gtが恋を辞めようとする話※mbgt要素を多数含む内容です
小学生というのは足が早いとモテるらしい。
実際の所俺は身長のおかげで人より歩幅が広く、足が早く、確かにモテた。
たかが足の速さだが小学生には魅力的なステータスって奴なのだ
まぁそんなこんなで俺は人より多少秀でている部分があって、俺の人生に片手の回数もない告白されるという経験をしたのだ、それもクラスの所謂一軍女子と呼ばれる人からの告白
靴箱の外靴の上にそっとハートのシールがくっついた可愛らしい便箋、中をゆっくり開ければ少し字がまるまっていて所々消したあとが見えるほど強い筆跡で書かれたラブレター
最後の1文には「放課後に図書館の端っこに来て欲しいです」と綴られていた
「わ、私、五十嵐くんのみんなとサッカーして遊んでる時とかの、その、笑顔とか、えと 勉強してる時の静かにしてるところ、?とか、えっとその、全部好きです!!付き合ってください!!」
バッ、っと頭を下げて手を俺の方向に伸ばしてくる
頭をフル回転させて必死に考えて思い浮かんだことを1つづつ単語ごとに整頓させているのだろう
文章としても告白としても下手くそで正直俺的には何が言いたいのかよく分からなかった
そしてこの女子に俺が元から好意を抱いていたかと聞かれるとそんなことはなくって、よく話しかけに来てくれるクラスのまとめ役の隣にいる子という認識
良くも悪くもいい子止まりなのだ
「えっと、俺、…ごめん…そういうのまだよく分からなくって、君とは、友達でいたい」
自分の中で精一杯言葉を纏めて、できる限り傷をつけないように言葉を渡したと、その時も今でも考えている
「っあ、そっか…うん。そう、だよね」
人からの好意が嬉しいとか喜ばしいとか、まだ小学生だった俺には全く分からなくってそんなことより早く家に帰りたくて、目の前の事より夕飯の事を考えてたと思う
「時間取っちゃっ、てごめ…んね」
不意に顔をあげた目の前の女の子の顔を見た時に気が引けるのを感じた
ボロボロと泣いていた
いつも笑顔でうんうん、と頷いているのが印象的であった。その笑顔も今や口角を下げ唇を噛みながら溢れてくる涙を小さいフリルのついた袖で乱暴に拭っている、すごく胸の奥が寂しくなるのを感じた
「っえ、いやその、ごめ」
「ゆい!!」
本棚の影から目の前の女の子の名を呼びながら出てきたのは一軍と呼ばれる中のリーダーの子だった
気の強い子で自分の言いように行かないと少し不機嫌になるような、そんな子。
まだからこそ人を引っ張る力があるんだろうと思う反面強引な人は苦手だとも思うのだ
「五十嵐くんさぁ!!ゆいの気持ち考えてあげてよ!ゆいだってすっごい勇気出して頑張って告白したのにこんなの酷いよ!」
「で、でも」
「もういいよ五十嵐くん、帰ろう、ゆい。」
「っぁ…グスッ、いが、ら、しくん、…、…っ」
少女の友人が彼女の手を引っ張って図書館から出ていく
俺はその時突っ立ってランドセルの肩紐をぎゅっと握ることしか出来なくて、俺は何か悪い事をしただろうか、自分でも言う言葉には気を使ったつもりだ。
でも結果は伴わなかった、泣かせてしまって、怒られてしまった。
好きという感情がどれだけ難しいものなのか、恋という想いがどれだけ辛いものなのか失恋とはどんなものなのかあの頃の俺には計り知れなかった。
中学2年生春、俺は初めて恋をした
初恋の相手は男の子だった
その子の名前は「明森 奏多 (あきもり かなた)」2年に上がって初めて同じクラスになった、元々は顔しか知らない同学年の男子生徒だった
地毛が茶髪がかっていて人より身長がちっちゃく語尾が強くなる癖にタレ目で可愛らしい人並に勉強できるくせにちょっとおバカでいつも寝坊しかけながら自転車通学してくる様なおちゃらけてて、周りを和ませてくれる、人を傷つけずに笑顔にさせてくれる天才だった
そんな彼に惹かれて色んな女子がアタックをしたり男付き合いがよかったりと、よくクラスの中心にいる存在。
それは俺も例外じゃなくて滅茶苦茶奏多のことが好きで好きで堪らないくらい好きだった
でも別に俺自身はそんな好意伝えたいわけじゃなくてただ適切な距離で、仲良くできていればいいのだ
だけどもし、もしも可能性があるなら伝えて、伝わって、結ばれる可能性があるなら
いつか伝えたいとそう思いながら心の中に閉まっていた。
_____息はほんのり白くなるけどマフラーをつけるほど寒いわけじゃない、そんな寒露頃の事
その日は男友達4人で勉強会と称したカラオケ大会をしていた
そのメンバーには勿論奏多もいた
俺達は家の方角が一緒で帰り道を共にすることが多い仲になっていたのだ
その為か春に初めて言葉を交わしたのにも関わらずもの凄く仲のいい、正しく親友と言われる程の仲になっていた。
そこの温度は気さくで二人でいると心地よかった
その反面心の内側で「こんなんじゃない!もっと、もっと!!俺を特別にしろよ!!」と叫んでいる醜い俺もいる。蔑ろに出来たらいいのに二人の時間が増える事に期待がかさ増しされてゆくのがまぁなんとも苦しかった。
「ッハ〜!やっぱ奏多の歌うめぇから聞いててめちゃ気分良くなるわ!!」
「うぇ〜?まじ?マジ?ぐっちに言って貰えると自信出るわー!俺も聞き惚れちゃったぜ♡」
奏多は乗ってきた自転車を押しながら自転車よりちょっと後ろに歩いてる俺に向かってバチコンウィンクを決めてくる、こういうおちゃらけている所も魅力だ
「そいや、あいつの歌ってた曲何だったんだろうな」
「んぁ?どの曲の事?」
ふと奏多が自転車から片手を離して頭の横で回転させ出した
「あ〜ほらほらサビに『あなたのことが好きで好きで堪らないのだ、死ぬほど好きなのだ、だけどあなたにゃ届かない届かせない〜』みたいなカラオケMVが本家のやつだった、あのやつ」
「あ〜、あのMVがアニメだったやつ?」
脳を回転させるまでもなく1番思い出せる引き出しに入っていた曲を再生させる
あの時代じゃあまり見ないカラオケで本家MVが流れるタイプのやつで歌詞もMVも斬新で
「そうそう!!曲の最後で女の子同士がキスするやつ、あれ攻めてるよな〜、リズムめっちゃ好きだったんにMVのせいで見れそうもねぇわ…」
“見れそうにねぇわ”何故かその言葉にトゲを感じた俺に言われてた訳でもなんでもないけど背中にツゥーっと季節外れの汗を感じる
「なぁ奏多」
「ん?なぁにぐっち」
「奏多って同性愛って嫌い?」
脚を止めることはせずに淡々と、まるで思ってもないかのように発しよう。いつものネタ、おふざけの様に
「うぇー?むずくねそれ?嫌いとか、好きとかそう言うもんじゃないっしょ、てかまずそんなやつ現実にいないしちょっときめぇって言うか」
