「さぁさぁ! 今日は僕のおごりだよ! どんどん食べてね♪」
テーブルの上にはすごい量のデザートが並んでいる。
これは全て、上機嫌のジェラードが頼んだものだ。
あの後、色々とひと段落してからエミリアさんを呼び戻して――
……そしてジェラードの主催で、彼の快気祝いをすることになったのだ。
「いただきまーす♪」
エミリアさんは早速、目の前のケーキから食べ始める。
「わぁ、美味しい~♪」
「エミリアちゃんの食べっぷりは素敵だね♪
ささ、アイナちゃんもどうぞどうぞ!」
「はい。でもさっき夕食が終わったところでしたから、こんなには……」
「なるほど。それじゃルーク君、君の出番だよ!」
「甘いものがこんなに入るわけ無いでしょう……」
急に振られたルークも、少し困り顔だ。
長年の悩みが無くなったばかりのジェラードに対して、邪険に扱ってその感動に水を差す――
……ということも、したくは無いのだろう。
「本当だったらお酒を振る舞いたいところなんだけど、二人が飲めないんじゃね……」
ジェラードは苦笑いをしながら、ケーキをひとつ食べ始めた。
お酒がダメ、食事もダメ。
そんなわけで、今はデザート祭りになってしまっているわけだ。
「まぁ、これくらいならエミリアさんがいれば余裕ですよ」
ちらっとエミリアさんを見ると、ふたつ目のお皿に手を伸ばしていた。
「デザートは別腹ですからね!」
いや、別腹じゃなくても全部入るでしょう……。
そう言いたかったけど、とりあえずは黙っておくことにする。
「エミリアちゃんは見掛けに寄らず、たくさん食べるんだね?」
「あれ? 早速バレてますよ? 隠さないで良かったんですか?」
「アイナさんたちと一緒にいる間は、もう気にしないで良いかなって思って……」
ピュアな目で私を見てくるエミリアさん。
とっても可愛いんだけど、食べる量と雰囲気が全然釣り合っていないんだよなぁ……。
……とりとめのない話を続けていると、その内に仕事の話になっていった。
ジェラードが嬉しそうに、また仕事ができると喜んでいるのだ。
「そういえば、諜報の仕事ってどういうことをやっていたんですか?」
「ああ、うん。依頼があったところにね、こっそり忍び込んで情報を取ってくるんだよ。
例えば冒険者ギルドに忍び込んで、冒険者の情報を全部複製してくる……とか」
「うわぁ、危ない仕事ですね」
「ははは。全部が全部、そういうものでもないよ。
他には情報屋みたいなことをしたりとか、噂を流して情報操作をしたりとか、裏取引の交渉役をやったりとか――」
「……全部、危なくありませんか?」
「確かに危険と隣り合わせの仕事だね。
でも、だからこそ自分の力を発揮出来るし、生き甲斐を感じるんだよ」
ジェラードは自身の右腕を眺めながら、嬉しそうに言った。
「それじゃ、またどこかでそういう仕事をするんですね」
「そうだね。ミラエルツではちょっと……ナンパの方で目立ちすぎたからね。
……他の街に行ってみようかな。
そういえばアイナちゃんたちは、旅の途中なんだよね? どこに向かってるの?」
「私たちは王都に向かっています」
「へぇ、王都か。それも面白そうだね……」
王都なら、仕事もたくさんありそうだしね。
「わたしは王都まで、という話でご一緒させてもらっています。もぐもぐ」
エミリアさんの言葉に、ジェラードは『ふむ』といった感じで頷いた。
「なるほど、基本的にはアイナちゃんとルーク君の二人旅なんだね。
……そうか、それじゃ一緒には行けなさそうか」
ジェラードはルークに向かって微笑んだ。
「何を、下衆な勘繰りを――」
「……それじゃ、僕もその旅に混ざっても良いのかい?」
「お断りします」
ルークは私の判断を仰がずに即答した。
いや、別に良いけど……珍しいものを見た気分だ。
「ははは、そうだよね。でも、僕はアイナちゃんに助けてもらった身なんだ。
いつまでとは約束できないけど、しばらくは恩返しをさせてもらいたいな」
「恩返し、ですか?」
「うん。お金だけ払って……っていうのでも良いんだけど、僕はそれ以上に、もっと感謝しているんだよ。
だからお金で買えないもので、何かお返しをしたいんだ」
……ああ、それは分かるなぁ。
確かにお金は金額が分かるから、感謝の度合いとしては分かりやすいんだけど……どこか無機質なところがあるからね。
しっかり恩を感じているなら、それとは違うもので返したくなるのは良く分かる。
「それじゃ、何かあればお仕事をお願いしますね」
「喜んで! 何かあれば……とは言わず、今は何か無いかな!?」
「そうですねぇ……。
目先のところでは、ガルルンと金策……かな」
「ガルルンとお金? ……ガルルンって、何?」
ジェラードは不思議そうに聞いてきた。
私はアイテムボックスから、ガルルンの置物を取り出して見せる。
「このキャラクターです。ガルーナ村の特産品にしようかと思って」
「ふぅん……? 不思議な感じがするね。
愛嬌はあるから、女性をターゲットにしたいのかな……?」
「そうです、その通り!
