テラーノベル
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監獄ダンジョン・カルケルの騒乱が発生してから約1時間が経とうとしていた。
それは中央制御室に5番アルジニー・グクオーツが現れてからの時間であり、川端一真監察官がトーマス・メケメケマル副指令を守りながら戦闘を続けた時間でもあった。
「か、川端さん! もう無理ですよ!! 逃げましょう!!」
「……トーマスくんらしくないな。君は責任を放棄する男ではなかったはずだが」
「川端さんの命には代えられませんよ! もう、あなたは限界です!! じ、自分と言う足手まといがいるせいで……!! すみません!!」
事実、川端監察官はメケメケマルを庇いながらの戦いでかなりのダメージを負っていた。
5番は正々堂々にこだわる男ではなく、効率重視のリアリスト。
戦場に明らかなウィークポイントがあれば、そこを突かない理由がない。
戦いに命を賭しているのはアルジニーも同様であり、条件が一緒ならば非難されるいわれもない。
それを理解している川端監察官は、メケメケマルに向かって落ち着いた口調で言った。
「……トーマスくん。人はどうしておっぱいに惹かれると思う?」
「し、知りませんよ! もう逃げましょう!!」
「……私は、おっぱいとは全てを包み込む包容力によって、世界を明るく照らすものだと思っている」
「川端さぁん!! あなたはもう限界だ!! セリフが常軌を逸しています!!」
川端は「ふっ」と笑って、締めくくる。
「……探索員は、人類にとってのおっぱいであるべきだと私は思う。ダンジョンや異世界の謎。迫りくる不埒な輩の脅威。それらから、おっぱいのように柔らかい安心感を与える存在でありたい。……ちなみに、脅威と胸囲は掛かっている」
「か、川端さぁん!! 誰かぁ! 誰かぁ! 助けてください!!」
5番は「くっ、くくくっ」と笑いを噛み殺しながら川端に向かって拳を向ける。
「立派な理想だがな。所詮お前たちは保守的な考えしかできぬではないか! アトミルカのように、異世界を! イドクロアを有効活用した方が、世界の進歩はよりスピードを上げるとは思わんのか?」
「……今は! おっぱいの話をしていたところだろうが!!」
「その乳房への飽くなき信念には敬意を表する。と言うか、正直少しばかり恐怖を感じている。川端。お前の情報は私が責任持って変更しておこう」
5番アルジニー・グクオーツは、ボクシングを基礎とした拳を使う戦法を得意としていた。
蹴り主体の川端とはまさに対照的である。
「そろそろ楽になると良い。『ブローニング・ラッシュ』!! そら、どうした! しっかり守れよ川端! メケメケマルに当たるぞ!!」
「……くっ。『澎湃轟波』!!」
5番の繰り出す、機関銃のような煌気拳の連打。
対して川端は水スキルを併用した、逆巻く水流を蹴りで生み出す。
「そろそろ本隊も到着する頃だ。いい加減、中央制御室を明け渡してもらわなければな。私が3番に嫌味を言われるのは敵わん」
「……そうだな。そろそろ、本隊が到着する頃のようだ」
川端が言い終わるのと同時に、中央制御室の扉が開けられた。
開いたと言うよりは、破壊されたと表現するべきだろうか。
当然だが、5番が潜入した時点で中央制御室には強力な施錠と何重にもおよぶ結界が構築されており、その元となるイドクロア加工物が3番の発明品であると考えると鉄壁の布陣と呼んでも過言ではない。
それが今、吹き飛ばされた。
「ええぞ! 莉子の嬢ちゃん! もう一発行けるかいのぉ?」
「はいっ! やぁぁぁっ! 『集束・苺光閃』!!」
煙の中から現れたのは、カルケル防衛部隊を拝命したチーム莉子。
のっけから躊躇わずに『苺光閃』の連射に打って出たのは、久坂剣友の用兵術によるものか。
「……ふっ。5番。どうやら我慢比べは私の勝ちのようだな」
「これは参った。女子供と年寄りかと一瞬だけ喜んだのだがな。見た目に騙されるくらいの未熟さを私も持っていたかったものだ。これは、余りにも多勢が過ぎる」
『苺光閃』の特性を瞬時に見抜き、咄嗟に回避して見せた5番の実力も驚くべきものだが、彼が5番としての地位を確固たるものにしているのは、繰り返すがその徹底した現実主義。