少し首が締め付けられるように感じた
「んじゃさ、もし俺が奏多のこと好きっつったらどーすんの?」
「…ッハハ!!ぐっちぃ〜!!なんでそんなこと言うんだよふふっ、ひっ…ないない無理無理、ないってっ、フハッだってぐっちじゃん!!クソデカ声低お口から生まれた五十嵐きゅんじゃんか!!抱き心地悪そうだしふふっ、ハッ、っぁ〜おもれぇよぉ…ふふっ」
自転車を押す前の背中がもの凄く遠く感じた
奏多の震えてる肩を見て心の中の誰かが叫ぶのを泣くのを感じた
目の前が、ぼやけていく感覚に陥った
あ、これは、ダメだ、だめだ、涙腺がダメになっちまうと思った
不意に下を向いて蹲った
「え?ぐっち、?どした…」
背後から聞こえてた足音が無くなったのに気がついたのかはたまた普段から口にする野生の勘か、そんなのこの俺には全く関係なかった
「わりぃ靴紐ほどけちった」
「んぉいいよいいよ待つ待「いや、そう言えば俺今日帰ってくる時牛乳買って来いって母さんに言われてたわ先帰って」へ?着いてこうか?」
「大丈夫1人で帰れるから」
もういい、もう行ってくれ、下を向くな優しさを振りまくな。
「ん〜、暗くなんねぇウチに帰れよォ〜」
そう言うと奏多は自転車に跨ってそそくさと行ってしまった
買い物なんてあるわけない
だって勉強会で家出てんだぞ、バカ、解けてない靴紐を無意味に弄るバカ、ばかやろう
奏多は男どうこう以前に俺がダメだと。無理だと言ったそりゃ同性愛に寛容な世の中じゃないとは思う
もし、もしも男が嫌だと言ってくれたならまだきっと俺の中身が「俺を惚れさせてやろう」とでも考えてまたゴミみたいな計画を立てたであろう
でも違うおれがだめだった
俺の容姿も声も体格も全てダメだったのだ
もう、何もする気が起きなくて、たったと家に帰った
そして俺の春は呆気なく、想いも伝える事もなく終わった
蹲った時にふと脳裏を過ったのは小学生の頃振ったもう苗字しか思い出せない、俺に想いを伝え泣いていた女の子の姿だった
そして俺はまた同じ過ちを繰り返そうとしている
『 』と言う俺の汚い部分を丁寧に梱包して雑にダンボールに投げ入れた感情を
_______
「ってな訳で、おつかれさんっした〜!」
今日も今日とてかっ飛ばしにかっ飛ばした配信、今日は某イカ塗りゲームをらっだぁと雑談配信とも称しながら遊んでるいた
「配信切ったぁ?」
「おう、切ったぜ」
配信を切ろうが切っていなかろうが互いのテンションが変わることは無く普段通り穏やかながら多少深夜テンションのせいでバグった脳みそ共がここに居る
んまらっだぁはいつだっておかしい奴ではあるんだが
「ぐちつぼってこの後予定あるー?」
「いや、とくにゃねぇけどなんかやんの?」
「んじゃ明日お前ん家行くわ!!」
「お〜おーおー、巨匠出てんねぇ、んまのわりには今日聞いてくれんのね」
別に住んでるところがすげぇ遠い訳じゃなくって行こうと思えば行ける距離に互いの家がある
「なんかさ〜こう、リアルで会うのと通話って温度感ちがうやんっぱそうなると会いたいじゃん」
「ハハっ寂しがり屋さんかよ、いいよ〜う。待ってるわ」
「うーい、んじゃまたねーん」
そうして3秒もたたぬうちにパソコンはポロンと言う1つの音を奏でて通話相手を表示しなくなった
内心バカクソ嬉しい、それもあの計画性もクソもないらっだぁから直々に『明日そっちに行く』と言ってくれたのだ、嬉しくないわけないだろ
まぁ明日行くと言う計画を聞いたとて、何時に何をするだとかは全く言われていない事には目をつぶろう
「にしてもなぁ…」
誰かいる訳でもない防音室でボソボソと言葉を転がす、配信が終わってからまもなく数件新しいクリップが出来上がっていて、切り抜くところもタイトルも秀逸で流石うちんとこのリスナーだよなぁと感心する
こんな平凡で楽しく、まるで特別かのごとく俺を扱ってくれるらっだぁにはいつだって頭が上がらん、まぁ本人には口が裂けても言いたくねぇし言う気もねぇけど。
だからこそこの不要なものはゴミ箱へ捨てるべきだといつだって考えている。
少し考えればわかることだがらっだぁは配信者としての顔が広い、普通の人なら大手としかコラボしなくなる程には。
まるで思考回路がガチ恋オタクのそれではあるがあながち間違っちゃいないとも思う、実際俺はらっだぁに持ってては行けない劣情を抱いているから
そこまでわかっていて捨てないのはきっと、いや絶対自身の弱さなんだろう、ずっとこんな事がぐるぐる脳みそを駆け回っている。
「ぬぁああ…埒が明かねぇ!!」
いや知らねぇよ!こっちだって色々してやってんだろ!多分!!知らねぇ知らねぇ!!おりゃもう考えることやめっぞ!!
ドスドスドンドンスリッパを鳴らしながら、いやこの言い方は語弊が生まれる
心の中ではドスドス怪獣のように足音を鳴らしながら某進撃する巨人バリに地ならしを起こすが、実際はご近所さんに迷惑かからない程度のトストストントンとスリッパを滑らせていた
「今日はもうなんも考えてやんねぇ!ざまあみろ脳ミソ!!」
要らんことを考えさせる脳みそに文句を言いながらシンデレラの魔法が完全に消えている時間
歯を磨き俺は床に着いた
ポロロンピロリンと繰り返すクソうるさいスマホのアラームで目を覚ます
現在時刻は朝の8:15、何故俺がこんなに健康的に生きてやってるかと言うとらっだぁがいつ来るかが分からないが1つ、散らかった部屋を片して身支度を済ませないといけないのが1つ、朝日に全身を浴びせさせて輝く俺というシチュエーションを久々にしたかったのが一番の理由だ
メガネメガネと何時もメガネケースをどっかに置いてはどこに置いたか分からなくなる現象に名前をつけたいと感じつつぺたぺたとベッドサイドのテーブルに手をやる、あやべぇレンズ触っちまった
起きたくない反面もう起きなきゃいけないという悲しい責任反面軍配は流石に後者に上がる事となった、クソ、マジで何事もやる前は面倒なんだよな…
でもまぁ起きちまったらなんてことないのが人間と言うか俺というか俺天才というか。
はっきりしてきた意識をグッとかっぴらいて昨日脱ぎ捨てて片足がシンデレラしたスリッパを何とか見つけ足でずりずりしながら風呂場に向かう
もっくもくのシャワールーム内でふと俺は思う、今この瞬間に怪獣が来て、地震が起きて、強盗が入ってきて、全裸のまま家の外でなきゃいけない可能性ってあるんだろうかと…別にあるわけないっちゃないけど全てを否定できる程の根拠は誰も持ち合わせていないわけで、そういった妄想を一通り終え全身綺麗になった自分の美しさに震えながらクソ寒い洗面所に足を踏み出した
「んぉっ、やっとでてきた、はよ〜」
、、、?
