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◆◆◆ 放課後の続き ◆◆◆
まろが去った教室に、あたしは一人取り残されていた。
手に抱えた落書きノートは、小刻みに震えている。
それがあたしの鼓動と同じリズムで震えている、と気づいたのは少し後だ。
「……バレた……完全に、バレた……」
呟く。
言葉にすると、現実味が増して胸がきゅうっと締めつけられる。
腐女子バレ。
それだけなら、最悪どうにか誤魔化せたかもしれない。
でも――あたしの場合は最悪を通り越した最悪。
まろで妄想している腐女子バレ。
しかも攻め×攻め(どっちもまろ)。
しかも落書きレベルじゃなく、ほぼ愛情がこもった執筆級。
よく生きてるなあたし。
でも……
でも――
「……怒ってなかった……よね……?」
まろはあの時、笑っていた。
呆れでもなく、馬鹿にでもなく、優しい顔で。
『そんなにウチのこと考えてくれてたん、ちょっと嬉しいかもしれん』
頭を撫でられた感触が、まだ残っている。
それを思い出すたびに顔が熱くなる。
「……まろ、ずるい」
好かれるようなこと、言わないでよ。
期待しちゃうじゃん。
あたしはノートを抱え、深く深く息を吸った。
まろは「第2話で話そ」って言った。
つまり――
明日、話があるってことだ。
やばい。
緊張で死ぬ。
◆◆◆ 翌朝 ◆◆◆
夜、寝られなかった。
むしろ寝る努力をやめた。
結果、クマができた。
鏡を見て、泣きそうになる。
「なんでよりによってこの顔で“話したいことある”とか言ってくるのよまろぉ……!」
あたしは朝からテンパりすぎて、気づけば家の前で10回深呼吸していた。
そして学校に向かう途中。
「ないこ」
「ひゃっ!?」
背後から声。
振り返ると――
まろがいた。
大きい体に、眠そうな目。
いつものジャージの上に制服の学ランを羽織った、ちょっとゆるい着こなし。
それが妙に似合っているから腹立つ。
「どしたん、そんなビビって」
「……ビビってないし」
「いやビビっとるやろ」
「ビビってないって言ってんの!」
「はいはい」
まろは笑って、あたしの歩調に合わせて歩き出す。
「昨日の話やけどな」
「う、うん……」
「放課後、屋上来てくれへん?」
屋上。
屋上。
屋上……。
それって、なんか、その……
告白フラグじゃん!?
「え、なんで屋上なの」
「人おらんし、風通しええし。……ないこ、逃げそうやし」
「逃げない!!」
即答してしまう。
まろが少し驚いて、笑った。
「ほな、放課後な」
「……うん」
言った瞬間、心臓がぐちゃぐちゃになりそうだった。
◆◆◆ まろ視点 ◆◆◆
朝から、ないこはやたら落ち着きがない。
まぁ無理もないか。
昨日のアレは……ウチでも驚いた。
ないこが、ウチでBL妄想しとるなんて。
普通の男ならドン引きするんかな。
でもウチは違った。
あいつが何か隠してるの、ずっと気づいとった。
気づいてたけど、それがウチに関係あるとは思ってへんかった。
ウチを見て、ウチを描いて。
ウチのこと考えて。
なんか……
嬉しいって思ってしまったんや。
それに――
昨日のあいつの顔。
泣きそうで、怯えてて、でも正直で。
あんなん見て嫌えるわけないやろ。
屋上に呼んだのは、ちゃんと話すためや。
あいつは逃げ癖あるから、人が来ない場所が一番ええ。
「……ちゃんと伝えなあかんな」
胸の奥が熱くなる。
◆◆◆ 放課後 ◆◆◆
チャイムが鳴った瞬間、胸の鼓動が加速した。
あたしは机に突っ伏しそうなほど緊張していたけど――
「ないこー、行くで」
まろが、いつもと同じトーンで声をかけてくれた。
あたしは小さく頷いて、まろの後ろを歩いた。
途中、すれ違う友達が声をかけてくる。
「ないこ、まろくんと帰るん?珍しいね」
「え!違うよ!帰らないよ!」
「あっ、そっかデート……」
「デートじゃない!!!!」
叫んだ瞬間、まろが肩震わせて笑ってるのが見えた。
「うるさい!」
「いやお前が一番うるさいで」
「……うるさいのはあんたのせいでしょ」
「どういうことやねん」
そんな他愛ない会話をしながら屋上に向かう。
その間ずっと心臓が痛いほど脈打っていた。
