──生まれ変わっても貴方に会いたい
──そうだね、生まれ変わっても忘れないでいたい。
──もうすぐ死んじゃうね
──そうだね、まだ生きて平和に暮らしたかった。
──この戦いは終わるかな?
──そうだね、終わったらまた山から抜け出して空のデートをしよう。
──会えなくなるのかな
──そうだね、もしかしたら会えなくなるかも知れない
──未来に託すってどう思う?
──そうだね、それは人それぞれだと思うよ。
──好きです、初めて見たあの日から
──そうだね、俺も好きだよ。
──一生愛しています、貴方のことを
──そうだね、俺も愛してる。
──一生?
──そうだね、一生……いや永遠に。
──ずっとそばに居て
──当たり前、いつまでも一緒にいるよ。
──愛してる、啓悟さん/出久君
こうして1人の人間と一人の天狗が世界を去った。人間と天狗は愛し合ってはいけない。だが二人は恋に堕ちてしまった。これはいけない恋だと分かっていても掟(オキテ)を破ろうとも二人は愛し合った。人間と天狗は元々友好関係にあった。だがいつしか偏見が起きて仲が悪くなってついには戦争という大規模な争いになってしまった。天狗と人間には新たな掟が出た。
“人間と関わってはいけない”
“天狗とは関わってはいけない”
“人間に恋に堕ちてはならない”
“天狗に恋に落ちてはならない”
“天狗は山から出てはいけない”
“人間は山へ行ってはいけない”
これらの掟を破ることは許されない。破ったら最悪処刑、天狗は翼をもぎ取られ、一生山から出られない。人間は拷問で死に至るまで。
何て理不尽なのだろう。何で世界は僕たちを認めてくれないのだろう。何で愛し合ってはいけないのだろう……。
もし神様が居るならば僕たちを救って下さい。生まれ変わっても忘れないように───
──私がーー………
意識がハッキリせずノイズがかった途切れ途切れに聞こえる声で目を覚ます。ゆっくりゆっくりと目を開ける。そこにはいつもの天井。いつものヒーローグッズだらけの部屋。いつものオールマイトの目覚まし時計。そしていつも泣いている僕。
最近なぜが朝起きると泣いている。理由は分からないけど。
悲しい悲しい……苦しいよ…助けて。そう言う気持ちだけがのこり目を覚ます。本当に少しずつだが気持ちがハッキリしてきだした。
自分の頬にスーと温かい涙が通る。思い出したい…思い出したくない。謎の感情が胸の中で渦巻いて気持ち悪くて自分じゃないようで吐き気がする。
冷凍庫を見ると保冷剤が当たり前のように居座っている。朝起きると目が時々腫れて保冷剤が必要なのだ。保冷剤を使わずにおいておくとクラスの皆に心配される。
いつものように癖付いた髪を少しでも直そうとクシでとく。いつものように顔を洗った後ペシンと気合いを入れる。いつものようにゆっくりテキパキと制服に着替える。
そして時々僕は手をピタリと止め遥先の高い高い山の空を見上げる。
──啓悟……さん。
時々無自覚でその名を発する。それが誰なのかは分からない。けど懐かしい気持ちでいっぱいになる。
今はまだそれで良い。
本音を言えば早く会いたい。知らない人に…そんな人居るかも分からないのにそう思ってしまう。
知りたい貴方のことを。好きだよ。
ヒーローしか脳に無い僕は柄にも無いことを思う。居るか分からない相手の返事を何故か待ち続けていまう。
僕は狂ってしまったのだろうか。鳴呼、矢っ張りでくの坊のデクなんだな。
──大丈夫?デク君
大丈夫だよ、と応える。夢のせいかボーッとする事が増えた。そのせいで麗日さんに心配を掛けてしまった。でも目線の先にあるのは遥先の山。今日も雲一つ無い空に向かい目線を向ける。
──なんかデク君、恋する乙女みたいやなぁ
僕が?恋する?僕は戸惑った今まで恋愛やら青春やらを置いてけぼりにしてヒーローになるために走ってきたのだ。そんな経験はあるはずがない。まず自覚していないだけかも知れないが僕に好きな人は居ない。だが、そんなことを言われたら恥ずかしくて顔に熱が集まる。からかわないでよと弱々しく言う。
帰り道僕は今日のことを振り返った。
“恋する乙女みたいやなぁ”
その言葉が頭から離れない。啓悟さん。そうまた口ずさむ。その瞬間また顔に熱が集まる。今度は耳や頬を伝い首筋まで赤く染まっている。これは夕日で肌が染まっているだけ。そう緑谷出久は思い通すことにした。
──よく来てくれたな
エンデバーが僕に言う。よろしくお願いします。そう思いっきり勢い任せに言う。轟君が何かを喋ろうとしたとき
──インターンの子は誰かな?
とその場に似つかないほど明るい声がした。エンデバーは呆れたように出て行けと言う。さっきは入ってきた明るい男性はそんなことを気にしないように良いじゃ無いですかぁ、と言っている。
まだ僕らには気付いてないようだった。僕はその間ずっとその男の人を見つめていた。引き寄せられて目が離せない。そうしていたらようやくこちらに気付いたようでダッシュで向かってきた。
エンデバーの息子さん……確か轟ショート!矢っ張りエンデバーの所に来たんだと楽しげに一方的に話す。轟はそれに押され気味だった。
轟君がこっちを見て助けてくれと瞳で訴えてくる。それに男の人が気付いたようでこっちを見た。その瞬間男の人はピシリと時間が止まったように固まった。僕もそうで顔をみた瞬間固まってしまった。
男の人が口を小さく開け、先ほどとは打って変わって弱々しく小さな声で出久?と呼ぶ。それにつられて僕は啓悟さん?とまた同じような弱々しいこれで呼ぶ。
そしてゆっくり……ゆっくり少し震える足をお互いに前に出して近づいていく。
手が届く位の距離になり僕たちは立ち止まる。
お互いに目を背けた。しかしすぐにお互いの目は重なり合った。
そして男の人は僕を力強く引き寄せ抱きしめた。壊れないように壊さないように優しく強く抱きしめる。そして僕も優しく抱きしめる。
──やっと会えた啓悟さん/出久。また生まれ変わっても貴方を愛しています
二人の人間は山の空を見上げた。遥先の高い高い山の空を仲良く飛びながら。
コメント
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こういう系もめちゃ最高!