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「文字を?」
リューがティーカップを持つ手を止め、目を瞬いた。
「はい。――あ、あと、これからリューの出席する会議には出来る限り私も参加させてください」
意気込んで続けると彼はカップを置いて不思議そうに訊ねた。
「それは、構わないが……急にどうしたんだ」
「昨日も少し話しましたが、私この世界のこと、この国のことをもっと知りたいんです」
――竜帝妃として、リューの隣でその名に恥じぬような人間になるために。
「図書室の本をお借りして自分で調べようとも思ったんですが、結局文字が読めないとどうしようもなくて」
苦笑しながら言う。
やはり何よりもまず今の私が覚えなければならないのは文字の読み書きだ。
読み書きが出来ないと、こうして届いた手紙を読むことも、返事をすることも出来ない。
それに、今の私ではリューの仕事をサポートすることも出来ないと気付いた。
「それはそうだが……」
「良いではないですか」
そう言ってくれたのはセレストさんだった。
「いつかは覚えていただかなくてはならないのです」
彼の視線がこちらに移って少しの緊張を覚える。
「コハル様が正式に竜帝妃となられてからと考えておりましたが、早いに越したことはございません」
やはりセレストさんも同じように考えてくれていたのだ。
そして彼は中指でカチリと眼鏡の位置を直し、続けた。
「この私が責任をもって、コハル様に文字と、この『竜の帝国』について教えて差し上げましょう」
「えっ」
思わず小さく声が漏れてしまい、彼の目がすっと細められた。
「私では不服でしょうか?」
「い、いえ、まさか! 是非、よろしくお願いします!」
私は勢いよく頭を下げた。
……驚いた。まさか、セレストさんが直々に教えてくれるなんて思わなかった。
でも彼なら“先生”として申し分ないというか、そのきっちりとした見た目からもぴったりだ。
(でも、めちゃくちゃ厳しそう……)
「では早速本日から始めるといたしましょう。時間の調整が出来ましたらお知らせいたします」
「は、はい!」
先生! と続ける勢いで私は良い返事をしたのだった。
「大丈夫なのか、コハル」
広間を出るとリューがそう声をかけてくれて私は笑顔で頷く。
「はい。ティーアからのこの手紙も早く読みたいですし、返事も自分でちゃんと書きたいので。……あ、でも、国同士の何か大事なことが書いてあったらマズいですよね」
「いや、俺宛にも別に届いていてな。だからそれはコハル個人に宛てたものだろう」
それを聞いて安心する。
なら、やっぱり自分の力で読みたい。もしかしたらリューには見せられないような女同士の内容も書いてあるかもしれない。
(文字が書けるようになったら、ティーアに伝えたいこといっぱいあるなぁ)
でも、リューはまだ心配そうで。
「コハルがこの国を知ろうとしてくれるのは嬉しいが、無理はするなよ」
「大丈夫です。元々勉強は嫌いじゃないですし。……その、異世界から来た聖女じゃなくて、この国の竜帝妃として少しでも早くこの国に馴染みたいので」
「コハル……」
なんとなく気恥ずかしくてはにかみながら言うと、リューがその瞳を大きくした。そして。
――!
そっと引き寄せられてその腕に包まれる。
「……リュー、またセレストさんに怒られちゃいますよ?」
「ダメだ」
「え?」
「今すぐに抱きたい」
「!?」
耳元で囁かれてぼっと顔が熱くなる。
「な、何言ってるんですか!」
慌ててその身体を押しやると、リューはふてくされた顔をした。
「コハルが嬉しいことを言うからだ」
「知りませんよ! もう……」
そういうことを言われるとまたすぐに昨夜のことを思い出してしまうから勘弁して欲しい。
今日もこの後は何かと予定が詰まっている。気を引き締めていかなくてはならないのだ。
赤くなってしまった顔を見られたくなくて足を速めると、すぐ後ろから溜息が聞こえてきた。
「俺が教えられたらいいんだけどな」
「え?」
「知識の量でも教え方においても、あいつが適任だ」
それを聞いて、もしかしてと首を傾げる。
「リューもセレストさんから何か教わってたんですか?」
「あいつは俺の教育係でもあったからな。今でも教わることは多い。……だがコハル、あいつは厳しいぞ」
苦虫を噛み潰したような顔で言われて、こちらの顔も思わず引きつってしまった。
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