-ya side-
放課後の教室。
チャイムが鳴っても、
etさんは、まだノートと教科書を机に広げたままだった。
黒板の前で片付けをしていた俺は、何気なくその姿を見つめていた。
ya「 … ま だ 片 付 け 終 わ ら な い の ?
et「 う ん 。
et「 ノ ー ト に 書 き 足 し た い こ と あ る ん だ 。
et「 先 に 行 っ て て い い よ ?
ya「 … 待 っ て る 。
そう言うと、
etさんは少し驚いたように顔を上げた。
窓から射し込む夕日が、彼女の髪をオレンジ色に照らす。
俺の心臓は、まるでチャイムが鳴り続けているみたいにうるさかった。
etと同じクラスになったのは、高校一年の春。
席が隣になったその日から、
彼女の笑い声や仕草に目が離せなくなった。
et「 お 腹 す い た 〜 …!
ya「 い つ も 腹 減 っ て ん じ ゃ ん 。
et「 い つ も じ ゃ な い し !!
たったそれだけの会話が、なぜか嬉しくて。
放課後も、彼女の笑顔を思い出しては何度も思考が止まった。
最初はただ気になるだけだったはずだ。
でも、少しずつ、「この笑顔を独り占めしたい」と思うようになっていた。
___そして、気づけばもう手遅れだった。
ある日、文化祭の準備で遅くなった帰り道。
etが小さなあくびをして、
「お腹すいたね」と笑ったり。
コンビニで買ったおにぎりを半分に分け合って、
歩道の端に座ったり。
その何気ない時間が、どうしようもなく愛おしかった。
部活で疲れて机に突っ伏していたときも、
「大丈夫?」と声をかけると、嬉しそうに笑うetさん。
その笑顔に救われる日々。
だから、気づいたら言っていたんだ。
ya「 な ぁ 、e t さ ん 。
休み時間。
周りが騒がしい中、俺だけが妙に緊張していた。
彼女が顔を上げる。その目が、真っ直ぐ俺を射抜く。
ya「 今 度 の テ ス ト 、一 緒 に 勉 強 し な い ?
et「 え っ 、珍 し い 。
et「 y a 君 か ら そ ん な こ と 言 う な ん て 。
ya「 … う る さ い 。
ya「 言 わ な き ゃ 絶 対 赤 点 だ し 。
そう、そっぽを向いて言うと、
etさんは笑いながら言った。
et「 い い よ 。
じ ゃ あ 、う ち に 来 る ?
ya「 は ? お 前 ん ち ?
et「 だ っ て 、そ の 方 が 集 中 で き る で し ょ ?
ya「 … ま 、ま ぁ い い け ど 。
その瞬間、耳まで熱くなったのを覚えてる。
彼女の無邪気な笑顔に、心臓の鼓動が追いつかなかった。
__勉強会の日。
机の上には参考書とノート。
でも、俺の視線はそれよりも隣にいる彼女に釘付けだった。
ya「 e t さ ん 、数 学 得 意 だ よ ね ?
et「 う ん 、ま ぁ …
ya「 こ こ 、教 え て ?
そっと肩を寄せる。
ほんの数センチ、体が触れただけで息が詰まった。
髪から香るシャンプーの匂いが近すぎて、集中できるはずがない。
ya「 … 顔 赤 い 。
et「 え っ !?
et「 そ 、そ ん な こ と な い し !
慌てる声が可愛くて、思わず笑ってしまった。
その笑顔を見て、もう止められなかった。
気づけば、彼女を見つめていた。
目が合った瞬間、息が触れそうな距離まで近づく。
何か言おうとした彼女の唇に、そっと触れた。
一瞬だった。
でも、世界が止まったように長く感じた。
et「 … ぇ
ya「 … ご め ん 。
それしか言えなかった。
けれど、彼女は何も言わずに、
ただ真っ赤な顔でうつむいていた。
その姿が、胸を締めつけた。
___それから、俺たちは付き合い始めた。
放課後、二人で帰る道。
いつもより少し遠回りして、夕焼けの空を見上げながら歩く。
彼女の手を握ると、小さくて、柔らかくて。
「俺にぴったり」って、思わず笑った。
勉強中、眠そうに目をこする彼女。
文化祭の準備で手を汚して、額に汗を滲ませる彼女。
その全部が愛しくて、見ているだけで満たされた。
ある日、俺の部屋へ招き入れた時。
親が出かけていて、
静まり返った空気の中、心臓の音だけが響いていた。
隣に座ると、指先が触れる。
その瞬間、彼女の肩が小さく震えた。
ya「 … 緊 張 し て ん の ?
et「 し て な い よ 。
強がる声に、思わず笑ってしまう。
そしてそのまま、彼女の手を包んだ。
ya「 ほ ん と に ?