「、キ、キャアアアアアアアアォオ!?!?」
「ふへっへへ、そんな驚く事あるぅ?お前俺に合鍵渡してたじゃんか」
ガチャっと洗面所のドアが開かれ、らっだぁがド全裸の俺がいた洗面所にズケズケ入ってきた、ほぼこいつが恐竜だろ、災害だろ
まさかオートロックマンションで部屋の鍵もってるからと言って1度や2度しか見たことないであろうパスワード覚えてるとは思わず半分腰を抜かした、まずいこりゃ子鹿だ
「うんえっとうん、と、とりあえずリビング行っててくんね??おはよう??」
某ネコ型ロボットアニメの女子バリに甲高い声を出した気がする、と言うかバスタオルの使い方すら某ネコ型(以下略のソレでわんちゃん俺は前世しずかちゃんだったのかもしれん
「いっひーっ、ッハーおっけえリビング行ってんね」
ひとしきり笑い終わったかのようにらっだぁは洗面所の扉をきっちりしめ足音はリビングに向かったように感じる
いやまさかこんな朝っぱらから突撃されるなんて夢にも考えていなくって正直脳みそが困ってはいる
なんでこんな早くから来たんだ、と言うかまず彼奴はなぜズケズケと風呂場に入ってくるんだ、普通に考えて家主が部屋のどこにも見えなかったら洗面所に来たとて声かけるしなんなら入ってたらリビングとかで待ってるもんじゃねぇの??
考えても仕方ない物を考えても結果は見えないってのが結果として生まれたからもうなんも考えずに用意していた下着を着る、生憎どうせまだ来んし独りやろ!!ガハ!!とらっだぁばりに余裕をこいてた性で下着以外を用意していなかった
色々と大問題に発展しているがもうなんかこれ以上脳みそを働かせると可哀想な気がしてきたからさっさとドライヤーを取り出し髪に熱風を押し当てた、ちなみに雑に髪の毛をセットするせいでいつだって髪の毛は冬の小鳥かのごとくごわっごわだ
「ったっくよォ…まさかこんな早く来るとか思わねーっつの…」
大方水分を吹き飛ばしたあとその辺に置いた眼鏡をかけ一旦らっだぁの様子を見にリビングに向かう、正直今すぐに寝室から着替えを持ってきたいけど流石に客人ほっぽって置く訳には行かない、その相手がらっだぁでも俺は誰よりも優しい男だから仕方なく茶でも入れてやっかと思いながらルンルン気分でリビングへ足を向けた
ガチャリ、リビングのドアを開けるとボケーッと2人がけのソファーでスマホをいじくっているらっだぁが現れる、雑に靴下は脱いであっていつもつけているマフラーは紺色の厚手のジャンパーと共にハンガーにかけてあった
「おーい、風呂出たぞ、てかくんの早くね?」
「いやぁなんかノリでアラームセットしたら滅茶苦茶早く起きれてどうせなら朝っぱらから行ったろガハ!って事で来たんよ」
「あーね、いやまさかこんな朝っぱらから来るとは思わなくてなんも用意してねぇよ…まじで即行動にも程がありすぎるだろ…」
ノリを付き合わされる俺の身にもなってくれよ…と心の中で苦笑しつつキッチンに向かう
「ね〜飲みもんドクペと烏龍茶と水しかねーんだけどどれがいいー?」
「うーろんちゃ〜」
「あいよぉ〜」
生憎俺の家に客人に出すようなイカした飲み物もティーカップ的な何かもないので未開封の烏龍茶をプラスチックのコップに淹れる、あっ氷入れんの忘すれた。
とりあえず後入れしてみるも溢れそうなほど表面張力がぷるっている…いったんすすっちまうか、?
関節、キ、いやまぁ、?零して拭くより断然いいし?てかコップに口つけないで啜れば実質飲み痕ないし関節キスもクソ無いよな?うんそうだよきっとそうよしそうときまりゃ
ズゾゾゾッと風呂上がりの1杯をいただく、やっぱ風呂上がりにちゃんと、?水分とると体に染みる
「あーい持ってきたぞぉ」
「あんがと〜…っておい!!!?」
「んだよ、烏龍茶やだった?」
「いやいやいやそうじゃなくて服!ふく!なんで下着だけなんだよ」
やっとスマホから顔を上げて俺を見たのか服を着てないってことだけで発狂しているらしいなんだァ?照れてんのか?
「別に髪は乾かしたし一応客人なんだし、何も出さないまま長時間待機させんのはダメだろ」
「なぁんでこういう所は行儀いいのお前…風邪ひいちゃうし体冷やしちゃうでしょ!部屋着でもなんでもいいから来てこいって!」
「うぇぇ〜…?」
背丈は俺のが高いがジムに通ってるしちゃんと飯食ってるらっだぁは体ががっしりしてるらしく簡単に俺のことを廊下に押し出した、もやしに見えるくせにちゃんと筋肉あるところがムカつく反面かっこいいと思ってしまう俺はきっと末期患者なんだろう
一旦着替えるために寝室に足を向けるこんな内心も態度も面倒くさそう前回な割に足が軽いのは正直本当に認めたくは無いが嬉しくて嬉しくてたまらないのだろう、ああどうしよう顔が熱い、嬉しい。でもきっとそういう考えを世間は許してくれないだろう寛容になった世の中にも善し悪しはあるのだから、火照った頬をすっと表情ごと鎮める
着替えるといってもこれから何をするのかも知らんので一旦上着を羽織れば外に出れる格好にする
黒いくて中央にワンポイント白があしらわれてる少しダボついたトレーナー、緑がかったジーンズ、外はまだまだ寒いので中にはヒートテックを着ておくのがこの時期の見えないワンポイント
そんでいつものキャップを被れば全世界も大喜び、愛おしい俺の爆誕って訳
「で今日なにすんの?」
「うーん来たはいいけど予定考えてねーんだよなぁ」
とりあいずこれ食べる?と言って渡されたコンビニで買ったであろう鮭のおにぎりを頬に含みながら会話を続ける、自分の分だけじゃなく俺の分も買ってくれるのは素の優しさだろう
「ん〜、じゃあさ、映画みにいかん?家いるのも別にいいんだけどせっかく来たんだしたまには体動かそうぜぇ」
「てかふぉえほこほ、っング…俺の事外に出したいだけだろ」
この時代映画なんてサブスクで家でもどこでも見れる時代だからこそなんだかわからんが映画館で見るって事に意義があるのだろう、実際らっだぁは見に行きたいと言ってるわけだし
だとして社会不適合実況者の俺にゃ関係ないっちゃないのかもしれない
「てか正味映画見たいって言うより映画館でポップコーン食いたい」
訂正多分こいつほんとに雰囲気感じながらポップコーン食いたいだけだ、でも実際俺もあの雰囲気で食うポップコーンは好き
「まぁポップコーン食いに行くのはありではある」
「やぁりぃ」
「んで何見に行く?映画って言っても俺今何上映してるか知らねーよ?」
「ん〜まっ、それも行き当たりばったりって事で!」
「適当だなぁ、まダラダラしててもしょーがないし一旦家出るか、あゴミはちゃんとゴミ箱に捨てろよ〜」
「あいよぉ」
時刻は9時24分、今日はなんだかなんでも出来る気がする
ヒューっと寒い風が頬を撫でる、冬と春の季節の境目の2月下旬、なんとなくあの寒露頃を思い出す。
隣に並んで歩くらっだぁの姿はいつもの画面越しなんかより近くて暖かくて変な話だが生命を感じた
最寄りの駅から2駅先のビルに映画館が入っていて俺達はそこを目的地に最寄り駅まで歩いている
お互いに話したい時にだけ声をかけて、それ以外黙々と歩くこの時間が案外好き、と言うか俺は2人で通話してる時でも互いの存在を目視している時もただ静かに居る、という事が、いや違うな、らっだぁと一緒にいる時間はどんな状況であれ幸せってやつなんだ
独り善がりではあるがらっだぁが同じ気持ちだったらいいなだなんて思ってみたりもする、ま結論は独り善がりに落ち着くんだがな
「ねねぐちつぼ」
「なんだいらっだぁ」
「ぐちつぼはさなんか今欲しいものとかあんの?」
「欲しいもの?」
「そ、欲しいもの、別に無いならそれでいいんだけどなんて言うか、さっきね〜ツイッター見てたら『バレンタインあげ損ねたからその人の欲しいもの聞いたら自分だったやばい手汗止まらん』的なツイートが流れてきて」
「エックスだしポストな」
「はァ?なん、なに?お前反逆者??」
「んな馬鹿な、俺は正義のヒーローだぜ!…うーん欲しいものねぇ」
お前の隣にいる権利が欲しい
お前のことを最前列で見る権利が欲しい
ずっと一緒にいるって言う言質を取らせてほしい
お前を好きって言う許しが欲しい
こんな俺を見捨てないって、言って欲しい
ああどうしようこの空っぽの脳みそは自分の欲しいものを全てらっだぁに置き換える、らっだぁを求める、馬鹿らしい馬鹿らしい馬鹿らしい!!
