様子がおかしいとは思ってた。
一緒に暮らすようになる前から、
目の下のくまはひでぇし、
中学の時に比べれば飯は食わねぇし、
挙句の果てにはたまに吐いてる。
最初はストレスかなんかだと
思ってたがおそらく違う。
たぶん、これは。
朝、俺が起きる前に必ず目を覚ましてソファに座ってタオルを触っている。
「マイキー、明日 病院行くぞ」
ぼー、と外を見ているそいつに声をかけた。
高校あたりから連絡が取れなくなって
大人になってバイク屋に務めて、
部品が足りないからと買いにでた町中で
見つけて思わず声をかけた。
中学の時は金髪で。
ブリーチした髪は櫛が若干通りずらいほど
傷んでいたのにあれから数年、
身長こそ変わらないものの
銀とも白とも判別がつかないが、
短く切り揃えたそいつはまったくの別人で。
ただ一言言えたのは、
「壊れそう」
それだけが第一印象だった。
俺が声をかけると、
しばらくマイキーは固まり、
言葉を探すように
俺の名前…あだ名を口にした。
「けん、…ちん、…、?」
「…お前、…ッおまえ、なんで連絡とれねぇんだよ!どこにいやがった!」
当時はものすごく焦った。
東卍は解散して、
タイムカプセルをうめて12年後のあの日、
こいつは来なかった。だからこそ焦った。
昔から、昔からなんでもかんでも
1人で背負い込む性格だからだ。
人になんか言わない。
具合悪くても口にしないから
困っていたものだ。
「………あぁ、……うん、」
ごめん、と笑うその顔は
中学の時のような笑顔じゃなかった。
思わず手をひいて部品購入は後回しにした。
今はこいつを人混みから遠ざけないと。
そう思った。
「ケンチン、腕 いてぇって、」
しばらく歩いていると声がする。
「…!あ、…わりぃ、」
ぱ、と腕をはなすと ふと気づいた事がある。
腕の数箇所に注射痕。
「マイキー、お前…それ、」
「あぁ、…これ、…うん今はやってないよ」
それは俺に会う数年の間にやった。と、
そうゆうことか。こいつは、薬を…?
だから、こんなにくまがひどくて
声もはりがない。
「俺の家に行くぞ、」
昔していたように、ひょい、とマイキーをおんぶすれば歩き出す。ひどく懐かしいその体温だったが昔に比べれば体重も若干軽く感じた。
「ケンチンの部屋…ひろ、…」
「そうでもねぇだろ、」
とりあえずソファに座らせてやり
「何があったんだよ、お前、
そのくまも、腕のそれも、」
問いただすと マイキーは困ったように笑う。
「もう、大丈夫だから、
…ケンチンにも会えたし」
なにが大丈夫だと言うのか。
まるで死ぬ前のようだと、そう感じた。
「………………死ぬなよ、?」
その言葉を出せば マイキーは目を丸くさせる
「俺が死ぬの?…ないない」
少しやせ細った手をふって否定する。
「……俺と暮らせよ、」
次には言葉にしてしまったし少しは自分の中で抑えようと思った言葉が先走った。
「…え、…ケンチンと、?」
相当びっくりしたのだろう
俺を見る目は猫のようにまんまるだ。
「…ン、」
実は、実は、と言うか
中学生の時からマイキーと俺は付き合っていた。俺の住んでる所がところだし、
色々やり方だのなんだのは知ってたが
マイキーには当時 手を出してない。
ましてや、キスも。
だから、「恋人」の関係にあったのかすら危ういが。
「……俺、ここにいていいの?」
ぐるぐると考えているとマイキーが言葉にする。
何かに耐えるようにギュ、と自分の服を掴んでいる。
「いていい、ってか、…いろよ、」
ここでまた手を離してしまったら今度こそどこかに居なくなってしまう。そう思った。
「…へへ、…ありがと、ケンチン、」
一緒にいたい、とマイキーから言葉にしてくれたため、そこから俺との同居生活が始まった。
