テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
#ダンジョン
#学園
六駆の放った『紫電の雷鳥』が人工竜を跡形もなく消し去った。
動力部は頭にあったのか、遠隔操作だったのか、それとも操縦者がいたのか。
全ての謎も一緒に喰らい尽くした最強の男のスキル。
激闘を終えたチーム莉子。
しばらくの間、3人ともその場から動けずにいた。
そうして10分が経つ頃、ようやく六駆の視覚と聴覚が戦線復帰した。
遅きに失したとはかくあるべしか。
結果的に勝利を収めてはいたものの、失うものの大きな戦いだった。
「莉子? 莉子さん? あれ? なにか怒ってらっしゃる? あのー、莉子さん?」
「もぉ! 知らない! 六駆くんなんて知らないもん!! この変態! どさくさに紛れてお、おっ……胸にあんな事するなんて!! 信じらんない!!」
「僕はいつも言っているじゃないか。戦いとは、常に不測の事態が付いて回るって! まあ、今回はどうにかなって良かっ痛い!!」
世界最強の男に向かって石を投げる莉子さん。
岩じゃなくて、小石だったのが彼女の心の清らかさを如実に表していた。
「まあまあ! とりあえず大勝利ってことで! さすがに死ぬかと思ったにゃー」
「いやぁ! 僕もまさか自分の作ったスキルで前後不覚に陥るとは思いませんでしたよ! あんなに強力なんですね! 我ながらビックリ!!」
そう言いながら、六駆は『検診眼』で2人に怪我がないかチェックする。
そんな様子を見ていたら、莉子もいつまでも小さな事で怒っているのがバカらしくなってきた。
「はぁ。師匠、わたし腕が痛いよ! 早く治療して欲しいなぁ!」
「ホントに!? 僕のスキルの発動の衝撃かな!? ちょっと良く見せてくれる!?」
「もぉ。ホントに、凄いんだか凄くないんだか分からない人だよぉ、六駆くんって。……でも、カッコいいところがまた腹の立つところと言うか」
「えっ!? なんだって!?」
「ふふっ! なんでもなーい! ほらぁ、早く治療してくださーい!!」
「ああ、了解! クララ先輩もこっちに! ちょっと大がかりな回復スキル使うんで!」
「ほいほーい。やー。2人の世界に入るのは野暮かなと思って、あたしは気を遣っていたでありますよー。にゃっはっはー」
「も、もぉ! からかわないでくださいよぉ!」
六駆は『気功風』を広域展開。
『軽気功』の効果を強くして、さらに範囲回復スキルに仕上げた六駆のオリジナルスキル。
とある異世界では戦火に見舞われた村を丸ごと包んだこともある、六駆とっておきの回復方法である。
なお、展開するまでに時間がかかるので、戦闘中の使用には向かない。
「はぁぁー。これは気持ちいいねー。これも風スキル? なんか温かい風が行ったり来たりしてるー」
「確かに、気持ちいいかもです。あ、すごい! 擦り傷が治ってく! って、六駆くんも擦り傷だらけじゃん! こっち来て一緒に治療しようよ!」
「えっ、だって、同じスキルで回復したら、何て言うか、混浴みたいな感じになって、また莉子に怒られるかなって」
学習する男、逆神六駆。
莉子に対して普通に平伏し始める。
事実から学ぶのは人の武器だが、師匠としてそれで良いのか。
「バカなこと言ってないで! ほらぁ! はい、さっさとこっち来て!!」
「あ、じゃあ、お邪魔しまーす!!」
こうして、仲良く回復タイムを終えた3人は、大穴のできた壁の脇にある坂を下って行く。
その先に待っているものは何なのか。
それを今ここで語るのは無粋と言うもの。
ほんの少しお待ちいただきたい。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「わぁぁ! ね、ね、六駆くん! これって、もしかして! もしかすると!!」
「うん。恐らくは。これが異世界に通じる通路なんだろうね」
