───ザバーンッ…
潮の匂いが漂うしずかな波打ち際に、一人の少年は倒れていた。
「ん〜、……んぁ?」
目を覚ますと、見渡すかぎり真っ青な海と、砂浜が広がっている。その少年は麦わら帽子を首からかけていて、赤いシャツから見える胸には大きな傷があった。
少年は、モンキー・D・ルフィ。
“麦わらの一味”という海賊団の船長である。
どうやら突然の破天荒に巻き込まれたようで、 気を失っていたからか、 なんだかツギハギで曖昧な記憶しか残っていなかった。
「あの…。大丈夫ですか?」
座り込んでいたルフィの頭上から、誰かがひょこっと顔を覗かせた。
「……ん?誰だ?お前」
少女は躊躇いもなく、自身の名は「ヨル」だと答えてくれた。 そして、倒れ込んでいたルフィの身を案じてくれてるのもすぐに分かった。
「おれはモンキー・D・ルフィ!海賊王になる男だ!」
「海賊王…?それはいい夢をお持ちですね」
「だろー!」
ルフィは定番の自己紹介を済まして、ここがどこなのかをヨルに問いながら、麦わら帽子に付着していた砂をパッパと払いのけた。
「どこ、と言われると難しいですね。一応ここも“ファミリア”という国の領地です。現在私たちがいるのはその南東に位置するメリアス海岸あたりのはず…かな」
「お前詳しいんだなー!」
「…この国が好きですから」
ふぅんと鼻を鳴らしたルフィは、次の質問を繰り出そうとしていた。
「この、メリ、メリー海岸?ってとこに、他に誰かいなかったか?サイボーグとか、ガイコツとか」
「ガイコツ…?、、は見てないですね」
「そっか、みんなもメリー海岸にいてると思ったんだけどなァ…」
「メリアス海岸のことですか?」
「そうそれ!」
話したばっかりなのに、もうすっかり名前を忘れて、少し似ているメリーの名前が出てきた。そうしてルフィの淡白な性格もなにかと滲み出てる。 固有名詞だろうが人の名前だろうが、覚えるのが得意ではないんだろうか。
「誰かを探してるのですか?」
「あァ!おれの仲間だ!」
「ルフィさんのお仲間さん……。それは絶対に見つけないとですね」
ルフィはその場に座り込み、腕を組む。ンーと喉を唸らせ、策を練っているようだった。
ヨルも一緒になって考える。なかなかいい案が浮かばない。どうしたものか、と眉間に皺を寄せる。
「とりあえず、王都へ向かうのはどうでしょう」
「王都ォ?」
ルフィは首を九十度ほどに傾げて質問を返す。
「はい。このファミリアで一番栄えている、中央都市のことです!そこなら人が多いので、お仲間さんを探しすのにも助けになるかと……」
「じゃあそこに行こう!」
「そうですね、王都に行くなら今から向かわないと。日が暮れてしまうと大変ですし、」
そしてまた沈黙が流れる考えムードに入る。
ヨルが言うには、この国は夜を迎えてもどんちゃん騒ぎでってのも少なくはないし、そうでなくても人が右往左往するほど賑わっているとと教えてくれた。なかでも美味しい食べ物も沢山あるのだという。
それを聞くとルフィは、目に煌めきを浮かべ早く行きたい!とヨルを急かした。
***
一方、その頃───。
「…ったく。あいつらどこ行った?」
腰に三本の刀をさした男は大きな噴水を中心とする広場で誰かを探しているようだった。
「おいマリモ!んなとこ突っ立ってと放ってくぞ!方向音痴のクソ剣士ッ!」
ズカズカと大股で近づいてくるサンジはあからさまに怒っている様子で怒鳴りつけた。
「それとこれとは関係ねェだろうがッ! 」
ゾロは吼え返した。
「ちょっとあんたたち!」と割って入ってきたナミは二人に向かって──
「こんなところで騒ぐな!周りのひとの迷惑になるでしょーがッ!!」
──そして説教をする。
「ナーミさぁ〜ん♡」
サンジは猫撫で声でナミの名を呼んだ。
「今度新作のスイーツ作るから許して!」
ナミはスイーツという言葉に反応して、それならよしと許した。
「ゾロ。あんたも言うことあんじゃないの」
