
どうやら予想は的中したようで、相手も自分の名を知っている様だった。
お互いに誤解が解けた後、自分は事の経緯を話した。
その後、こんな極寒の中で居させるのはますずい、と自分が使っていた小屋に案内した。
不思議な友達集団で、突然襲いかかった自分の事を諸共しない。
こちらにしてもあちらにしても、不思議でたまらない事だったろう。
その夜、少し仮眠を摂ることにした自分は、小屋の一室に絹布団を敷き、眠りについた。
気がつけば、目の前には人がいた。
髪の毛を一つにまとめた、紫眼の…男?
*がこちらをまじまじ*と見つめてくるのでどうにも落ち着けなかったが、面識は無いためあまり触れないことにした。
__昼過ぎ。
小屋の近くの竹藪で鍛錬をしていると、先程の紫眼がこちらに尋ねてきた。
どうやら強くなるための秘訣を教えてほしいらしく、教えることは得意だったので自分の中で最も良い技を教えた。
その後先程の紫眼は満足気に小屋へと帰って行ったが、自分は1つ溜息を付き、竹藪を背に米握りを食べているところだった。
__この村は好きだ。
だけど、自分は家を出る時に捨てきれなかった「天下人の元に使える」という渇望を満たすために、自分が忠誠を誓える者を探さなければならない。
得意の二刀太刀を鞘に仕舞い、小屋へとも戻った。
_次の日。昨日の紫眼か米握りを渡してきた。
自分が戸惑うような表情を見せると、彼は
「昨日の鍛錬のお礼だ!」
と凛々しげに言ってくるので、その場はり身を収めた。
…と、ふとふと思えば彼の名前を聞いたことがない。
「自分は生まれつき過食気味なので有難いです。…あなたの名は?」
と問うた。
どうやら雫と親しい仲のようだったので、特に疑いはせすに。
さすれば彼は、長寿丸 と名乗る諏訪大社の雑用だったらしい。
飄々として笑うその姿に、少しだが心が開いて行った。
その場は解散し、自分も辺りが暗くなって来たので小屋へと戻った。
__だか、次の日、その次の日も長寿丸と名乗るものは眩い笑顔と共に米握りを運んできた。
最初はこの長寿丸殿が不思議でたまらなかったが、じき慣れた。
_その後の小笠原軍たちの戦いの後、あなたが教えた事実は、とんでもなく荷が重い事だったろう。
まさか幕府の跡継ぎが、執権の遺児が。
どうしてか自分なんかを郎党に迎えたい、と。
最初は謙遜気味であったが、良く考えればこのまま放浪しても埒が明かない。
それに自分の夢を叶える為の機会はこれ以外にない。…そう思った。
ゆくゆく天下を収めうる主君に向けて、最大限の敬意を込めよう。
__「自分の粟飯代は高いですよ。それでもいいのなら…我が君。」
冴が酬いた極寒後は、火を灯す様な暖温を。