「だよね、だよね! 図鑑で見た入口とそっくりだもん! やったぁぁぁ!! ついに、わたしたちダンジョン攻略を完了したんだよぉ!!」
「やー! あたし、凄いパーティーに入れてもらった事を改めて実感してるよー。まさかこの目でダンジョンの最深部を拝める日が来るとはにゃー!」
興奮と感動で沸く莉子とクララ。
とうとうやり切ったのだ。
初ダンジョンにして、初攻略達成。
これは探索員50数年の歴史の中でも、ほんのわずかなパーティーしか成し得ていない、紛れもない偉業であり、誇るべき大記録であり、胸を張るべき勲章であった。
だが、一番に喜んで「さあ、賞金の山分けの計算を始めよう!!」と息巻くはずの六駆が、なにやら独り、顎《あご》に手を当てて首をひねっていた。
「どうしたの、六駆くん! 喜んで良いんだよ!? わたしたち、明日からどうなっちゃうのかなぁ!? ランクも上がるよね! Cランクだぁ! もしかして、一気にBランクもあるかも!? ひょっとすると、Aランクとか!!」
「六駆くんはきっと、これまでの苦難を思い出しているんだねー。うんうん。隠し事もあるし、弟子を育成しながらのダンジョン攻略! きっとあたしたちとは違う感じの思いが沸き上がっているんでしょ!!」
六駆は、どうしても既視感をぬぐい切れずにいた。
この空間の歪みの先から感じる身に覚えのある雰囲気。
覚えがあるはずないのに、である。
六駆がダンジョン攻略を成し遂げたのは、当然のことながらこれが初めて。
とりあえず確証のない疑念からは目を逸らすことにして、彼は頼りになる弟子にこの先何をすべきなのか、聞いてみることにした。
「ふぇ? 先? ああ! 手続きってこと? まずはね、異世界に1度行って、その場所にある土でも石でも草でも水でも良いから、それを収集箱に保管したら探索課に報告だよ! それから探索員協会の本部に連絡が行って、その後の対応が話し合われるの! 異世界の国と和平交渉をする時なんかは、初めて到達した探索員が随伴するのが慣例らしいし、これから忙しくなるよぉ!!」
「なるほど。和平交渉か。相手が血気盛んな手合いじゃなきゃ良いんだけど」
「六駆さんや、急に脅かそうったってそうはいかんぞなー? 異世界って言ってもあれでしょ? あたしたちと似たような人が暮らしてるんでしょ?」
六駆はどう説明したものか少し悩み、言葉を選んで返事をする。
「そうですね。姿形は結構違ったりしますけど。耳が尖っていたり、羽が生えていたりとか、獣と人が混じっていたり。でもまあ、話も通じないヤバいヤツしかいない、なんて事はほとんどないと思って良いですよ。ちょっと行って戻るだけなら、危険もないんじゃないでしょうか」
自分で言っておきながら、六駆は考える。
「本当にそうだろうか。何か大事なことを忘れてはいないだろうか」と、繰り返し、同じ思考をリフレインさせる。
「じゃあ、行こー!! チーム莉子なんだから、最初はわたしね! えへへー! では、入口を通りまーす!!」
「あ、ズルい! あたしも行くよー!! 待って、待ってー!!」
2人の姿が消えてなくなる。
テレビのノイズのような靄に体がかき消される現象は、間違いなく異世界に転移する時のもので、とりあえず六駆も続いた。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「ふぇぇ!? なにこれぇ!?」
トンネルを抜けた先には、檻があった。
それも、煌気が練り込み、高度な技術の施された獄である。
六駆くん、ここでようやく思い出す。
「ああー! なんだ、そうか! この世界、来た事ある! いやぁ、懐かしいなぁ!!」
忘れていた彼の事をどうか責めないで頂きたい。
なにせ、17年も前の事なのだから。
この異世界の名前は、ミンスティラリア。
逆神六駆の異世界周回者生活。その2度目の転生先であった。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!