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――次の日。
桐山真理亜は、教室の扉を開けた瞬間、空気の違和感に気づいた。
(……なんか、変)
ざわざわとした視線。ひそひそと耳打ちされる声。
明らかに、自分に向けられていた。
「え、あの子が櫻井くんと?」
「嘘でしょ、そんな地味な子が……」
「まさか、裏で付き合ってたの?」
「いや、“ごっこ”らしいよ、片想いのフリする遊びなんだって――」
(……まさか)
席に着こうとした瞬間、机の上に置かれた何かに目が止まる。
スマホサイズの紙。
そこには――
「これが“片想いごっこ”の真実」
というタイトルと共に、彼女と透真が並んで歩く写真、そして日付入りのメモが印刷されていた。
(嘘……)
体が、固まる。
顔から血の気が引いて、心臓の音だけが頭に響いた。
「ねぇ、これってほんと? 真理亜」
真子の声だった。
「“好きじゃないのにイチャついてた”っていう遊びでしょ? 私だったらそんな失礼なことできないなぁ〜」
「……誰が……こんなこと……」
「私が? まさかぁ。だって、私は“友達”だもん。あなたのこと、ずっと応援してたんだよ?」
真理亜はその場を走り出した。
視線が突き刺さる。
笑い声が耳に残る。
教室から飛び出し、誰もいない旧校舎の渡り廊下に逃げ込んだ。
(どうして……どうしてこんなことに)
昨日までのあたたかさが、すべて嘘みたいに崩れていく。
――そのとき。
「真理亜!」
声の主は、櫻井透真だった。
彼は走って追いかけてきて、真理亜の前で足を止めると、少しだけ息を切らしながら言った。
「全部、俺のせいだ。ごめん。……俺が、ごっこなんて言い出したから」
「違う……透真くんのせいじゃない。私が……勝手に、本気になったから……」
「でも、もう“ごっこ”じゃねぇよ。あのとき言っただろ? 俺はお前のことが――」
「言わないでっ!!」
真理亜の叫びが、廊下に響いた。
「言わないで……。もう、好きになっちゃいけない。私、信じたくても……信じられないよ……。みんなに笑われて、噂されて……“遊びだったんでしょ”って言われて……もう、どこにも逃げられない……!」
涙が止まらなかった。
「……俺が、守るよ」
「……え?」
「笑われたら、俺も一緒に笑われる。噂されたら、堂々としてやる。“俺の彼女だから”って。だから……逃げなくていい」
透真は真理亜の肩をそっと抱いた。
「お前が泣くたびに、俺の中の“ごっこ”は全部壊れていく。――もう、“本気”以外、選べねぇよ」
その言葉に、真理亜はただ静かに、彼の胸に顔を埋めた。
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【片想いごっこノート】
・6月20日(木)
見かけた回数:1回
目が合った回数:1回
でも今日は、それだけで充分だった
透真くんが、“本気”だって言ってくれたから
「好きになっちゃいけないごっこは、今日で終わり」
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しかし、真理亜たちが知らないところで――
平良真子は、次の一手をすでに準備していた。
「ふふ……じゃあ、今度は“彼”に動いてもらおうかしら」
その声に応じるように、教室の奥から静かに現れたのは――
山取聡だった。
「なるほど、桐山があいつと……。じゃあ、潰すよ」
平良真子は微笑んだ。
「“恋愛”って、残酷なほど、美しいわよね」