テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
◇◇◇◇
両軍が、ぶつかった。
乾いた平原を震わせ、数千の兵が一斉に走り出す。盾がぶつかり、槍が空気を裂き、怒号と金属音が一つに混じり合った。
最初に衝突したのは、先に駆け出していたバリスハリス王国軍だった。
勢いのまま、盾列を押しつける。
鋼と鋼がぶつかり、ヴァルディウス王国の最前列が軋んだ。
数では圧倒的に劣るはずの軍勢。
だが、その突進は重かった。
まるで、大地そのものが押し寄せてくるかのようだった。
ヴァルディウス軍の兵たちが異変に気づいたのは、ほんの一瞬遅れてからだった。
押されている。
こちらが。
倍以上の兵をようするはずの自分たちが、前線で押し返されている。
理解が追いついた頃には、すでに遅かった。
最前列の兵たちが、次々と倒れていく。
盾が砕け、槍が折れ、血が土を濡らす。
その瞬間。
「魔術師団、詠唱開始!」
後方から怒号が飛んだ。
ヴァルディウス王国が誇る魔術師団が、一斉に詠唱を始める。
幾重にも重なった魔法陣が空中に浮かび上がり、戦場の空を埋め尽くした。
光が重なり、回転し、巨大な術式へと変わっていく。
次の瞬間。
雷光が、落ちた。
空を裂く稲妻が幾筋も平原へ叩きつけられ、兵ごと大地を焼き裂く。
続いて。
無数の氷槍が降り注いだ。
鋭く研ぎ澄まされた氷の刃が雨のように落ち、突進していたバリスハリス兵を次々と貫いていく。
爆ぜる土。砕ける鎧。吹き上がる血。
前線は瞬く間に地獄へ変わった。
それでも。
バリスハリスの兵は、止まらなかった。
倒れた仲間の亡骸を踏み越え、さらに前へ進む。
槍を握り、盾を構え、ただ前へ。
彼らの視線の先には、一人の男がいた。
レオニス・バリスハリス。
バリスハリス王国の王。
最前線に立つその背が、兵たちを導いていた。
王がいる限り。
この軍は、折れない。
レオニスは戦場を駆けていた。
一騎当千。
その言葉が誇張ではないと証明するかのように、手に握る剣は、バリスハリス王家に伝わる魔剣ディスパテル。
銀線が閃く。
ひと薙ぎ。
それだけで、ヴァルディウス兵が十人ほどまとめて斬り伏せられた。
盾ごと裂かれ、鎧ごと断ち割られ、兵が血煙とともに崩れ落ちる。
周囲では、両軍の魔術師団が激しく魔法を撃ち合っていた。
雷が空を裂き、炎が地を焼き、氷が槍となって降り注ぐ。
戦場は光と爆音に包まれ、もはや昼なのか夜なのかも分からない。
それでも、バリスハリスの兵は、一人として立ち止まらない。
ただ王の背を追って、突き進んでいく。
戦の流れが、わずかに傾き始めた。
バリスハリス優勢。
その兆しが見えた瞬間。
空から、影が落ちた。
巨大な戦斧。
大男の胴ほどもある刃が、凄まじい勢いでレオニスの頭上へ振り下ろされる。
「なんだッ!」
殺気に気づいたレオニスは、咄嗟に身をひるがえした。
次の瞬間。
轟音。
地面が爆ぜた。
レオニスが乗っていた馬は、押し潰されたように砕け散り、大地には巨大なクレーターがうがたれる。
土煙が舞い上がり、戦場の空気が一瞬止まった。
それまで押し込んでいたバリスハリス軍の勢いも、そこでようやく止まる。
土煙の中から、一人の男が姿を現した。
巨体。
片手で巨大な戦斧を持ち上げると、それを軽々と肩に担ぐ。
「初めましてだな」
低い声が響いた。
「レオニス・バリスハリス」
レオニスはゆっくり立ち上がる。
視線を鋭く向けた。
「誰だ、お前」
「俺か?」
男は愉快そうに笑った。
「俺はグリオラだ」
その名を聞き、レオニスの目が細くなる。
「……お前が、エルピアータの王か」
グリオラの手にある戦斧から、黒い気配が静かに滲み出ていた。
禍々しい圧。
まるで武器そのものが生きているかのようだった。
「その斧……呪いの武器か?」
「ご名答」
グリオラは肩を揺らして笑う。
「これで斬った者はな」
戦斧の刃を軽く振る。
「圧縮されて潰れる」
にやりと笑った。
「その整った顔が、情けなく潰れる瞬間を見せてくれんか」
周囲ではなお、魔法が飛び交っている。
雷鳴が轟き、炎が爆ぜ、槍と盾がぶつかり合う。
だが。
戦場の中心。
レオニスとグリオラ。
二人の王の周囲だけが、不自然なほどに空いていた。
兵たちは本能で理解していた。
ここは王たちの戦場だと。