そう質されると、ゾロは顔を顰める。
「へーへー。すみません」
適当に謝罪をしたゾロは、ごつんとナミの拳骨をもろに喰らった。痛々しい音が鳴り、頭にできたたんこぶを抑えながらもがいていた。
「さっさとみんな探すわよ!」
彼らは“麦わらの一味”の船員。そしてルフィの仲間でもある彼らもまた、船長であるルフィと同じ行動を起こしているようだった。
どうやら、ほかの船員もはぐれているらしい。見つかってないのは、ウソップ、チョッパー、ロビン、フランキー、ブルック、ジンベエ。そして我らが船長のルフィ。この七人だけだ。
だけ、と言っても全員を探し出すのはさすがに無理難題ではあった。
「この国くそ広いぞ 」
少し間をあけてからゾロが言葉を発した。
「全員が無事だったして、見つかるもんか…?」
ぼそっと正論をぶちかますゾロに、口答え出来ないのが素直なところなのか、どうなのか。
「電伝虫はあらかじめ持たせてたが、みんなして海に落ちちまったしな。無くしてるかもしれねェ」
サンジがライターをカチカチっと鳴らし、しわくちゃの煙草に火をつけながら言った。
…たしかに、連絡手段がないとなると見つけ出す難易度も高くなる。
さて、これからどうするか。
三人は同時に腕を組んで、喉を唸らせたと思うと、腹がぐうの音をあげた。
「……とりあえず、腹ごしらえだな」
三人は顔を見合せ、頷いた。
***
そしてルフィがいるメリアス海岸の砂浜にて…。
「行くっつっても、どうやって行くんだ?」
「結構時間も経っちゃってますし、歩いて行くのは無理かも…」
ヨル迷ったのか、自身の掌を見つめる。そして目線はすぐにルフィへと向けられた。
「……ルフィさん、ちょっと目を瞑ってくれますか?」
「目?こうか?」
ぎゅっと力いっぱいに瞑るルフィの不器用さが子供のようで可愛いと思ってしまった。
「軽く瞑るだけでいいですよ」
その微かに笑っている声は、どこかで聞いたことのあるような、温かく優しい声音で、不思議と力が抜けていく。
「私がいいというまで目を閉じていてくださいね。約束です」
「分かった…!」
ヨルはそれを確認すると、指を鳴らした。
その瞬間、関節が擦れる音じゃない、何か歪な音がひびいた。
──眩い光が、二人の影を包み込む。
それは、夕闇を消し去る勢いで広がっていく。 瞬きする間に、二人の影はどこにも見当たらない。
どれほど経っただろうか。 何分か、ヨルに手を引かれ歩き続けた。途中から、雑音のようなものが聞こえたが、次第にそれは話し声と変わった。
ルフィはまだ目を閉じている。約束を守って。
「もう目を開けても大丈夫ですよ」
ヨルのその声に反応して、ルフィは右目、左目と順に開いた。視界は開ききったが、夕日の眩しさに目をやられチカチカする。それも段々とマシになっていし、完全に目が見えるようになるとルフィは驚いたような声を出した。
なぜなら目の前にはガヤガヤと人の往来も絶えぬ大都市が広がっていたからだ。すぐに目の煌めきを取り戻した。ルフィは走って行ってしまいそうなほどに、ワクワクしているようだった。
するとルフィの腹が鳴った。
「ご飯食べます?きっと倒れていたので、お腹も空いてると思いますし」
「いいのか…?!」
ハンドサインでヨルはOKを出した。ヨルの承諾が、余程嬉しかったのかヨルの手を取ってすぐさま走り出す。
「わっ…ルフィさん?!」
「しししっ!借りはぜってぇ返すからな」
「借りって。そんなの要らないよ」
「要らなくてもだ!」
ヨルの拒否を、ルフィは無視する。
ヨルにとってはそれが嬉しいことだった。
いつかこの人なら、と祈っていた自分は、心の奥底に締め込んだ。もう這い上がって来れぬように。
さっき食べ始めたばかりなのに、もうお皿が山積みになっていた。厨房もさぞ大忙しなんだろう。
「なァヨルー。この肉も食っていいのか?」
「ふふっ。お好きなだけどうぞ」