そんなこと思ったって伝わらないし言う勇気も無い癖に
「おーい大丈夫かー?」
「よし、決まったぜ」
「お〜すげぇだんまりだったからぐちつぼくんにはそんな難しい質問だったかと」
「んでそんな小馬鹿にした言い方すんだよォ、まぁ実際今欲しいのはあれだな、金と時間」
「長考した割には夢がねぇな夢が、愛とか恋とかハートフルなやつ言えよ」
「えぇキャラじゃねぇよていうか金と時間があれば愛なんてあとから着いてくるだろ」
「ウーワかっこよ…いやまぁ実際そう言うもんかね」
金があれば引き止められる、円滑に進められる
時間があればあるほどお前の事をずっと考えられる何かをするにも考える時間をくれる
どう頑張っても繋げちゃう所を未練タラタラながらぶっちぎった産物なのだ
「てからっだぁはどうなんだよ、今欲しいもんねぇの?」
「うぇ…映画館のポップコーン、バター醤油とキャラメルのやつ」
「いや愛じゃないのかよ愛であれよ」
「どっちも買うわ」
「じゃ俺バター醤油〜」
「んふふ、いいよ半分こな?」
「くっそ独り占めできねぇのかやられたぜ、まぁキャラメルも食べたいから半分な」
本当に今から映画を見る気があるのかポップコーンの話しかしないしどんな事でもポップコーンに繋がる、こりゃ陰謀論だな。まぁだとして互いに好みが似ているのはありがたいもんだ
鼻先が冷たくなる北風もなんだか暖かく感じる、緩やかな魔法のような声、今だけはあの寒露を忘れられる気がした。
「ね〜ぐちつぼ、結局どっちにすんの映画ぁ」
鼻腔を擽る映画館特有のポップコーンの甘い匂いとなんかよくわからん落ち着く化学変異が起こった匂い
んーコレコレたまらん、として今俺たちは2本の映画の上映時間に間に合いそうでうーんうーんと頭を悩ませていた
「いや流石にポップコーン食いに来ただけっつってもまさかシリーズ3作目のロボット物と内容が甘ったるいって言われてる恋愛ものしかないとは思わねぇだろ…」
「うーん調べてみたけどこのロボット物前作ちゃんと見てないと全く内容理解できないらしい」
「んじゃもうこの甘ったるしかねぇじゃん…いやまぁいいんだけどさぁ」
「まぁまぁどうせポップコーン食いに来ただけだし眠くなったら寝りゃいいじゃん」
「まそれもそうだな、お前が寝てたら是が非でも起こしてやっけどよ」
「んだとゴラー、とりあえずポップコーン買ってくるわちょっと待ってろーん」
「っぇ、ありがと」
こういうちょっとした気遣いが好きだ、自分のしたいことだから、とかついで、とかよく言うけどあいつはいつだって決して空気が読めないわけじゃないし自分本意すぎることだってない
「好きだなぁ」
燻っていく感情に名前をつけるべきでは無い、そんなのはとうの昔に理解したことだ
だとしてこの想いを理解しないでおくだなんて難しすぎるのだ、ポップコーンを買う列に並んでるらっだぁをじっと見つめる。あ、あくびした
食べる暇がないとでも言おうか、この映画
いざポップコーンを買って上映時間ギリギリで滑り込んだ映画、題名は何だったっけな【君と過ごす甘いうんたらかんたら】的なやつだったはずだ
この映画、終始静まり返っているのだ、まさか音が聞こえない少女目線の話が書かれるなんて思わないだろ
隣でふんぞり返ってるらっだぁなんて音がした時ムッシャムッシャポップコーンを食らう化け物だ
偶によっしゃうるさくなると思ってポップコーンを鷲掴みして食べようとするまさか途中で音がシーンと静まり返ってポップコーンを食べるモサモサ音が響き渡った時なんて目配せしながらお互いぷるぷる震えてた
なんだよお互いやらかしたよ
それもそこそこ席が埋まってて俺達は最後列から1列前の席の真ん中よりちょっと左によってるくらいの席なのだが最後列の右後ろにいるカップルがこれがまぁボソボソと煩いと言うか多分静かにやることヤってる気がする
こんなカオスな状態で静かに映画を見ろという方が難しいのではないかという疑問まで生まれる
この映画、レビューを間違えてんじゃねぇか?
