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まろい
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まろい
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薄闇のなかに、微かに雨音だけが響いていた。湿ったコンクリートの匂いと、錆びた鉄の冷たさが鼻腔を満たす。ここはもう、ふたりきりの世界の果てだった。
「なあ、ありさか」
だるまいずごっどは、目の前で煙草の火を赤く散らしている男に目を向けた。その横顔は、いつも配信で見せるふざけた笑顔の欠片もなく、驚くほど静かで、そして酷く美しかった。濡れた前髪が額に張り付いている。
ありさかは持っていたライターをカチリと音を立てて閉め、足元で冷たく光るそれを一瞥した。微動だにしない黒いコンクリートの縁。その先は、底知れぬ夜の闇へとただ落ちている。
「怖くないんか、お前」
ありさかの声は低く、雨にかき消されそうだった。けれど、その瞳はまっすぐただひとつの熱を捉えて離さない。
「怖いわけないやろ。お前と一緒なんやから」
だるまはふっと息を吐き出し、湿った空気に白い煙を溶かした。震える指先がありさかの袖をそっと掴む。ストリーマーとしての意地なんかじゃない。ただ純粋に、この冷たい世界に耐えきれなくなったふたりが、最後に選んだ温もりだった。
「……そっか。だな」
ありさかは小さく笑うと、だるまの手を自分の大きな掌で包み込んだ。凍えるように冷たかったはずの指先が、不思議と熱を帯びていく。もう逃げ道なんてない。このまま二人で墜ちていけば、誰にも邪魔されない場所へ行ける。そんな狂おしいほどの確信だけが、胸の奥を満たしていた。
「行くで、ありさか」
「ああ、一緒や」
踏み出した足元から、コンクリートの感触がスッと消えた。重力がふたりを等しく包み込み、冷たい夜風が耳元で激しく渦を巻く。視界のすべてが闇に染まり、息ができないほどのスピードで世界が流れていく。
墜ちていく。終わっていく。
衝突の予感が胸を突いたその瞬間、ありさかは強い腕でだるまを抱き寄せ、その背中をしっかりと押さえ込んだ。だるまは、自分の体を預けきったまま、ありさかの首筋に顔を埋める。肺に残っていた空気がすべて押し出され、耳鳴りだけが大きく響いた。
冷たさも痛みも、何もかもが光に溶けて消えていく。繋いだ指先だけが異常なほど熱を持って、ふたりが確かにそこにあったという証を刻んでいた。
コメント
1件
第2話、一気に引き込まれました。だるまとありさか、配信では見せない素の表情と、震える指先でありさかの袖を掴む仕草が胸に刺さります。冷たいコンクリートと雨音、墜ちていく重力――すべてが「もう逃げ道なんてない」という覚悟を支えていて、痛いほど美しい。光に溶けて消える直前まで繋がれた指先の熱が、この物語の核だと感じました。続き、待ち遠しいです。