「できる事」と「できない事」を損得勘定と切り離して考える彼は、即座に次の手を打った。
「止むを得んな。2番様には、後でお詫びするとしよう。……勝負は引き分けと言う事にしておこうか、川端!! 『タイタン・クラック』!!」
久坂剣友がすぐに5番の放ったスキルの特性を見極める。
「こりゃあいけん!! チーム莉子は使える防御スキル全部出しじゃ!! 55の! そっちのぽっちゃりした副指令を任せるぞい!! 川端の!! こっちに飛べぇ!!」
久坂の指示で莉子たちも5番の目論見を知るが、既に身を守る事しか取るべき選択は残っていなかった。
「クララ先輩! 小鳩さん! 防御を! 芽衣ちゃんはそのまま、わたしたちを分体で外に突き飛ばして!!」
チーム莉子の練度を考えると、この端的な指示だけで意思の共有が可能。
「あいあいにゃー! 『グラビティウォール』!!」
「かしこまりましたわ!! 銀華・三十二枚咲き! 『モルティプル・シルバリア』!!」
「みみっ! 『分体身』!! いくです! 『半・発破紅蓮拳』!!」
5番は撤退を選んだ。
だが、逃げるだけでは、ただ1時間ほど中央制御室に立てこもっただけになり、行動の意味がほとんどなくなる。
ならば、相手に中央制御室を返してやる道理がない。
手に入らないのならば、破壊するまで。
5番の放った『タイタン・クラック』は右腕に煌気を集中させて、拳の一振りとともに放出するスキル。
理屈は木原監察官の『ダイナマイト』に近いものがあり、その威力は絶大。
結果、中央制御室の機器もろとも、重要拠点は爆発した。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「おお。なんちゅうことをするんじゃ、あの敵は。川端の。生きちょるか?」
「……はい。すみません。私では守り切れませんでした」
「何を言いよるんじゃ。敵の手に落ちちょらんだけ何十倍もマシじゃわい。55の! そっちゃあどがいじゃ?」
「久坂剣友! 安心して欲しい! 私も小太りの人も無事である!!」
久坂は「やれやれじゃのぉ」と一息ついて、サーベイランスを起動させた。
なお、チーム莉子の無事は確認するまでもないらしい。
「あー。もしもーし。こちら久坂じゃ。現場から悲しいお知らせじゃぞ」
『こちら南雲です。久坂さん、どうぞ』
「おお、修一。あののぉ、中央制御室が吹き飛んだわい。じゃが、川端のが頑張っちょったおかげで、アトミルカ側に制圧されるパターンは回避したけぇ、まあ最悪ではないのぉ」
『なるほど。部隊は無事ですか?』
「おお。そこは問題ないで! チーム莉子は全員元気じゃ! ……いや、加賀美のとこの山嵐の小僧が背中ぶち抜かれて重傷じゃったわい!」
『そうですか。……いや、ダメじゃないですか!! 久坂さんがついていながら、何をなさってるんですか!!』
久坂は「うるさいのぉ」と言って、現状を更に補足した。
「四郎さんの治療で世話ぁないわい。今頃は元気になっちょるじゃろ。敵さんの先発隊とは遭遇したけどのぉ。本隊が来るのは……ほうじゃのぉ。30分の猶予はないかもしれんのぉ。現場からはこんな感じじゃ。本部の指示を待つけぇの」
久坂の通信を待つ間、負傷している川端監察官の治療は莉子が対応していた。
「『復水』!! すみません、川端さん。わたしの治癒スキルじゃ完治は無理そうです」
「いや、体力だけでも戻してくれたら結構。助かる」
ちなみに、川端監察官の視線が莉子の胸部に向くことは一瞬たりともなかったと言う。
コメント
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第384話、読み終えました!川端監察官の「♡♡♡談義」、戦闘の真っただ中で始まるあの不意打ちには笑わされました。でもその直後に「探索員は人類の♡♡♡であるべき」なんて理想を掲げるから、ギャグと信念の境界が曖昧で、なんだか憎めないキャラですよね。5番が「恐怖を感じる」と認めたのも納得。チーム莉子の華麗な救援も気持ちよく、最後の「胸部に視線を向けなかった」というオチがまた川端らしくて、にやりとしました。
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