荷物があるから、と一旦出て行くため連絡先を交換した。何かあったら必ず連絡しろ、と念入りに。
しばらくすればカバン1つを持ったマイキーが玄関前に居て。
「………………それだけ?」
もしかして家に住んでなかったのか?そう思うほど荷物が無かった。
「うん、これだけ。ほら、俺もともと 部屋にも荷物なかったでしょ?私物」
お邪魔しまーす、と部屋に入る姿は中学の時と変わらないが
「いや、そうだけどよ。ちゃんと飯食ってんのか?」
「んー、…………………食べてるよ」
「嘘つけ、作ってやるから風呂はいってこい」
び、と風呂場を指さし。
「…はーい、」
素直に頷くと風呂場に歩いて行った。
「オムライス作るか、…」
そしてそこから色々問題が始まったんだ。
その日はオムライスを作った。
その時は食べた、
しかし、数時間もしないうちに吐いた。
気持ち悪い、と顔を青ざめさせて
トイレに駆け込んだかと思えば便器の中に食べたはずのものが全部吐き出された。
「お前、…」
この時点で何となくわかった。
「拒食症」
見ていれば水も飲んでない。
だから、病院に行こう、と提案した。
「ケンチン、俺は」
大丈夫だと言ってくるから
半ば強制的に連れていった。
暴れ無かったからバイクの後ろに乗せて。
そして案の定診断されたのは
「睡眠障害」「拒食症」「過労」
フルコンプじゃねぇか、と
思いつつ点滴をうってもらった。
そのうちに医者と話をした。
ストレス的なものも要因であるものの
それとは別に睡眠薬の乱用、昔打ち込んだ薬。それも関係していると言った。
「睡眠薬の…乱用?」
俺と住むようになってからは薬を飲んでる姿なんて見たことない、
…いや、違う。俺が仕事に行ってる間か。
点滴が終わると幾分か顔色が良くなっていた。心無しか くまも薄くなった気がする。
「大丈夫か?ほんとに、」
「ごめんね、ケンチン、今も昔も迷惑かけてばっかで。」
病院から出るため歩みを進めるとマイキーから言葉が落ちた。
「迷惑なんて思った事ねぇぞ。」
ぼふ、とマイキーの髪の毛を撫でる。
さらさらと指通りがよくなった髪の毛とは
裏腹に表情は曇ったままだ。
「大丈夫なら、ちょっと付き合えよ。」
「…、?」
がぽ、とヘルメットを被せてやりバイクに乗れば俺の後ろに乗るように促す。
「ちょっと走ってから家帰ろうぜ」
バイクを走らせた。
最近お気に入りの港の工場。
チカチカと光るライトが綺麗で
よく見に来るんだと、
色んな話をしながら1時間くらい走らせた。
マイキーは時々笑いつつ話を聞いてくれた。
「飯も、食べれる時にゆっくり食べてけばいい。無理にとは言わねぇけど、少しは食えるようになろうな、」
「…ッ、うん、……」
また自分の服を強く握ってマイキーは頷いた。
それから1ヶ月。
色々チャレンジして
少し健康体に近づいてきた。
そう思ったのだが、
ある日の夜、事件は起きた。
マイキーが睡眠薬1瓶の半分を
飲んでソファに突っ伏していた。
仕事帰りにたい焼きを買って帰ってきたおれはリビングの電気をつけて 思わずたい焼きが入った袋を落とした。
「は…?? なんで、…おい、
…ッマイキー!!
っ、しっかりしろ、……ッくそ、」
急いで救急車を呼んだ。
恐らくだがマイキーは。
以前に診断してもらった
病院で医者に言われたのは
「オーバードーズ」
薬を過剰に摂取してしまう。こと、だと。
とりあえず胃の洗浄をしてもらって目が覚めるのを待った。
気を遣ってくれたのかマイキー1人の病室で。
ストレス、…?
ストレス、なのか、何が原因だ…、?
ぐるぐると考えていると もぞ、
と目の前の布団が動く。
…続きます。
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