甘々と謳われていたとても可愛い映画と聞いたハズなのにその要素は最初の1時間程だけだった、そっからは耳が聞こえなくなった原因を探したりだの好きだった男の子が急に学校に来なくなったりだのもうすげぇのなんのって
隣でほぼキャラメルポップコーンを食べ終えたらっだぁはもうグースカピーピーと惰眠を貪っているし後ろのカップルは途中退室してもう後方で居座って映画を見ているのは俺だけになってしまった
寝てたら起こすぞとは言ったもののあまりにも幸せそうに寝ているから声をかけることも出来ずにただ長く胸がきゅっと締め付けられる映画を淡々と見ていた。
あれからどれくらいの時間が経っただろう、この映画くそ長ぇほんとに長ぇ
多分これ3時間超のタイプだ、開始1時間程で寝たらっだぁは未だにマフラーにヨダレを与えながらスピスピ寝ている
あーあいつも使ってるマフラー汚しちまってさ、可愛い顔で寝がやって、このやろめちゃんと起きろっつのぉ
スクリーンの光で照らされる寝顔があまりにも綺麗だからまだ起こすのはやめておいてやろう仕方なく残ってるバター醤油ポップコーンをちびちび食べる
にしても悪趣味な映画だ、純愛に見えるけど見る人によってはこれはあまりに真っ暗で辛い話だろう、実際俺はもう見ていたくないくらいだ
原因はヒロインの親友ポジションにいる少しなよなよしてる男の子、光太と言っただろうか
そいつが見る人が見ればヒロインの相手役だと思われる相手に好意を寄せている描写がなされているのだ
別に男の友情で片付かないこともない
本当に人によっては見える程度だ、近くにいるのに何も言わない言えないその苦しさが尋常じゃないことを俺は知っている
『光太!もう楓にちょっかいをかけるのやめろよ!!迷惑なんだ!!』『ま、待ってよ凛 俺別に楓さんが好きとかそういう事でもない』『好きなんてこと言ってねぇだろ!やっぱり!!やっぱりお前も楓のこと好きなんだろ!?』『ちがっお、俺が好きなのはっ』『もういいよ、どうせ皆楓の事わかってやれないどんだけいつが苦しんでるか分からない癖に…!!好きとかどうとかもう要らねぇよ、一旦距離置かせてくれ、俺もうお前と居たくねぇよ』『っり、凛っ、!』『り、ん、く?ど、して、こうたくんと、』『楓…!なんでここに』
ほろり、重力に逆らわず俺の瞳が溢れる目尻が暑くなっていく。なんでこれがヒットしてる映画なんだろう。光太はなにか悪い事をしたんだろうか
別にヒロインをいじめてた訳でも何か罪を犯した訳でもない、ただ好きだっただけ。それの何が悪い事だったんだろう
睫毛に水滴が引っ付くのを感じる、ポケットに雑に突っ込んでいたハンカチを取り出す。
別に何が悲しいだとか辛いだとかそういうんじゃなくってただ涙が止まらなかった、あのかじかんだ指先を未だに覚えている、体の内部から毀れてくる失笑を、歪んだスニーカーの靴紐も痛いくらい寒い耳も通っていく子供達の笑い声も全部、全部覚えている
フラッシュバックって程でもないし、トラウマって程でもない、なんでもない初恋を哀れにも重ねているだけ。
映画も終盤、楓と凛が放課後屋上でごろごろしているシーン
もうここは属にいう日常パートのもう話を折りたたむ所だろう、長く苦痛だった映画がやっと終わるのだ
あのシーンから俺の涙腺は決壊したのかずっと瞳が熱い、情けない顔で泣いているんだろう、鼻を鳴らさないように必死にこらえすぎたせいでコキュっという変な音が喉から鳴る、悲しく堪らない、あまあまってなんだよ、あのシーン見てからもうずっと楓と凛のイチャイチャが戒めにしか感じない!
あーこんな事ならわけもわからんままロボット映画観るんだった、ほ〜んとバカ、失笑とも取れる笑いが零れる
「ぐ…ちつぼ?」
ふと肘掛に置いてた肘に感触を感じる
「ぁ、おきた?まだ上映中だぞ、静かにしときな」
「いや、そういうのじゃなくてなんで泣いてんの」
暗闇の中ヨダレも拭かずに俺の頬に手を伸ばす
俺の頬より幾分か冷たい手のひらが溢れていたものを拭った
「…そー言う展開だったんだよ」
俺がふにゃりと表情を緩めるとらっだぁは逆に顔が強ばった
「もう終わんのこれ?」
「多分展開的にそろそろ終わると思う」
「そ、」
何時の間にか決壊しっぱなしだった涙腺もゆるりゆるりと治って行った
俺の予想通り体内時計5分弱でエンドロールが流れ始めた、席を立つ人もちらほらいたが恐らく本編後のおまけがあるんだろう、ほんとに数人しか退出してなかった
「出るよぐちつぼ」
「うぇ?」
クイッ袖を引かれる、食べ終わったポップコーンのカップを重ねてらっだぁは席を立った、えっお前最後まで見ないタイプ?
「ちょっ、まって」
急いで上着とカバンを持ち直してらっだぁに続いて席を立つあいつ慌ただしすぎるだろ
エンドロールの曲を耳に垂れ流しながらスタスタ出ていくらっだぁの後ろ姿を追いかけた、後方の座席はもう空っぽだ
「おい、らっだぁ待ってって、はええよぉ」
「んわり、とりあえず上羽織んな」
「言われなくても着ます〜、てからっだぁってエンドロールぶっ飛ばす派だったっけ?」
「あ〜いやなんて言うか腹減りすぎてこれ以上あそこ座ってたら腹の音豪快になってたし正直内容わからんからおまけ見たところでってかんじ?」
「あ〜ねまぁ甘ったるいってほど甘くはなかったけど悪かなかったぜ」
まぁもうこの先一生見るこたねぇだろうけど
「あっそう?ま今度食いに来る時はちゃんと調べてから来よ」
「映画見に来るが前提じゃなくて食いに来るが前提なのね、まいいよまたこよ」
電源OFFにしてたスマホの電池をつける、現在時刻は13時10分
「な〜今1時10分なんだけどこれから飯食ってどうするぅ?」
「うーんまぁ一旦の事は飯食ってからでいいんじゃね?てかぐちつぼ今日って配信予定あったっけ?」
「ん〜?予定はねぇよ」
「よしゃ、じゃ久々に飲まん?」
「あ〜酒?いいよ」
「よしゃ〜い」
「因みに店どうするよ」
「店より宅飲みの気分なんだけど〜」
「お〜了解じゃ一旦飯食って時間あったら適当になんかしようぜ」
まだ静かな映画館の廊下、また次がある事に内心喜びを覚えながら適当に選んだ飯屋に検討をつけて足を向かわせた
「にしてもさー」
「ん?」
「なんか映画で泣くぐちつぼとか初めて見た気がするっていうか初めてじゃないか、珍しいなって思ってそんな悲しいシーンだったの?」
「あ〜いや、多分人によるんだけよ、あっピザもう1枚貰ってもいい?」
「ん、いいよー」
適当に入ったイタリアンレストラン、ここ結構飯うめぇなと思いながらマルゲリータピザを口に含む
「ッンウメいやさ内容的にはハピエンではあるのよ?」
「おん」
「でも途中のシーンであまりにも報われない子が出てきてその上最後までずっと救われなかったんよ」
「あ〜終わったあとモヤるやつね」
「そ、んでなんて言うかちょっとその報われなかった子に感情移入しちゃってボロボロ泣いてたって訳」
「はぇ〜ん」
何を考えているのかわからん顔でピザを1枚取り頬張るらっだぁ、美味そうに食ってくれるからいいちゃいいけど自分で聞いた癖にそんな興味無さげなのがムカつきポイントだ
「んでもさ〜ムズいよねそういうの正味見る人の視点によっちゃどの話もバドエンだしハピエンだもんなぁ」
「ま、個人的にゃあまあまには見えなかったってこった、てかこれからどうするよこのまま酒買って帰っか?家に多分ほろ酔いしかねぇ」
