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「んー、色と…視界かな?視力は別段悪くないでしょ?」
いきなり僕の目を覗き込み、にっこりしながら僕の目の説明を始める彼女
「あってる?」
困惑する僕に追い打ちをかけるように聞いてくる。
これは不思議な目を持つ君と壊れた目を持つ僕が恋を経験する物語
「お、やっぱりあってたっぽいね」
そういって君は僕の顔を覗き込む。
流川紗希…これが彼女の名前。
同じクラスだが話したことはほとんどない。
彼女はとても大きな目をしていて、人と話すときその大きな瞳が全部隠れるくらい目を細めにっこりとする。そんな彼女に僕はずっと恋をしている。
「あってるよ、ほぼ初めての会話にしては失礼だけどね流川さん」
そういうと彼女はやっぱりにっこり笑っていった
「私の目が変なの、見ちゃったでしょ?」
昨日の放課後の教室で彼女は泣いていた
課題に使うワークを忘れ取りに帰ったときだった。
いつも明るくてにっこりとしていてそんな彼女が目の前で泣いている。
僕が教室に入った瞬間、びっくりして目をまんまるにした彼女の瞳は不思議な色をしていた。
いつもよりもワントーン明るい色で、宝石のような目をしていた。
びっくりしていたのもつかの間、彼女は無言で立ち上がり、いつも通りにっこりとして走って帰ってしまった。
そして今彼女は僕の目の前で、何故か誰にも話したことのない僕の壊れた目の解説をしている。
僕が何も言えないでいる中、彼女は話し出す。
「私の目はね、特別製なんだー、人の嘘が見える。人の思考がぼんやりとわかる。人の未来がたまーに視える。アバウトでしょ?誰にもバレたくなかったけど見られちゃったしね~、全部説明するから放課後時間くれる?また後で!」
予鈴がなった。
返事も聞かずに行ってしまったが、僕が行くことは彼女の中ではもう決まったことなのだろう。
授業が全く頭に入ってこなかった
ずっと僕の頭の中には彼女のことでいっぱいだった
彼女は友達が多い。
それはきっと本人が持っているあけすけな性格もあるのだろうが、よく聞くのは「流川紗希はほしいときにほしい言葉をくれる」と言うものだった。心が読めるのではないかと思った人もいたようだが、彼女の何も考えていなさそうな顔とたまにでるあほっぽさから、あの子が人の心など読めるわけがない、というのがみんなの共通認識だった。
飾らない性格で、嫌なものは嫌とはっきりいえるその性格をみんな受け入れていたし
彼女は以前「真面目な人ほど私のことが嫌いなんだよね〜」と言っていたが彼女をきらっている人はほとんどいなかったように思える。
彼女のことを考えて一日が終わり放課後が来る
「おーい!零くん!こっちこっち!」
彼女が手を振って僕を呼ぶ
周りの視線が痛すぎる中僕は彼女の元へ行った。
周りの目を気にしない彼女には何を言っても無駄だろう
「あそこにしよう!」
彼女が指定したのは僕の家と彼女の家のちょうど間くらいにある、人のこない公園だった。
好きな子と放課後に公園にいく。わくわくしないわけがなかったが彼女について知りたいという好奇心が強かった。あのきれいな瞳の正体を。
「テキトーに話すね別に面白い話でもないし」
やっぱりきれいな声をしているなと思いながら僕はひたすらに相槌をうつ
「私は頭が悪いんだよ!」急に何を、と思ったがとりあえず相槌。 そこから長い説明が始まった
「私の変な目はね、たくさんの情報が入ってくるの。例えばあそこにいる歩いてる人、多分もうすぐ転ぶ。頭‥は打たないね、大した怪我はしないからほっておいて大丈夫」
次の瞬間、本当に歩いていた人がころんだ
頭は打っていないし特に怪我もないみたいでまた歩き出した。
僕は、ほんとに転んだ、という事実よりも彼女の眼が気になった。あの人、転ぶよ、と宣言するとき、彼女の瞳が、あの日見た、宝石のような、ワントーン薄い色の不思議な眼に切り替わっていたからだ。
「気づいた?私が力を使うとき、私の目の色、変わるの!きれいでしょ!あ、あと感情が昂ぶってる時とかも変わる!」
にっこりとはしていなかった。笑ってはいるけれどいつものにっこりとした顔よりよっぽど自然でふんわりと笑っていた。
その笑顔を見て納得した。
この瞳を見せないために彼女はにっこりと過ごしていたのだ。
「今の人はわかりやすかったね、歩き方が前傾姿勢だったし、靴紐が解けてた。しかもこの時間って風向き悪いんだよねー」
僕には全くわからなかったが、とにかく話を続けてほしかった。知りたかった。
