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エピローグ
夏の夜。
大学生になった私たちは、バイト帰りに駅前の公園で缶コーヒーを飲んでいた。
「なあ、りうらちゃん」
「ん?」
「次、地球が止まりそうなったらさ、またうちが守ったるからな」
「……え?」
「今度は、ちゃんと覚えとく。全部忘れても、うちはきっと、またりうらちゃんを好きになるわ」
私は笑って、隣に座る彼の肩を小さく叩いた。
「じゃあ、何回でも世界を救ってくれる?」
「当たり前やん。うち、りうらちゃんのヒーローやからな」
──この世界が終わる前に、
私は君と恋をした。
そして今も、これからも。
終わらない世界で、ずっと一緒に恋をし続けていく。
それが、私たちの“はじまりの物語”
—結婚編「約束の続き」—
春の風が、また吹いている。
桜の木の下で、私はウェディングドレスの裾をそっと持ち上げた。
少しだけ緊張している。けれど、不安はない。
この隣に立つのが、誰よりも知っている“あの人”だから。
「……似合ってるで、りうらちゃん」
隣に立つ彼は、白いタキシードに照れたような笑みを浮かべながら、ゆっくりと手を伸ばしてくれた。
「えへへ……ありがと。初兎くんも、すごく……かっこいい」
どんなに時間が経っても、彼が私をそう呼ぶとき、胸が少し高鳴る。
「りうらちゃん」
この呼び方で世界を終わらせて、また始めたあの人。
──あの日、「もう一度、恋をする」と誓ってくれた人。
それは、大学を卒業して数年が経った頃のことだった。
社会人として働きながら、私たちは少しずつ“大人”になっていった。
けれど、毎日の中には“変わらないもの”もあって──
お互いの好きなもの、歩く速度、話すテンポ、ふとした沈黙の心地よさ。
そんな積み重ねが、自然と未来を形づくっていった。
「なあ、りうらちゃん」
「うん?」
「結婚、しよっか」
──彼は、桜の咲く春の夜、公園のベンチでそう言った。
ロマンチックな演出なんてなかったけど、その目は、真剣そのものだった。
私は、すぐに頷いた。
この人となら、何度でも未来をやり直せるって、信じていたから。
結婚式の準備は、思った以上に大変だった。
「式場どこにする?」「和装? 洋装?」「両家顔合わせは……ああ、また初兎くん遅れてるし!」
「あかん、うちどうしてもネクタイ結ばれへんのやけど!?」
「何回目だと思ってるの、それ……こっち来て。やってあげる」
「りうらちゃん、うちのために仕事減らしてくれてたんやろ? ほんま、ありがとな」
「言わないで。私も、やりたかっただけだから」
たぶん、世界が終わるよりも、結婚式のほうが大変だったかもしれない──なんて、冗談で笑い合った日もある。
けれどそのすべてが、私たちの「新しい日々」だった。
式当日。
私たちは、あの桜の木の下を選んだ。
高校のグラウンドの裏手、あの終わりの日に手を繋いだ場所。
この世界が終わると思っていたあの日、
「またな」と笑って別れた場所で、
今、私たちは「これからもよろしく」と誓いを立てる。
──約束の続き。
「本日は、お日柄もよく──」
司会者の声が耳に入らなくなる。
私の視界は、初兎くんだけだった。
いつだって、ずっと。
「……初兎くん」
「ん?」
「私ね、今、すごく幸せだよ」
「うちもや。ほんまに。……なあ、うち、生きててよかったわ」
その言葉に、胸がいっぱいになって、私は思わず手を握った。
やっぱり、あのときと同じ力加減で、彼も握り返してくれた。
披露宴での余興も、初兎くんらしかった。
サプライズでギターを弾いて、私のために歌ってくれた。
「……うち、不器用やし、下手くそやけど……それでも、君のことは、誰よりも想ってるから」
もう、泣かないって決めてたのに。
やっぱり、泣いてしまった。
「バカ……泣かせないでって言ったのに」
「ごめんな……でも、ほんまに、うちの人生の全部に、りうらちゃんがおるねん。うちは、この世界が終わる日まで、絶対君のそばにおる」
──ああ、また言ってくれた。
「この世界が終わる日まで」って。
だけどもう、私は怖くない。
だって、終わってもまた始まるって、あの日教えてくれた人がここにいるから。
そして、ある春の朝
結婚して数年、季節はまた春を迎えた。
窓を開けると、遠くから桜の匂いがした。
台所には、彼が用意してくれた目玉焼きの香り。
「おはよう、初兎くん」
「おはよう、りうらちゃん。今日は遅番やったよな? 先にごはん食べてな〜」
もうすっかり“夫婦”になった私たちの日常。
それは、ドラマチックではないけれど、世界で一番愛しい風景だった。
「あ、そうそう」
「ん?」
「来週の休み、一緒にあの桜のとこ、行かへん? 高校の」
「……うん。行きたい」
手を伸ばして、指を絡める。
今も、ずっと変わらない。
ぬくもりの記憶。
私たちは何度でも、何度でも恋をする。
世界が終わっても、また始まる。
そしてそのたびに、私は彼を選ぶだろう。
「愛してるよ、初兎くん」
「うちも、ずっと、りうらちゃんのことが好きや。今までも、これからも」
──また、この世界が終わるその日まで。
いや、きっとそれを越えても。
私たちは、手を繋いで歩いていく。
何度だって、恋をしながら。
これは、永遠を誓う恋の物語
コメント
3件
ご結婚おめでとうございますッッ!ご祝儀何円くらい持っていけばいいですかね!(は?) 赤白幸せにいきるんだぞおおおお!