「ん〜そね〜もうべろんべろんに酔うまで飲もうぜ」
「お?じゃどっちが先に潰れっか勝負でもするか」
店内のBGMも相まってお互い上機嫌で食事をした、まぁ話してる内容はそこそこ野蛮だが…まぁ全ては飯が美味いということにしておこう
現在時刻は14時4分
ゆったり飯を食べたからか普段よりは長めの昼食になったがまぁ麗らかな時間を過ごしたとでも言おうか、一旦酒を買って家に帰ろうということになったから今向かっている映画館のあった駅から1駅と3キロ程の位置に属している酒屋を目的地を設定した
「にしても寒いよなぁ」
「うーん風強いから仕方ない」
太陽が面隠ししているせいか風が冷たくスーッと首元が寒くなる、マフラーでも巻いときゃ良かったなぁだなんて思う、冷えた指先を吐息で温める
「ぐちつぼ寒い?」
「うーんちょっと寒いな首元スースーするわ」
「ん〜ちょっとこっちよって」
車道側を歩いてたらっだぁに1歩ほど近寄る、そこまで変わらない視線を交える、じっとこっちを見ながら自分のマフラーを解くそんでらっだぁ自身の方にちょいちょいと指を動かす
とりあえずもう半歩近寄る
「ほ〜い動くなよ〜」
そう言いながら道の隅に人に邪魔にならない程度に固まる、いやマフラー俺にかけようとしてくれるのはわかるけど見た感じらっだぁは首元まで覆うヒートテックを着てるがだとしてマフラーが無くなれば寒いだろう
「いやマフラー大丈夫よ?」
「いーのいーの俺が熱いだけ俺が熱いだけ」
そんなことを鼻の先を赤らめながら笑顔で告げるらっだぁに俺はもう黙って頷くしかできない
くるくると巻き付け後ろでモゾモゾしてくる首筋が少し擽ったい
「よおしできた、うんうん、赤似合うね、かわいーよ」
「かわっ?趣味悪ぃな、いやま、うんありがと、てからっだぁ寒くねぇ?大丈夫か?」
「だあいじょーぶ熱かったから平気平気じゃいこか」
「ん」
視界の下に現れた赤色に頬を桜色に染める、らっだぁが使ってたからかほんのり温度が残っていて暖かい、スゥっと深呼吸をするとらっだぁん家の柔軟剤とらっだぁの香りが混ざってる香りが肺に充満する
いや待てキモイぞまて待て待て友人のマフラーhshsするの気持ち悪すぎるだろやばいやばいやばい
桜色頬が紅に染る、らっだぁの方をちらっと見るとまっすぐ前を向きながらポケットに手をツッコんでいる
ほんともうガチでこっち見ないでくれ
自分の行動が全て恥ずかしすぎてマフラーに顔を埋めた
「散財しすぎたくね、?」
「いやそれな」
両手に死ぬほど重たい紙袋をお互いぶら下げながら帰路に着いていた
紙袋の中にはいかにも高級そうに梱包されている2本日本酒が入っている紙袋がひと袋、そんでもって日本酒2本の倍の値段したワイン2本の紙袋がひと袋
どういうことかもうお分かりだろう、そう店主の口車に乗せられて爆買いそして散財した愚かな生物の姿だ
「これさ、多分味わっていい飯と一緒に飲むやつよね」
「そうだね、絶対柿ピーつまみにするもんじゃないし酔い潰れるために飲むやつじゃないね」
「ッスー、なんかスーパーでよさげなの買って帰る、?てかぐちつぼん家に飯とかつまみある?」
「ねぇなあったとしておやつカルパスとラムネ」
「うーんつまみじゃねぇな…嫌でも正直この状態で買い物行くのだるくねぇ?」
「マジでそれはそう、もうUberするべ」
「するかぁ…」
日も陰ってきてこの時期すぐ日が落ちるからしょうが無いが所々街灯が灯り始めて人工的に暖かい光を浴びせる
実際もう息が白くなってきて結構寒い、そろそろマフラー返した方がいいなと思う、項といい鼻先といい結構赤く染まってる
「らっだぁマフラーあんがと、返すよ」
「ん、大丈夫?もういらん?」
「おん滅茶苦茶暖かかったし触り心地良かったよ」
「んふふそりゃよかった、結び方遊んでみたんだけど別に平気だった?」
「ぁえ?なんかしてた?」
「うん、ちょっと待ってろ写真撮っから」
1度紙袋を地面において人がまばらな歩道の端に固まる、ついでにらっだぁも紙袋を置いてスマホを取り出した パシャッ
「ほれ」
後方から撮った見せてくる、そこに映し出されていたのはパッと目を引く赤色と帽子のつばの黒
だがそんな色なんかよりマフラーの巻き方のが目が行く、リボン巻とでも言っただろうか、よく小さい白い服きたお嬢サンがしてるの見たり見なかったりする
…いやちょっと待て俺みたいな高身長イケメンがやってたのか?この?巻き方を?
「はァ!?なぜ言わない!?これで酒屋とか行ってたって事!?」
「んっへへ結構似合ってたよ、てか暖かかったっしょ?」
「ウワダッル!?いやあったかくはあったけどさぁダルお前!!…流石になんて言うか、サぁ…俺女じゃないし…キツくね、?」
「いーやキツくないね別に、てかどーせなら家着くまでしてきゃいいじゃんほれほれ行くぞ」
「もうまじかよ…マフラーはありがとではあるけどさぁ…いやちょっと待って俺この巻き方解き方わからんが?」
「ガハハ!それで家に帰るんだな!」
「マジ!?」
そそくさと紙袋を持って前に歩いてくらっだぁ、なんというかもう色んな恥合わさってもうなんか下を向いて歩こうでしかない
本当に今の今まで何も気が付かなかった自分の鈍感さと言いもうなんかもう本気で死にたいマジでもう滅茶苦茶に死にたい、にっこにこルンルンで前をゆくらっだぁに俺の内部の殺意と愛がチャンバラごっこしている、ああ殺意が僅差で負けやがったちくしょう
「ッハー寒かったぁ…暖房つけてい?寒すぎて死んじゃう」
「部屋行くより先に手洗ってからにしろ〜、マフラー返す〜あってか俺のスリッパ!!」
「へっこっちの方が履き心地いいんだよーだ」
ガチャガチャやいのやいのしながら玄関で靴を脱ぐ、家主より先に部屋に入るらっだぁは俺のスリッパを勝手に履いて上がっていく、帰ってきた途端家が五月蝿くなるんだからご近所さんもたまったもんじゃないだろうなぁとか思いながら俺も必死に足でスリスリしながらスニーカーを脱ぐ、というか脱げない、えまじで脱げないんだコレ
「んだとこんにゃろ脱げろってんだ」
さっきより力強く右足の踵に左足の踵をグリグリする……っとやっと脱げた
そのまま右足の踵もグリグリする
っと脱げ
「ッヘッ!?」
バタンッ …靴は脱げはした結論だけ見ると靴は脱げたここが一番大事ではある
「ちょっとお?滅茶苦茶やばめな音したけどどし、え大丈夫そ?」
結論だけ言わないなら今俺は何がどうしてこうなったかひっくり返ってすっ転んでいる、グリグリした時に思いのほか手前に力を入れてたせいか靴があらぬ方向に飛んでいき俺がぶっ倒れたって訳
まぁ結論を言うなら靴は脱げた
「靴は脱げた、ミッションコンプリートだ」
「おっけー大丈夫そうね、一応頭は見せて、てかほらね?マフラーまだ巻いたまんまでよかったじゃん」
「それはそれこれはこれよ、てか起こしてくれぇ」
「あいよぉ」
そういうとらっだぁは仰向けでぶっ倒れている俺に両腕をぶら下げてくる
その手をグッと掴んで上半身を起こす、というかこいつもう上着とか脱ぎ散らかしてんのか早すぎだろ
そんなこんなしながら来客用のスリッパを俺が履く、マジでなんでこいつ俺の履くんだよ
色んな愚痴兼感謝を募りながら外気のせいでクソ冷たい冷水で手を洗う、この時期の手洗いが1番苦手だ、部屋の中にいるのに手が悴む
