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「”彼女”は…おびえていた
”皆”にとって当たり前なことに…
彼女は…ずっと孤独だったのかもしれない…」
「ティエラ!この後何か予定ある?」
「…ない。何故そんなことを聞く」
「一緒にさ、どこか行かない?」
「…面倒だ」
「そう言わないの!」
「…好きにしろ」
ティエラはルナに連れられて町の中を歩いた。
何も変わらない日常の景色だ。
「あッ!!ティエラ!あそこ行こうよ!」
ルナの示した先にあったのは、至って普通のカフェだ。
「…?食事なら無償で支給されるものがあるだろう?」
「いーから!行くよ!」
2人は、一つのテーブルに向かい合って座った。
そして、
「あのー…、ホットコーヒーを二つ。あと…、マンゴーパフェを一つください」
「かしこまりました」
「ティエラはコーヒーの他に何かある?」
「…バニラアイスクリーム。コーン無し」
注文を終えると、店員は去っていった。
数分経つと、注文した品々が運ばれてきた。
「「いただきます」」
二人は注文した料理を頬張る。
「おいし?」
「まずまずだ」
ティエラはその後も黙々とアイスを口に運んでいく。
一方、ルナはずっと窓の外の歩く人々を眺めていた。
「…何をしている?溶けるぞ」
「ねぇティエラ。あの人たちって、皆”自由”なんだよね?」
「?そうだと思うが…」
「………いいなぁ」
「…は?」
「ティエラはさ、自由ってどんなだと思う?」
「お前はどう思うんだ?」
「幸せ、かな…。ティエラは?」
「俺は…強いて言うなら、怖い…。何者にも縛られない状態…それが自由…。だが、俺たちはこの世に生まれたときからずっと縛られて生きてきた。生まれたときから自由などなかったんだ。しかしその一方で、俺たちは何者かに監視されるという形で身の安全が保障されている。もし自由になれば、それもなくなる。自分自身の安否が保障されない生身の状態だ…。そんな状態が、俺は怖い…」
「ティエラも”怖い”って考えることあるんだ…」
「お前は俺を何だと思っていやがるんだ…」
「そうだよね!ゴメン…」
「あと、いい加減食え」
「?あッ!!そうだった!!」
「…ったく」
「今日はありがとう。付き合ってくれて。…あのさ、最後に聞きたいことがあるんだけど…」
「何だ」
「ティエラは、自由になってみたい?」
「…さあな。その答えは先送りにしてくれ」
「分かった!それじゃあ、またね!」
ルナは手を振りながら帰っていった。
「自由…か」
ティエラはそう呟くと、自分の部屋に帰り、ずっと自由について考えた。
翌日、一通の電話がかかってきた。
「もしもし」
「ティエラか。ヴィレイだ。お前とルナには任務に行ってもらいたい」
「了解」
30分後、空軍基地にティエラはたどり着いた。
ルナも同じくらいのタイミングで到着した。
滑走路には輸送機。その前にはヴィレイが立っていた。
「ティエラ、ルナ。諸君らの大いなる活躍、期待しているぞ」
ヴィレイはそう言うと、2人を輸送機の入り口まで見送った。
そして、
「がんばれよ」
と、応援の一言を発すると、輸送機のドアを閉めた。
輸送機は基地から飛び立った。すると、軍の司令官が作戦の概要を説明し始めた。
「今回の作戦内容は北部地方のパルチザンの殲滅だ。相手の基地の規模はおおむね大きい。そこで…ルナの出番だ。そして相手が混乱しているところをパラシュート降下で奇襲する」
「「了解」」
数十分後、基地が見え始めた。
「ルナ、出番だ」
「……了解」
ルナは輸送機の窓を開けると、掌を基地のほうへかざし、青白い光弾を数発投下した。
そして…
ドッオオオオオオオオオオオン……
とてつもない爆発が発生し、一瞬にして基地は消し飛んだ。
「おお…!さすが…!」
後ろに控える軍たちはルナを称えた。
しかし、ルナは険しい表情をしており、手も震えていた。
ティエラはそんなルナをただ、見つめた。
その後、降下の指示が下った。
ティエラ、ルナ、その他の軍たちは、パラシュートで降下し、奇襲を仕掛けた。
ここで、ルナの超越能力について触れておこう。
彼女の能力は、記憶のエネルギー変換である。
彼女は他人の記憶を得ることで、『セイクリッド・エナジー』という神秘的なエネルギーを生成できる。
さらに、二人の連携に関しても触れておく。
ルナがセイクリッド・エナジーを放出し、ティエラがそれを圧縮。物質錬成により、超高エネルギーのセイクリッド・ソードが完成するのだ。
その破壊力は、絶大である。
ティエラたちが敵を一掃した後、ルナは敵たちの記憶を奪い、エネルギーの補給を行った。
ルナには、記憶のエネルギー変換以外にも、他人の記憶を読み取る能力も持っている。
相手の記憶を奪うとき、この能力は自動的に発動する。
大体読み取られる記憶は、相手の家族、友人、恋人…。
「ごめんなさい…。ごめんなさい…」
そう言いながら、ルナは返り血を浴びた両手を眺め、握りしめた。
ティエラは、それを遠くからただ、見つめた。
(アイツはあんなところでかがみこんで何をしているんだ…?)