バクバクとその小柄な体躯の胃のどこに収め込まれるのか不思議でならないほど、ルフィはよく食べた。 厨房のコックのおじさんもそれに応じて、随分と意気込んでるようで、色んな食材を調理していく。
「ルフィさん、元気そうですね。良かった」
「む?なんえ?」
何て?と聞きたかったのだろうか?口にご飯を頬張り、ちゃんと言葉を話せてなかったのが無性に面白く感じ、ヨルはあはっと笑う。
ルフィは何に対して笑っているのか見当つかず、頭の上には疑問符が絶えず出てくる。
「とにかく人はご飯を食べると幸せな気分になるそうですよ。ついでに元気にもなります!だから私、美味しそうにご飯を食べてるルフィさんを見るのが好きです」
「ヨルは変なやつだな」
「そうですか?ありがとうございます」
「褒めてねェぞ??」
純粋で素直なルフィとヨルは、ツッコミどころ満載。とても相性が良さそうだった。
ヨルの言う通り、この国は賑わっている。人が行き来していて、美味しいご飯も沢山あって、誰も彼もが幸せそうな面で生きている。 そう思える。
「ヨルはここの生まれなのか?」
「……そうですね!生まれも育ちも正真正銘ファミリアです。ちなみにルフィさんはどこの出身で?」
「おれは“東の海”にあるフーシャ村ってとこだ!」
「“東の海”とは驚きました!なら新世界まで結構 かかったのでは?」
「おう!多分かかった!」
身の上話やら、世間話やら。何を話してもネタは尽きないが、ルフィはご飯がまず第一だった。
ヨルの話は真剣には聞かないが、相槌は打ってある。ヨルはそれを咎めようとは思わなかった。
ルフィは次のご飯が運ばれるのを待っているあいだに、“麦わらの一味”のことを話した。
サンジってやつはうちのコックでとか、変な植物使ってパチンコで撃ちまくるのはウソップってやつなんだ、とか。
もう訳が分からなくなるほど話した。
でもルフィはそれを、楽しそうに嬉しそうに語ってくれた。
「ルフィさんのお仲間さんは凄いですね」
「だろ?!おれの自慢の仲間だ!」
「ふふっ。……羨ましいなぁ、その人たち」
「なんでだ?」
「だって、こんなにも大事な仲間なんだなって思うと、変にそう思っちゃうものですよ」
そんなもんなのかとルフィは眉を顰めた。
ヨルは相変わらずニコニコしている。
でもサングラス越しだから分かりづらいけど、ヨルの眼には何が映っているのか気になった。
「ヨルは歳いくつなんだ?」
「十九歳ですよ。明後日で二十歳」
「へー!おれと歳同じだなァ」
ルフィはにししと笑みを浮かべる。
奇遇にも同年代だったことにも驚きが隠せない。
同年代……。この国には歳が同じ人なんて数え切れないほどいてる。でもそれだけ。
「ルフィさん。少しここで待っててください。好きなだけ注文しててもいいので 」
ヨルは突然そう言い出した。
「ん?なんでだ?」
「ヒミツです」
ルフィは顔を歪ませたが、すぐに先程の明るい笑顔にもどる。
「そっか!わかった!」
ルフィがそう言うと、ヨルは席を立った 。
そのときは空気が一瞬にして変わったように感じたが、ルフィはそんなことは気にしない。
「特大チャーハンおかわり!!!」
「 もう材料ねェよッ!!」
初めまして。M r . です。
この度は「STELLA」を数ある作品からとって読んでいただきありがとうございます。
僕はONEPIECEファンなのですが、口調にも疎いですし、似たような言葉を何度も使ってしまうくらいに、国語力がまったくないやつです。
それでもこの作品を読んでくれるという方がいてくれると、僕は飛び跳ねるほど嬉しいです。
そして最近「ハートの攻略法」のいいねが10000超えたのですよ。ほんとうに感謝してます。
我が友よ!そなたは女神だー!
不定期投稿ですが、ぜひご愛読お願いします。
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