「らっだぁマフラー解いて〜」
「おけーこっち来てー」
リビングに向かうとらっだぁが朝とは違いソファに座りながら晩酌の準備をしていた
そのまま手招きをする方へ歩みを進める
「ちぇー、似合ってたのに〜てかぐちつぼお前赤似合うよ」
「あそう?」
「うん、でも俺は青い服着てるぐちつぼのが好きよ」
「なんで?」
「んー?俺のイメージカラーだから」
「じゃあ次会う時はあの青いバケモンみたいな仮面つけて現地集合?」
「ふっへはは、極端!」
味がついてないパスタみたいな会話をしながらマフラーを解いてもらう、暖房をつけたからと言ってまだ寒い室内で暖かかった首元が露になる
「ありがと、てか夕飯どするよ?」
「なに頼む?なんか流石になんも食べずに酒入れるの明日の自分が死にそうで怖いッピ」
「そうなんよね、なんか食べたいのある?」
「ん〜特に思いつかんなぁなんかないかUber一緒にみーせて」
「あーいよ」
別にお互いパーソナルスペースが狭いって訳でもないのだが二人でいる感覚がバグるのか狭い画面、互いにやいのやいの言いながら夕飯を見て行く
なんだかんだ言っても数十年の付き合いになるのだから俺達は仲がいいのだろう、2人で普段見ているモニターよりも近い距離にいることに幸福を感じざるを得なかった
「んでざぁ!おぇいったんよ!だいじょーぶですって!んにさぁ!!なぁんもきかねぇのね!!」
「んははは、そりゃさいなんってこったぁ」
「だろぉ!!こっちだって行きたくて行ってるわけじゃねぇのによぉ…」
薄闇時、俺ぐちつぼと目の前にぐでんぐでんの状態でのたうち回っている輩その名もらっだぁは酒に飲まれていた
正直もうのうみそくんも回ってない、開けたのは高かった日本酒1本と比較的優しい値段だった2本、でもこれの問題が日本酒1本の方で一口煽るだけでもアルコールが強烈で脳みそが掻き回された
普通の日本酒がアルコール度数15パーセント位なのに対してこの酒はなんとなんと49パーセント、なんも考えずに栓を開けた過去の俺が憎たらしいのと同時に味があまりにも美味いせいで杜氏さんの努力をひしひしと感じる
2人で半分こした日本酒もまだおかわりもういっぽんもあるしなんならまだコップ半分位に収まりそうな量の酒が瓶の中に残っている
もう勝ち負け関係なくお互いいい酔い方というのかふわふわなせいでよく考えらがまとまらない、マジで勝負するならこんなに質のいい酒じゃなくてコンビニだのスーパーに売ってある酒でやれば良かったなとか思ったり思わなかったり。
「ぐちつぼお」
「なにい?」
「おれのかちってことでいいかー?」
「はァ!?おぇまだのめるし!ばかいってんじゃねぇ!!」
「うそつけもうまぶた下がってんじゃねぇかよお」
「んなことねぇし!のんでやらぁ!」
俺が飲めんわけがねぇんだわ!ガッと酒の残った酒瓶に腕をやる、唇に瓶を当ててラッパ飲みを開始する
喉を伝って暑い液体が入ってくる、胃の中にどぼどぼとかかってくるように感じながら口のかなはふんわりと甘みと渋みが残っていてとてもきぶんがいい
「っちょさすがにラッパ飲みはしぬってばあ」
「んぁ、」
「ぐちつぼーいしきはっきりー」
「んへへ、らっだぁ?」
なんだかめのまえがふわふわしてゆがんでくる、こりゃあれだろうのみすぎ呑まれすぎ
何がなんだが判別が難しくなっていくのを感じる
ぐぢゃぐちゃな輪郭の中で心配そうにおれを見つめてくる蕩けた眼がふたつ。
あ、あおい、らっだぁかも、すき、だいすき
「らっだーおれねぇおれね」
「どした〜、いったんみずか?」
「ちがうーおれさらっだぁのことだいすきだよお」
「うぇ?」
「あんねぇうんとあんぇ、だぁいすきなの」
「あぅえ….ちょ、ちょっとタンマぐちつぼ」
「いやだぁまたなぁいふへへ、」
「ッスー、まってねがんばってよいさめっから」
「でもねーこれいじょうはねいわないの、だっておれだときもちわるいかぁ」
「…どうしてそう思うの?」
「うんとなあんっとね、こえもかおもたいかくもおれじゃだめなんだってぇ、おとこだしこれじょういっちゃとね、かんけーがこわれんだよってむかしひっしにおぼえてずぅっとかんがえてんだ」
歪んだ輪郭がひっしにブレブレをやめようとする
理性という言葉に指をかけようとする反面脳みそは、体は、まだゆるゆるのままで愛おしいあおい存在に語りかけるしかできない
「だぁら、すきっていっちゃいけないんだぜぇ」
「そんなことべつにないと思うよ俺は」
「なぁんでぇ?」
「確かにおれもそういう恋愛じじょーは難しいけどさ、おれぐちつぼのこと相当好きだよ?」
「んどこがぁ!!べっつに俺じゃなくてもいいくせによぉ!!」
無性にむかむかする、どうしてこんなに簡単に好きって言うんだろう、おれもおまえも。
なんかいらいらするし悲しくなるなんだこれ
「べつに…むりしなくていいし、おれじゃきもちわりいよ」
「落ち着け落ち着け、一旦みず持ってくるから」
「んぬぅ、まだ俺は覚めねぇぞぉ!」
あ、どっか行こうとしてる、やだいかせない
ギュッと服を掴む、あ?これどこつかんでんだ?
「うんうん覚めないねさめないさめない、一旦手離してくれん?」
「やだぁ!」
「やだかぁ…じゃあ手離さなくていいから一緒に起きてくれん?」
「うええ、それもやだぁ」
「じゃ手離して?」
「そっちのがや!」
「じゃあ着いてきてくれる?てかほんとに悪酔いしてんな…」
「んぁ?悪酔いなんかしてねぇ!らっだぁひとりじゃなーんもできねぇんだからなぁ、いっしょいったげる」
「いや駄々こねてんのは、いやいいわ、行くぞぉ」
なんか歪んだ腕を差し出してくるらっだぁの手をとる、俺の体温より幾分か冷たい手に触れる、体の熱がふっとらっだぁに吸い取られて行く用でどこか気分がいい
「ぁぇ?ヴッ!?」
「っぅお!?」
グッと腕を引いたららっだぁが俺に倒れこんできた、奇跡的に額同士がくっつくことはなかったが俺の股にくい込んでくる形でたおれやがった
今日はすっ転んでばっかりだ
きょりがちかい、サーっと体内の血液が引くのを感じふわふわとした気分も少しずつ落ち着きを見せてきた
「ごっめん、!?大丈夫?頭打ってない?」
「ん、だいじょーぶ、へいき、今だいじょうぶになった」
「いやまっったく大丈夫に聞こえん」
「へぇき」
視界の揺れが少し収まる、あれなんで俺たおれてんだろ、なんでらっだぁがのっかんてんだろ、こいつなにあせってんだろ、あれなんでおれこんなにしんぞうバクバクなんだろ
じっとこっちを見つめるネーヴィブルー、深くて落ち着く瞳の色、なのになんで俺は今こんなに焦っているんだろう、胃の中がぎりぎり音を立てている
何もかもを見透かされている気がする、というか俺は今の今まで何を口走っていた?意識が混濁してくるというか脳みそが混乱している
「ぐちつぼ!ちょっと1回こっち見ろ!」
「あ、う、な、んだよ」
「やっと目線あった…頭打ったよねそれ1回起きれる?ちょっと俺退くから」
眼が遠ざかって往く、頭から冷水をかけられたような感覚だ、俺は、なんてことを言っていたんだ
「起き上がれる?きつい?一旦もう水持ってくっからね?」
「ぉ、おう…」
ぱちぱちと瞼を擦り合わせる、頭痛がする、何となく体の節々が痛いと感じる、1旦、1個ずつ思い出そう俺は?酒ベロンベロンに酔っ払って?んで色々愚痴とか言って?そんで、?