「反応薄いなー。冷めてるって言われない?そんな感じで、私は大体の起こることとかその時の相手の思考とか、そういうのがわかるの。相手の目を見れば大体のことがわかるし、嘘も大体見抜ける。あ、でも別にこれは私の洞察力がいいってわけではなくて、眼が勝手にまとめた情報を見せてくれるって感じなの。説明難しいね、本人にしかわからないと思う。でねでね、君の眼って変じゃん?だからね、全然思考が読めなくてさ。試みはしたんだけど、そんなこと初めてだし。でね、そこで気づいたんだ、この人目が合わないんだーって。ずっと若干右側に寄ってるでしょ?君の右目。そこで気づいて考えた。でも普通に視力悪いならメガネしてるかなーって思って、してないってことは大体色とか視覚とかになんらかの不具合があるんじゃないかって。だからこれはほぼ勘だね、もしや私天才?」彼女は理解が追いついていない僕をよそ目に喋り続ける
「あ、でもこの人ケーキ食べたいんだな、とかはわからない。ケーキ食べたいの?って聞いたときなら瞳孔とか視線とかではわかるけど。そんな感じで、一般人でもわかることが、気づきやすい、みたいな感じかな。あと風向きとかそう言うので投げたボールがどこまで飛ぶかとかはわかるね。そんな感じ!質問とかは?」そこで僕はずっと聞きたかったことを聞いた
「で、昨日泣いてた理由は?」
聞いた瞬間に笑い出す彼女
「面白いね君。はー、あれ目薬うってただけなんだけど!」恥ずかしすぎるだろ僕。たしかに不思議な眼だから目薬くらいは必要なのかもしれない。
「なるほどそれは失礼。質問はないよ、話は終わり?」ちょっと冷たい言い方になってしまったけれど仕方ない。恥ずかしいんだよ!
「違う違う、むしろここからが本題なんだよ!」
何?と返事をする前に彼女は続ける
「君、私のこと好きでしょ?」
自分でも瞳孔が開いたのがわかる。これはもうバレバレだ。
「私と付き合ってくれない?ずっと好きだったんだもん。ここまで話したんだから責任取ってくれてもいーよ!」
その声はいつもよりも脳に響いた。
「なんとかいってよー、君も私のこと好きなんでしょ?これはもう成立だよね!自分は目の障害がーとか思ってるかもしれないけどそれ知った上で言ってるからね」
ほんとにこの子にはかなわない。
こうして壊れた目をもつ僕と不思議な目を持つ彼女のお付き合いが始まった。
僕たちが付き合い始めたことによる周りの反応は特に問題なかった。紗希のもともとの性格が良かったせいもあって周りにはとても羨ましがられた。
「いいな〜俺も彼女欲しいよ…」
そう言って抱きついてきたのは僕の数少ない友達である本川大祐だ。そこそこモテるのに彼女を作らない理由はきっと幼なじみである、優さんのことが好きだからなのだろう。ずっと話しているし二人で遊びに行くことだってしょっちゅうあるのだから早くくっついてしまえと思うのだが。
帰り道。横を紗希が歩いているというだけで幸せな気持ちになってしまうとは単純すぎる。
「そういえば…」
大祐の話を紗希にしたら何かわかるのではないかと思った。親友の恋だ、できる限りの協力はしてやりたい。
しかし、紗希の反応はあまり良いものではなかった。
「んー、あの二人にはいい未来は見えないね。大輔くんが優ちゃんのことを好きなのは見てればわかるけど、優ちゃんはきっと大祐くんのことを恋愛対象に見てない。近すぎるよ、あの二人は。付き合ったとしてもきっとうまくいかない。早めに諦めるのが吉ー!ってとこかな〜」
あまりにもばっさりとしているが正しい気がした。
数日後、大祐は、やっぱりだめだったよ。幼なじみの地位すら守りきれなかった、と無理に笑いながら僕に話しかけてくることになる。
付き合って約10ヶ月がたった。
高校2年生だった僕たちは3年生になり、本格的に進路を決めなくてはならなかった。紗希はきっと地頭は良いのだと思うが、目立ってはならない、バレてはならないということに意識を注ぎすぎていて、いつも平均の点数をキープしていた。「零くんはよく私に、地頭はいいーってよく言ってくれるけどさ、地頭なんてよくたってそれの使い方がわからないと意味ないし、地頭いいのにそれを使わないのは頭が悪いっていうんだよ」紗希はよくそんなことをいっていた。なんだかんだ不真面目そうに生きていながら色々考えていて、適当そうに返す割には核心を突いていて。明るさの裏に秘密を抱えていて。そんな紗希に対して僕の思いは大きくなるばかりだった。
紗希と僕の日常は何事もなく順調に進んでいった。喧嘩をするまえに何かを察した紗希が手を打っておく、というのもあったが、もともとの相性が良かったのか穏やかな毎日が流れていた。
