* * *
フェリシアはゆっくりと目を開けると光を感じた。
屋根裏部屋のような天井が見え、何か柔らかいものの上に横たわっているよう。
「フェリシア様!」
「クォーツさん……?」
問いかけると、クォーツは胸を撫で下ろす。
「記憶もあるようですね、良かった……目覚められなかったらどうしようかと」
「申し訳……ありません……」
謝った後、倒れた自分を抱え、シスターに自室まで案内してもらい、運び寝かせたこと、
そして司祭を呼び、祈りを捧げ体を診てもらったところ、疲れが溜まり倒れたという診断に至り、
午後まで眠っていたことを聞き、恐縮した。
フェリシアはクォーツに手伝ってもらい、起き上がる。
そしてふとドレスに付いている両親の形見であるブローチを見ると驚く。
(ご主人さまになおして頂いてから付けているけれど、鮮やかなブルーの光が更に増しているような……?)
フェリシアはブローチに触れる。
その瞬間、痛みのようなものを感じた。
「フェリシア様、大丈夫ですか?」
クォーツが心配げに尋ねる。
体の不調のせいか、あるいは何かの知らせか、痛みの理由はよく分からない。
ただ、痛みを感じたことで、もう一人の自分を抱き締めたのはやはり夢だったのだと悟った。
けれど、これだけは言える。
フェリシアはクォーツに微笑み返す。
「はい、大丈夫です。ご主人さまのおかげで強くなれたので」
* * *
それから戦いに異変が起きたのは翌日の早朝のことだった。
「軍師長、大変です!」
エルバートのテントにカイが声を上げ、駆け入る。
「カイ、どうした?」
「第3部隊、第4部隊の半分が魔にやられたようです!」
エルバートの表情が陰る。
やはり、順調にはいかないか。
フェリシアの残りのパンを食べておいたのは正解だったな。
「エルバート」
クランドールが名を呼び、テントの中に入ってきた。
「第1部隊はこれから出る。お前も軍を連れて共に来い」
「承知致しました」
「カイ、皆に伝えろ」
「はっ」
カイはそう返し、テントを出て行き、 クランドールもテントを出て行く。
エルバートは高貴な軍服に付いたフェリシアからのブローチに右手で触れる。
(フェリシア、行ってくる)
そう心の中で言い、エルバートもまた、バサッとテントを広げ、外に出た。
その後、雪が少し降る中、
太い木にくくりつけた自分の高貴な馬の綱を外して騎乗し、後ろに並ぶ第2部隊に向かってエルバートは叫ぶ。
「これより、第1部隊に続き、魔討伐に向かう!」
少し雪に濡れるエルバートが右手で馬の手綱を引き、前進し、魔除けコートが靡く。
そのまま森の奥の湖を超え、やがてクランドールの軍と共に静かな鬱蒼とした場所へ到着する。
そこでは、第3部隊、第4部隊が人影のような異形なアンデットの魔と戦っており、半分以上がやられ、魔の浄化は苦戦を強いていた。
「第3部隊、第4部隊、下がれ!」
「第1部隊、第2部隊、前に出ろ!」
クランドールが命じ、第3部隊、第4部隊は下がり、 クランドールとエルバートの軍が前に出る。
そしてクランドールは騎乗したまま鞘から剣を抜き、剣先を魔へと向ける。
「第1部隊、第2部隊、戦闘開始!」
クランドールが叫ぶと同時にエルバートも鞘から剣を抜き、 軍の皆と共に浄化し始め――、
間もなくして、エルバートが最後の魔を美しく斬る。
その直後、雪が止み、
今までに感じたことのない邪悪な気配にエルバートの身体が強張り、太い生い茂った木々の間から魔の影が見えた。
そして人の青年のようなアンデットの魔がエルバート達の前に姿を現した瞬間、
魔は霧で森全体を覆い隠した。
* * *
やがて、霧が晴れる。
周りを見渡すと、昼間の森となっていた。
それだけではなく、
エルバート、ディアム、アベル、カイ、シルヴィオ、 クランドール、その部下4名以外、馬共々、忽然(こつぜん)と姿を消していた。
魔が作り出した異空間の森に飛ばされ、入り込んだか。
まさか、このような一瞬で魔の神隠しに合うとは。
「お前達と逸(はぐ)れなかっただけ幸いだな」
「これより、エルバートと共に先に進む。皆の者は後に付いて来い」
「ではエルバート、行くぞ」
「はっ」
エルバートはクランドールにそう返し、クランドールと共に先に進んでいく。
……?
人の気配が濃くなって来ている?
そう思った時だった。
クランドールがふと足を止め、エルバート達も止まる。
「邪気の結界のようなもので先を封じられている」
「エルバート、壊すぞ」
「承知致しました」
エルバートはクランドールと共に祓いの力を使い、片手を前に出し、邪気の結界のようなものに触れる。
すると、パキンッと壊れ、エルバートが先に凛々しい姿で踏み込んだ。
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