テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
放課後の帰り道、いつものように並んで歩いていたはずなのに、今日は妙に沈黙が重かった。
桜は前を向いたまま、何度も唇を噛みしめる。隣の蘇枋の横顔は、いつもと変わらない笑みを浮かべているのに、不思議と遠くに感じられた。
「……なあ、蘇枋」
勇気を振り絞るように、桜が声を出す。
「俺ら、もう……やめた方がいいんじゃねぇかな」
その瞬間、蘇枋の歩みが止まった。
ふざけるように笑うと思った。冗談だよねと肩を叩いてくれると思った。
けれど蘇枋は、ただ静かに桜の名前を呼んだ。
「桜君……」
その声音には、抗うことのできない優しさが滲んでいた。
桜は目を伏せたまま言葉を続ける。
「俺、お前の隣にいるのが怖くなってきたんだ。……お前はいつも明るくて、強くて、みんなの中心で。なのに俺は……何もできねぇ」
本当は、蘇枋の隣にいたい。笑い合って、喧嘩して、また肩を並べて歩いていたい。
でも、その願いはどこか弱さにしか見えなくて。
「お前に頼ってばっかで……俺、嫌なんだよ。だから――」
言葉は途切れ、喉が詰まる。
その先を言えば、もう戻れない。
蘇枋はしばらく黙って桜を見つめていた。
やがて、ゆっくりと笑みを浮かべる。いつもと変わらない、けれどほんの少しだけ滲む哀しみを隠せない笑顔だった。
「……分かった。桜君がそう決めたなら、俺は止めないよ」
そう言いながらも、桜の手を強く握る。
温かいその感触が、最後になることを互いに理解していた。
「でもね、桜君。俺は桜君の全部が好きだった。それだけは忘れないでね」
その言葉に、桜の視界が滲む。声にならない嗚咽を飲み込み、ただ小さく頷いた。
手が離れる。
夜風が吹き抜ける道に、二人の影が遠ざかっていく。
笑い合った日々も、支え合った時間も、確かにここにあったはずなのに。
――「さよなら」は、こんなにも痛い。