しかし紗希はある日いきなり。何も残さずにこつぜんと、僕の前から、そして僕以外の人の記憶の中から、いなくなったのだ。
紗希が学校を休むなんて珍しい。
そう思っていた。そう思い込もうとしていた。本当は気づいていた。なんとなくいなくなってしまうんじゃないか、そう思っていた。
冒頭でも言った通り、これは、このお話は
不思議な眼を持つ君と、壊れた眼を持つ僕が恋を「経験」する話だから。
「紗希…!」
授業よりも大切なものがあるから。
困惑する先生や生徒を横目に、僕は走って教室をでた。
「紗希!紗希‥!!」
何度も名前を呼んだ。そうでもしないと忘れてしまいそうだったから。人は忘れられるときに声が一番最初に忘れられるらしい。低くもなく高くもなく平凡でもない。そんな耳障りの良い声。何回も何回も僕にたくさんのヒントをくれていた声。
「紗希……!」
救急車のーーーー音がした。
女の子が鉄骨の下敷きに…!
響き渡る悲鳴と絶叫。
見えなかった。人混みで何も見えなかったがあれは確かに紗希だった。いつもの紗希とは違ってすべてが赤くて目が開いていなくて‥とてもリアルな想像だった。僕はその場からしばらく動けなかった。
その出来事から何年経っても僕は紗希を忘れることができなかった。何が起きたのか。調べなくてはならないと思った。たくさんの文献を読み、なるべく沢山の情報を頭に入れていった。
そんな時、紗希のお母さんから連絡があった。
「あの子の日記を見つけたの。取りに来てくれるかしら。」紗希のお母さんは丸顔でふっくらとしていて愛嬌のある方‥だったはずだった。今となっては見る影もないくらい痩せこけていて、見るからに食事も睡眠も最低限しかとっていないようだった。
「これを…」
日記が差し出される。紗希の大好きなオレンジ色の日記だった。そこに僕が前に上げた髪留めが大切そうにかかっていた。
「読まなくてもいい。捨ててくれてもいい。返さなくていいから。いつか‥いつかあの子にあったことを君だけでも‥理解してあげてほしい。そしてこの日記を読んだら、何が書いてあろうともここに来てほしい。私は目を通したけれど、君にとってとても酷なことが書いてある。このまま捨てて紗希のことを忘れたほうがいいくらい。それでも私は君にこれを読んでほしい。紗希が残り少ない人生を捧げようと思った人だから。」
何を言っているのかわからなかったが、あの日の出来事が、ずっと僕が調べてきた何かがここにあるというだけで恐怖を覚えた。
「帰って大切に読ませていただきます。」そう言って帰ろうとしたとき、「読み終わったあと絶対にここにきなさい。」とまた言われた。もう一度来ることを約束して僕は早足で家に帰った。
○月✕日
やっぱり真面目な人は私のことが嫌いなんだなぁ…しかも相手は真面目で頭いいからこんなことしてるなんてかけらも表に出さないし嫌になっちゃうね。誰が君の彼氏に手を出したーだよ。勝手にあっちが来ただけじゃん。大体私が好きなのは零くんだっつの。って思ってたら余計悔しくて涙が出てきて。そんなとき、行き場がなさそうに視線をさまよわせる君が教室のドアの前に立っていた。思わず立ち上がって普段からしている完全に身についた笑顔で足早に教室を出た。なにか話せばよかったなぁ‥
○月△日
「君、私のこと好きでしょ」は言いすぎたか!とても恥ずかしいけど零くんと付き合えるとは思っていなかった。誰とも付き合う気なんてなかったのに。彼だけは思考が読めなくて、きっとそれだけじゃないけれどそんな彼に徐々に惹かれていった。私の余命が1年しかないっていったら彼はなんて言ってくるのかなぁ…
まあ予定を変える気はないけれどもう少し生きていたかったなぁ。私がやらなきゃ零くん死んじゃうんだからしょーがない。せめて好きな人の役に立って死のう。
○月□日
あーあ、今日か。零君が死ぬ予定だった場所。鉄骨が降ってくるんだよね、ここに。危ないから直してって言っても直してくれなかったもんなぁ…まあ未来は決まってるものだし、私がここにいれば零くんは来ないはず。生贄、みたいなの好きじゃないけど私の眼がそう言ってるから仕方ない。不甲斐ない彼女で申し訳ないなほんとに…
私が死んだあと零くんがすべてを知ってくれたらいい、なんて思っちゃってる。君の彼女はこんなに献身的だよ?幸せものだね。零くんは。大好きだよ。
見ていられなかった。あの日本当は僕が死ぬはずだった…?僕はその時間高校に行るはずだ。どうしてここにいて降ってきた鉄骨をくらうことになってるんだ。きっとそこは重要ではない。問題はーーー‥僕の代わりに紗希が死んだ……?