『確かにおれもそういう恋愛じじょーは難しいけどさ、おれぐちつぼのこと相当好きだよ?』
、ち、がう、絶対そんなこと言われてる訳ない。
別に選ばれるとか、そういうおこがましい感情がある訳じゃないとし、その感情は1度捨てた捨てなきゃいけなかったし捨てたままでもこれまで何とかなってきた
それでよかったんだよなぁ?だってあれから1回も好意を伝えることの出来る機会が来ても絶対言わなかった封をした、放っておいたのだ
今更数十年燻らせた感情がなんというのだ、今更この感情に名前をつけろとでも言うのか
つけたくない、つけちゃいけない。それくらいわかるだろうに
「水持ってきたぞ」
「つっべテェ!?あ、あんがと」
「おっ意識はっきりしてきた?」
「おかげさんで」
首筋に付けられた水滴が伝っている水のペットボトルを受け取る、少し首筋に水滴が乗ったようで多少気持ち悪さがあるがもう部屋着が伝った水を吸いこんでしまった
「で?」
「で?とは?」
「なんか、俺に言いたいことあるわけんじゃないの?」
グゴッと喉から変な音が漏れる、もう冷めたはずの内部の熱が飽和してゆく、なんで変なこと言っちまったんだろう。
「別に?というか俺変なこと言った?」
これ以上突っ込まないでくれ、いくら俺に三枚舌があったとてもうどの口もまともに機能しないのだ
「変なことは何一つ言ってなかったよ」
「んじゃいいじゃん」
「でも突っかかることあるから聞きたいだけ、ね、ぐちつぼ」
「なんもねぇよ」
「ゆって」
「ゆわない」
「なんで?」
「なんででも」
「いいじゃんゆってよ教えて?」
喉が閉まる、息が漏れる、吐息が震える。
優しいその目で見つめないでほしい
「だいじょうぶ、否定しないよ」
期待させないで欲しい
「こっちみて、平気」
閉じ込めたものをみつけないでほしい
「顔みたくない?なら手握るだけでいいよ」
箱の中身を考えないでほしい
「うん、ぐちつぼの手は暖かいね」
雑な梱包を優しくほどかないでほい
「ゆっくりでいいよ」
顕にしないでくれ
「ぉ、れ…」
言うな!いうないうな!!ゆうな!!期待するな!妄想するな幻想に縋るな!!そんなのあるわけない!!馬鹿なこと期待して傷つくってことはもう知ってるだろ!!
「ぉ、…れ…」
だまれだまれ!!言わなきゃバレない!!どうせ気が付かない!!まだ間に合う!!これまでだって!!これからだってずっと仲良いままでいられるから!!やめろ!!
「…ぁ、の、」
幼い俺が泣いている、心がやめろと裂けんでいる、ひりつく空気を和ませなきゃと考えている、わかってる、こんなこと言ったら戻れない頭ではわかってるわかってるけど
でもこの心地のいい手の温度を失いたくないと思ってしまうのだ女々しいと自分でも感じるこんなのどこにも見せちゃいけないんだって理解してる
目頭が熱い
情けない、泣きたいわけじゃない、ただ頭の整理にリソースを割きたいだけなのに脳みそと体は勝手にこの感情を痛ましいものに変えてしまう
「泣かないでぐちつぼ、無理させてごめん」
「っちが」
「じゃあ言わなくていっから、1回聞いて?」
おれの両手を取って優しく指を編む
「ん、」
「ありがと、あんね俺ぐちつぼが笑うと嬉しいよ、低いけど特徴的で綺麗な声で歌うのもツボに入るのも好きだよ」
リップサービスだ
「ぐちつぼが怒ってるとこ見るとおもろい時と悲しい時があってさ、ネタで切れてる時はカラカラ音立てて笑うからずっと話してたくなるし、本気で怒ってる時はかっこいいしそうなる前に俺も事情聞きたかったって思ったりしてちょっと勝手に悔しくなるよ」
嘘に決まってる
「でね、ぐちつぼが泣いてると俺すげぇかなしいの、どうやったらお前の気持ち少しでもわかってやれっかわかんないのも感受性豊かで泣きながら笑ってるとこが痛いくらいで、どんだけ人の気持ち考えてんだろうって思うと胸がキューってなんの」
そんなに簡単にいわないでよ、お願いだから、嘘でいいから
「ぉれ、おれ、声低いよ」
「いい声だよねロールプレイとか聞いてて毎回しっくりしてて尊敬よ」
「身長もでかいよ」
「はぁ?身長ありますアピ?俺だって平均以上はあるし〜ていうかガタイ自体は俺のがいいし気にならんよ」
「口から生まれたって」
「そんだけ頭もいいってことでしょ?いいことずくしじゃん」
「っ、!でも、でも、言ったら関係壊れちゃうよ」
「どこに行っても俺とお前ってこと自体は変わんないよ」
「こわれ」
「壊れないし、壊さないよ」
「ねぐちつぼ、俺今話してて気がついたこと言ってもいい?」
「っな゛に?」
「おれぐちつぼの事好きだよえるおーぶいいーの方で」
「んな、!」
「おれだいすきだからさ?大好きな人には泣いて欲しくないよ」
もうしゃくりが酷くて喋るのもままならない、嘘だって思ってるのに、わかってるのに
なんでこいつはいつまでもいつだって眩しくて優しくてあたたかいんだろうずるいずるいよ
誰からだって愛されるくせに俺なんか選ぶなよ
何より嘘じゃないんだって、言葉だけで理解させないでくれよ
優しい嘘なんかじゃない、優しくてふんわり包み込むようなベールのような言葉だった、俺の古傷にガーゼを貼るような優しい言葉だった
このことばは『恋』を理解させるのにはつよすぎちからだ
「ね、ぐちつぼ?俺のこと好き?」
「っっす、きだ、だいすきだ、ほんとにすき」
「、そか、それはラブの方でいいの?」
「う゛ん゛」
「じゃあさ、今度でいいからさ?涙拭いたあとで、またポップコーン食いに行った時にでもいいし、いつでもいいからさ次はぐちつぼの口から愛してるって言って?」
その優しい、優しい声に対して
俺はコクリと首を縦に振った
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