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「この町で起きた
“行方不明事件”って知ってる?」
僕は息を飲んだ
行方不明事件って?
聞いたことも無かった 。
この町でそんなことが起きるなんて
起きることはないと思っていた。
「…知らない。」
「…そ。じゃあ話してあげる
数年前 …いや。もっと前かもしれない
その時に起きた 行方不明事件の話」
彼は僕の横で息を吐いて、吸って。
小さく言った。
「ある夏の頃の話。
近所では有名な すっげぇ元気で、冬も半袖半ズボンの無邪気な男の子が居たんだって 。」
「その子がある日突然 姿を消したんだ 」
僕は「姿を消した」
その一言で昔祖母に言われた言葉が浮かんだ
「…神隠し。」
そう小さく呟いた。
少し目を見開いて 此方を向いた
「なーんだ。知ってんじゃん
そ。知る人ぞ知る神隠しって呼ばれるやつ」
彼は少し息を吐いて小さく笑った。
「バカバカしいよな 。」
でも 直ぐに黙って
しばらくすると言葉を続けた
「大人 に聞いてみろ みんなごまかすだけ」
そして それは怒りなのか悲しみなのか
僕には分からなかった。
でも、彼は確かに
「… 元々居なかったみたいにしてさ。」
何かの感情に乗せて言い放った。
そして彼は少し声色を変えて 、
「今生きてたら何歳だった?」
彼は僕にそう問う
でも僕は黙っ俯くまま。
言わなかった 言えなかった。
──だって。
「分からないよね。誰も何も話さないから」
そう。分からないから
祖母のような年代の人
その人達だけが唯一知っていること。
じゃあなぜ話さない?関係しているの?
僕は様々な疑問で溢れ返った。
その時、 静かで 冷たい声で ─ 彼は言った
「”神隠し”なんて
都合のいい言葉を使ってるだけ。」
──その一言から会話はなかった。
何を言おうにも 、言葉が出てこない
喉の奥から声は出なくて
なにかいわなきゃ そう思ってるのに
しばらく沈黙が続いた その時
「─ごめん。」
「…っえ?」
「なんか急にこんな話して空気重くして 」
僕と目を合わせて彼はこう言った
「…許せないんだよね
“死” を無かったことにする奴らが」
笑っていた。笑っていたけど
この優しさで何か傷を負っている気がする
今話してもきっと声なんてまともに出ない
でも 、僕は 小さい
耳をすませば聞こえるようなそんな声で問う
「…っ 、じゃあ …
僕はどうすればいいの 、?」
彼は その言葉を聞いたあと少しの間を置いて
確かに 希望に満ちたように微笑んだ
僕は咄嗟に 目を逸らした。
すると彼は 立ち上がって鳥居の前に立った
「… 若井 。若井滉斗」
「…え?」
困惑する僕にまたはっきりと言った
「若井滉斗。俺の名前」
また此方を向いて 、にっこりと微笑んだ
「明日 また此処に来てよ 。」
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