あの日死ぬのは僕の予定だった…?
思考がとまる。ふと日記に目をやるとメモがされてあった。
さて!零くんのことだから真面目にここまで読んだでしょ!偉い偉い。
彼女の少し丸みを帯びた文字
私の力はね、なんとなく思考がわかるとか行動予測とかそれだけじゃないよ。私の声も少し特別製。洗脳に近い力を持ってる。発動条件なんてまちまちだし大した力じゃないけどね。クラスメイトの記憶を消すのなんて簡単だったよ。ついでに零くんの記憶も一欠片もらったよ。零くんがこれを読めるくらい生きてたってことは成功したってことだから答え合わせしてあげるね。私が消した記憶はね……
音がなくなった
あんなにうるさかったセミの声が聞こえない。頭が回らない。だとしたらあれも…これも…全てに辻褄が合うようだった。
君は私の弟だよ。流川零くん
ならどうして同じ教室に?って思った?そんなん私が留年したからに決まってるじゃん。どうしても私は零君が好きだったんだ。あ、ちなみに学校があるにも関わらず零くんがあの場にいる予定だったのは、私の洗脳が思いの外早く解けちゃって、パニックになって教室を飛び出すってとこからきてるの。それなら私が教室にいて止めればいいって思うかもだけど、変えられないこともあるんだ。死者の数だけは変えられない。死者の帳尻を合わせなくてはならない。だから代わりに誰かが死ぬしかなかった、ってだけの話。血がつながってるのに変な感じだよね。付き合ってる男女の高校生が部屋で二人。何も起きなかったどころか一年付き合ってて手を繋ぐ以上のこと、しなかったよね。できなかったでしょ?血がつながってるんだもん。本能が拒否してたんだよ。
きっと零くんの目が変なのは私が取っちゃったんだよね。私が人よりも優秀な目を持っちゃったから。
辻褄が合わない記憶を消して、私の彼氏に仕立て上げちゃった。ごめんね。一年で死ぬ私なんかに。でもね、今、洗脳は解けたよ。完璧で自由奔放だった彼女は今、君のお姉ちゃんになった。
思い出せたかな?零君今まで幼いときの記憶なかったでしょ?ごめんね。やっぱり私は零君のことが好きで仕方なかったんだ。
思い出した。僕は…親に捨てられたんだった。紗希とは一緒に施設で育ったんだ。
あれも…これも…今までのなかった記憶がパチリパチりとはまっていく。
だめなお姉ちゃんでごめんね
私が言えることじゃないけど
私のことは忘れて幸せになってください。
君はいい人だよ。大切にしてくれてありがとう。
たくさんたくさんありがとう。
洗脳が溶けたとはいえ僕の気持ちは変わらなかった。きっと洗脳を受ける前から僕は紗希のことがすきだったから。「こんな結末‥ないよ…」
僕は溶けたようにねむった。
翌朝、頭はビックリするほど冷静だった。
紗希の…母親に…ううん、育て親に…会いに行かなきゃ…
とにかく走った。
紗希が住んでいた家についた。
「来てくれたんですね」
相変わらず食事はほとんど取っていないように見えた。
「全部を知って君はどう思った?」
僕は答えられなかった。ただ、どうしても思いは変わらないということだけは伝えたくて、伝わらなくてもいいから。「僕は紗希さんを愛しています。姉弟でも変わりません。」
紗希のお母さんは納得したようだった。しかし悲しそうに、あの子の影を追うのはやめない。幸せになりなさい。それだけをはっきりと伝えてきた。
「考えます。」
そう言って家をあとにした。
考えるまでもなく僕は紗希を思い続ける気満々だった。
ゆったりと歩き続ける。
春の匂いが広がっていた。
もしまた会えたら。
生まれ変わりでもおばけでもなんでもいい。
そしたらもう一度、僕と恋をしてくれますか。
「ねぇねぇそこのおにいちゃん、目が悪いでしょ?」
小学生くらいか…?あまりにも大きい目を隠すような笑顔で彼女は僕を見上げていた。