唇が触れるたび、何度も確かめるように抱きしめ合った。
あのときの彼女の瞳の潤みも、頬の熱も、
今でも忘れられない。
世界が二人だけになったようで、怖いくらい幸せだった。
だけど。
幸せの形は、永遠じゃなかった。
いつからだろう。
話していても、どこか距離を感じるようになったのは。
彼女が笑っていても、
その目の奥に迷いがある気がして、俺は言葉を探せなくなった。
ある日の休日。
彼女は話したいことがあると言って、
俺の家に来ていた。
いつもの気まずい沈黙。
この重い空気を切り裂くように、彼女は口を開いた。
et「 ね え 、最 近 …
et「 私 た ち っ 、… な ん か 変 じ ゃ な い ?
ya「 … そ う か も ね。
et「 前 み た い に 話 せ な い 。
何 が 原 因 な の か 、わ か ら な く て …
ya「 … 気 に な る 人 が い る ん だ 。
沈黙が落ちる。
彼女の瞳が揺れる。
俺の心臓も、壊れそうに痛んだ。
et「 え … ?
ya「 ご め ん 。
ya「 … も う 、前 み た い に は 戻 れ な い と 思 う 。
その言葉を吐き出すのに、どれだけの勇気が必要だったか。
本当は、誰のことも気になっている人なんかいなかった。
ただ、自分が彼女に釣り合わなくなっていくのが怖かったんだ。
最初はすごく幸せだった。
できることなら一生そばにいたかった。
でも、現実は簡単じゃなかった。
俺の弱さも、
彼女の優しさも、全部がずれていって。
気づけば、
「気になる人ができた」
なんて最低な台詞を吐いて逃げるしかなかった。
彼女の優しさからも、温もりからも全てから逃げた。
でも今も、時々思い出す。
あの放課後の教室。
「待ってる」と言った俺の言葉に、嬉しそうに笑った彼女の顔を。
それから5年後の冬の夜。
街の灯が滲む帰り道を、一人で歩いていた。
隣をさっきまで歩いていた彼女___
“今の恋人”とは、ついさっき別れた。
「 ご め ん 、や っ ぱ り 違 う か も 。
そう言って彼女は去っていった。
不思議と、涙は出なかった。
ふと前を見たとき、人通りの少ない道に見覚えのある後ろ姿があった。
小さな肩。
冬のコートの上からでも分かる、少し猫背な歩き方。
___etさん。
一瞬、時が止まった。
まさか、こんなところで会うなんて。
すれ違う瞬間、彼女も気づいたように目を見張っていた。
ya「 嘘 だ 。
背中がどんどん遠ざかっていく。
けれど、気づけば同じタイミングで振り返っていた。
視線が交わり、何かを言いかけた唇が震える。
声をかければよかったのかもしれない。
名前を呼べば、少しは違ったのかもしれない。
でも俺たちは、もう“昔の二人”には戻れない。
そう分かっていた。
冬の風が吹いて、髪が揺れる。
その瞬間、微かに漂った。
懐かしい彼女のシャンプーの香り。
変わったようで、何も変わっていなかった。
きっと、あの日のまま。
ya「… et。
シャンプーの香りも、冷たい風も、
俺の初恋とともに消え去った。
コメント
2件
yanくん嘘だったの⁉️すれ違いで別れて、最終的にそのままなんて悲しすぎる、、、 これからも2人ともこんな不幸な人生を歩んでいくのか、、、 心にずしっとくる、、、
yanくん側見れるの嬉しいです…っ まさか嘘だったなんて…😱