◆◆◆ 屋上 ◆◆◆
風が気持ちいい。
夕焼けがオレンジと紫を混ぜたみたいな色で、空がとてもきれいだった。
でもあたしに景色を楽しむ余裕なんて一滴もない。
「あの……話って……」
「ないこ」
まろが振り向く。
目が、真剣だった。
「昨日のノートのことやけどな」
「ひっ……」
まろはこちらへ歩いてくる。
逃げたくなる。
でも足が動かない。
まろは、あたしの前で立ち止まった。
「ウチのこと……そんな描いとったんやな」
「ご、ごめんなさい……」
「怒ってへんって言うたやろ」
「でも……気持ち悪かったでしょ……?」
「思わんて」
はっきり即答。
その声が強すぎて、胸が揺れた。
「むしろ……なんでそんなにウチなんかで妄想してくれたんか、知りたかった」
「……」
あたしは俯いた。
言えない。
でも、言わなきゃ。
ここまで来て逃げたら卑怯だ。
そして小さく、震える声で言った。
「……まろのこと、好きだから……」
その瞬間。
風の音すら止まった気がした。
あたしの心臓は、痛いほど脈打っている。
足は震えて、立っていられない。
でも、まろの反応を待たなきゃいけなかった。
数秒。
でも永遠みたいに長かった。
そして――
「知っとった」
「……え?」
「なんとなく、前から気づいとった」
優しい声。
嘘ついてない声。
「せやけど……言うてくれて嬉しい。ちゃんと、聞かせてくれて」
まろは一歩近づく。
そして、あたしの頬に手を伸ばす――ように見えて、途中で止めた。
まろは照れたように笑う。
「触ってええんか分からんからやめとくわ。嫌やったら困るしな」
「いや……別に……嫌じゃない……」
あたしの言葉に、まろの目が一瞬だけ大きくなった。
そして優しく手が伸びて、頬に触れた。
温かかった。
「ないこ」
「……なに」
「ウチも……お前のこと、好きかもしれへん」
「……っ!!」
胸がいっぱいになって、涙が滲んだ。
「昨日、お前が震えながら“友達でいたいのに嫌われる”って言うた時……守りたくなった」
「……」
「そんな顔、ウチ以外に見せるの嫌や」
言葉が、甘すぎる。
泣きそうになる。
「ウチ、お前のこともっと知りたいし……隣にいたい」
「ほんとに……?」
「ほんまや」
まろはあたしの頭を、昨日よりも優しく撫でた。
「腐女子でも、妄想してても、ウチでBL描いててもええ。好きなだけ描けや」
「え……」
「その代わり――」
まろはあたしの耳元に顔を寄せた。
「現実のウチは、お前のもんや」
「…………っ!!!!」
無理。
無理。
言葉が甘すぎて死ぬ。
涙がこぼれた。
まろはそれを見て、少し慌てた。
「泣くなや……そんな泣くようなこと言うたかウチ」
「だって……嬉しい……」
「……アホやな」
そう言いながら、まろはあたしの頭にそっと額を寄せた。
くっつきそうで、でも触れない距離。
「ないこ。ウチと……付き合ってくれへん?」
「……はい」
小さく頷いた瞬間――
まろは、ふっと甘い笑いをこぼした。
「ほな今日からウチら、二人でBLやな」
「BLじゃない!!リアルでしょ!!」
「せやな、リアルやな」
そう言って、まろは優しくあたしを抱きしめた。
夕焼けの風が、二人の周りをふわりと通り抜けていった。
◆◆◆ エピローグ ◆◆◆
それから一週間。
あたしの落書きノートには、以前と変わらずまろ妄想の新作が描かれている。
でも、決定的に違うのは――
まろがそれを横で覗き込みながら、
「ウチ、こっちのポジションなん?」
「なんでウチ二人おるん?」
「ないこ、これ……実写化するつもりやろ」
とか茶化してくることだ。
「煩い!!覗かないで!!」
「いや彼氏の特権やろ」
「そんな特権ない!!」
「じゃあ作ればええやん」
我ながら頭抱えたくなるくらいのバカップル。
でも――幸せだった。
「まろ」
「なんや」
「今日も、好き」
「知っとる。……ウチも好きやで」
世界で一番、あたしの妄想を肯定してくれる人。
世界で一番、あたしの妄想を上回る現実をくれる人。
まろは、そんな人だった。
そしてあたしは、胸を張って言える。
腐女子バレしたくないっ!((
……でも、まろにバレたのは、ちょっとだけ良かった。