そのうち別の新作が届くと思うので……その後に、どうにか広めたいんですよ」
「なるほど、それは気に留めておこう。
それで、お金の方は? お金に困っているのかい?」
「今はミラエルツで金策中なんですけど、ちょっと良い鎧が欲しいなーって思っていまして。
ここを発つまでに買えれば良いのですが」
「そうなんだ? いくらくらい要るの?」
「金貨30枚です。頑張れば、すぐに貯まるとは思うんですけど」
「でも、結構な額だね。
薬代の一部として受け取ってくれるなら、僕が払えるけど――」
「あ、お節介のときはお金はもらわないようにしてるんです。
ジェラードさんのも、お節介ですから」
「そ、そうなんだ?
……うーん、本当に凄いよなぁ」
「ジェラードさんもそう思いますか?
アイナさんはそういう方なんです! 凄いんです!」
エミリアさんは、ジェラードと何かを分かりあっていた。
ルークも参加こそしていないが、うんうんと頷いている。
「それじゃ、何か売れるようなものは持っていないかな?
売りにくいものだったとしても、もしかしたら僕が売って来れるかもしれないし」
「うーん?
売れるものなんてダイアモンド原石くらいしか――」
「アイナ様!」
「アイナさん!」
……あっ。
思わず不用意に口走ってしまった。
「ど、どうしたの? ダイアモンド原石が、どうかした?」
私の失言に、ジェラードは冷静に聞いてくる。
「あ、あー。ちょっとしたダイアモンド原石を持っていて……。
ちなみに金貨30枚くらいだと、どれくらいの大きさになりますか?」
「え? えーっと……これくらいかな?」
ジェラードは片手で大体の大きさを示した。
それは私が先日作ったものよりもずっと小さいものだったけど――
……でも、それくらいなんだね。おっけー、おっけー。
はい、れんきーんっ。
バチッ
私はテーブルの下で錬金術を使って、出来たてほやほやのダイアモンド原石をテーブルに置いた。
「ちょうどそれくらいのダイアモンド原石を持っていたんデスヨー?」
「そうなんだ? ……うん、モノもかなり良さそうだね。
僕が持ってて良いなら、出来るだけ早く売ってくるけど……」
「それじゃ、お願い出来ますか?」
「うん、分かったよ。
それにしてもこんな高価なものを、何の担保も無しに渡してくれるなんて……本当、嬉しいなぁ♪」
まぁ、さっきまではただの炭だったしね、それ。
それにこれくらいの大きさなら、ひとつくらい市場に流れたところで、大した影響は無いだろう。
ジェラードも今さら裏切るような真似はしないと思うけど――
……もし裏切られたら、それはそれで、今後の資金にでも充ててくれれば良いか。
ぶっちゃけ材料費は、おごってもらったデザート代よりもずっと安いんだから。
「本当に無理をしないで良いですからね?
復帰のための、リハビリくらいに思ってください」
「分かったよ。楽しみに待っていてね!」
ジェラードは力強く、そう言った。
……うーん? 本当に分かってるんですかね……?
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