「おい、戻るぞ」
「……………うん」
一行が戻ってきたとき、輸送機は破壊されてしまっていた。
逃げ場を無くして奇襲を仕掛けるつもりだったのだろうが、セイレーンが2人いる部隊の前では、無意味である。
「救援を要請した。夜が明けるころには来るだろう」
「…そうか、もう夜か」
「よし、全軍、テントの準備!!」
「イェッサー!!」
その夜、一行は一つの巨大なテントの中で夜を明かすこととなった。
次の日、救援に来た輸送機に乗り、エレノイアへ帰ることになった。
輸送機内、ティエラとルナはセイレーン用の部屋でくつろいでいた。
「ティエラ…寝てもいい?」
「?好きにしろ」
ルナは眠りについた。
よく見ると、彼女の目の辺りにはクマができていた。
ルナは夢を見ていた。
真っ暗な”無”の中、彼女は独り、立ち尽くしていた。
と、そのとき、暗闇の”向こう”から何かが近づいてきた。
”ソレ”いや、”ソレら”はだんだんと近づいてくる。
距離が近くなるにつれて、”ソレら”の姿が明らかになってきた。
”ソレら”は、いや、彼らは、兵隊の姿をしていた。
彼らは口々に言う。
「人殺し…」
「お前なんか死ねばいい」
「お前なんか生まれてこなければ…」
「故郷を返せ…」
「家族を返せ…」
「死にたくない…怖い」
彼らの肉体はただれ、溶け始めた。
彼らは混ざりあい、徐々にルナににじり寄ってくる。
「…やめて。来ないで!お願いだからッ…!!これ以上私を責めないで!やめてよ!ごめんなさい…ごめんなさい…ごめんなさいッ…ごめんなさいッ…!!」
にじり寄ってくる”ソレ”から逃げるようにルナは後ずさったが、ついに壁に阻まれてしまった。
ルナは独り闇の中で頭を抱えながら座り込んでしまった。
次の瞬間だった。そんな闇の中に一筋の光が差し込んだ。
彼女の見る悪夢ではそんなことなど起きなかったのに。
その光の元を見ると、何者かが手を差し伸べている。
ルナは、ただ無我夢中でその手をつかんだ…。
「!!」
「!起こしてしまったか…。悪かったな。うなされていたものだから…」
「う、ううううう…」
「は?なぜ泣く…」
目が覚めたとき、ルナがつかんでいた”あの手”…。それはティエラのものだったのだ。
その後、ルナは悪夢のことをティエラに全て打ち明けた。
ティエラなら自分を救ってくれるかもしれない、という期待もあったし、今更隠し通せるわけもないとも考えたからだ。
「…そんなこと言われても、俺にはどうすることも―」
「ううん、聞いてくれるだけでもいいの…。それだけで私は充分だから…」
「…よく分からない」
「…ティエラはさ、初めて人殺したとき、どんな気持ちになった?」
「?何か思うことがあるか?”アレ”は仕事の上での”作業”だろう…?」
「嘘つき」
「何?」
「分かるから」
「どうして…」
「私たちセイレーンは幼い時から一緒だから」
「……………」
「ティエラ…、本当のこと…教えて?」
ティエラは嘘をつくとき、片手で頭を掻きながらうつむく癖がある。ルナはその癖のことを知っていたので、彼の嘘を完全に見抜いていた。
ティエラは口を開く。
「…今はほとんど何も感じない。これは本当だ…。だが…、何だろうな…。俺の初めての殺しは7つの時だった…。何というか、自分の手が”汚れた”ような気がした。汚れと言っても、ただの汚れじゃない。水で洗い流しても、石鹼をつけても落ちることのない汚れだ。なぜならその汚れは手のもっと向こう……心から発せられるものだから…。だが、ずっと殺しを続けるにつれて、それも気にならなくなった」
「…私はね、ずっと”そのまま”なんだ…。いつになっても”汚れ”を気にし続けてる…。私って弱いよね…ゴメンね…」
「謝ることはない。それに…、お前は弱くない。自らの手で殺した者の記憶を見続けてもなお、お前は一度だって責務を捨てるようなことはしなかった。そうだろう…?」
「…やめてよ、ティエラ…。そんなこと言われたら私…きっとまた泣いちゃう…」
「泣いたっていいさ…。泣いて、つまずいて、そして人は成長する。…だが、ただ泣いて終わりではダメだ。そこから自分がどうすべきなのかを考えて前を見据えたとき…、その時、人は成長するんだ。それに…、人には必ず欠けたところがある。それを補い合ってお互い成長する…。そのためにペアを組んだんだ。お前がもうこれ以上自分の手を汚したくないというのなら…俺がお前の分も手を汚してやる。お前の罪の意識も…全て、俺が背負ってやる…。なに…任されるのは慣れている…」
「ティエラ…」
「…………と、ユピテルが言っていた」
「………フフッ。やっぱりティエラは優しいね」
ルナは微笑みながらそう言った。
ルナの目に映っていたのは、『優しい』と言われて動揺しながらも、さっきから片手で頭を搔きながらうつむくティエラの姿であった。