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#ポケモンオリキャラ
S_☆
116
ここはメレメレ島、ハウリオシティのビーチサイドエリア。
人とポケモンは輝くアローラの太陽の下、海を満喫していた。ビーチバレー、サーフィン、サメハダーライド──。
楽しそうな声が響く中、グズマは一人、ぼーっと海を眺めていた。
わざわざこの町まで足を運んだのは、遊ぶためではない。テレビで特集されていたマラサダを買うためだ。そう、新発売のココア味のマラサダ。だが、期待に胸を躍らせて店に行ったら、張り出されていたのは「完売」の文字。
「はあ……」
グズマのため息は、波の音に掻き消された。
人生なんてこんなもの。絶望しかない。あんなに楽しみにしていた自分が、馬鹿に思えた。
「ちくしょう」
食べたかったぜ、ココアマラサダ……。
砂浜に黒い影が通り過ぎた。
グズマは、空を仰ぐ。サソリのようなポケモンが、上空を旋回していた。
「グライオン……?」
この辺りでは見かけないポケモンだ。
「見つかったか?」
紫色の髪の、綺麗な身なりをした育ちのよさそうな青年が、上空のポケモンに問いかける。
グライオンは首を振った。
青年は肩をすくめ、腕に付けた時計をいじり、ぶつぶつと呟いている。
金持ちのおぼっちゃんが、アローラに観光にでも来たのだろう。ちょうどいい。マラサダが買えなくてむしゃくしゃしていたところだ。それになぜかな、このスカした青年をブッ壊したくてたまらない。
「おい、そこのおぼっちゃんよ」
声をかけると、金色の瞳がグズマを見た。
「俺と勝負しろや」
「すみません。今、それどころではなくて……」
「目と目があったらポケモンバトル! この世界の常識だろうが!」
グズマは、モンスターボールを突きつけた。
悪いな師匠。約束破っちまうけど、この感情を抑えきれそうにねえ。
「どうした、さっさとポケモン出せや。俺様に怖気づいたのか?」
なにを言っても無駄だと察したのだろう。青年は、諦めたように腰のボールに手をかけた。
バトルは、あっけないものだった。青年は、グズマとポケモンたちの圧倒的強さに、手も足も出ず終わった。
「そんな……」
瀕死のパートナーを抱き起し、絶望する青年を、グズマは見下ろす。
「思い知ったか、おぼっちゃんよぉ」
グズマは、ケタケタと高笑いした。
──これは、グズマの想像していた結果。実際は、思い描いていたものとまるで違っていた。
「グライオン、ストーンエッジ!」
無数の尖った岩が、アメモースに命中した。
「ッ……!」
グズマは、倒れたアメモースをボールに戻し、目の前の青年を睨んだ。
ふざけんな。なんなんだ、こいつ。
的確な指示、冷静な判断、洗練された読み。ちょっとやそっとで身につくものじゃない。こっちが仕掛けても、すぐに対策をひねり出してきて、バトルの流れを持っていかれる。ポケモンたちも相当鍛えられている。そして、トレーナーを信頼し、全力で戦っている。
グズマは、唇を噛んだ。
あいつの姿がチラつく。同じ気迫を肌で感じる。
今、自分が対峙しているのは、幾多の戦いをくぐり抜けてきた強者──。
「いけ! グソクムシャ!」
グズマの最後のポケモンだ。しかし、戦いのダメージが残っている。相手は十中八九、ひこう技を撃ってくだろう。素早さも上だ。この攻撃で仕留められなければ、負ける。
「グライオン、アクロバット!」
「ふいうち!」
グライオンは、持ちこたえた。
相手の攻撃が、グソクムシャにヒットする。グソクムシャは耐え切れず、砂浜に倒れた。
もう戦えるポケモンはいない。青年の勝ちだ。
「クソォッ!」
グズマは、頭を掻きむしった。
「なにやってるんだ、グズマァ……!」
悔しい。悔しい。悔しい。また、負けてしまった。たかが観光客のおぼっちゃんだと舐めていた。もっといい指示を出せたはずだ。もっとこいつらの力を引き出せたはずだ。自分のせいでポケモンたちを勝たせてあげられなかったことが、なによりも悔しかった。
「使ってください」
差し出されたのは、キズぐすりだった。
「いらねえよ!」
俺のポケモンだ、自分で治す。助けなんているか。
グズマは、傷付いた相棒にオボンの実を食べさせた。
青年は、じっとグズマを見つめた。
「あなたは、スカル団のボスですね」
「ッ……なんで知ってる?」
「風の噂で聞きました。まさか、バトルを申し込まれるなんて思いませんでしたよ」
それなら、俺がどういう人間かも知ってるんだろう。島めぐりに挑戦したものの、夢だったキャプテンにはなれず、全てを投げ出した。がんばっても誰からも認められない。破壊でしか自分の存在価値を見出すことができない。馬鹿で、惨めな男だ。
「なんの苦労もなさそうなおぼっちゃんには、分かんねえだろうよ」
グズマは、吐き捨てるように言った。
「……そう見えますか?」
「あ?」
青年は、苦笑を浮かべていた。
バトルの決着がつき、ビーチは元の賑やかさを取り戻しつつある。
目の前に広がる海を見つめ、青年は静かに話し出した。
「身内が優秀すぎるというのも、つらいものです。僕の家族は皆、才能のある立派な人たちだった。だから、当然周りは僕にも期待する。残念なことに、僕は凡人でした。人の何倍も努力しなければならなかった。プライドばかりが高くて、期待を裏切らないように必死で……プレッシャーに何度も潰されそうになった。いっそのこと、全部投げ出してしまえたら、どんなに楽だろうと思いました」
グズマは黙り込む。
とても他人事とは思えなかった。
「それでも、腐らずにここまで来れたのは、支えてくれたポケモンがいたから。そして、自分のことを認めてくれる人に出会えたからだと思います」
青年は、グライオンの頭を優しく撫でた。
さっきまでの感情が、波が引くように消えていく。代わり芽生えたのは、親近感だった。
グソクムシャが、グズマの頰に擦り寄る。
ああ……そうだ。こんな俺を見捨てずについて来てくれた。皆が後ろ指をさして笑っても、ポケモンたちはいつも俺の味方だった。どんな時も側で支えてくれた。昔も、今も……。俺は決して、一人ではなかった。
「……おぼっちゃんも、いろいろと大変だな」
「おぼっちゃんはやめてください。僕はセージです。ジョウトのアルトマーレから来ました」
「俺はグズマだ。アルトマーレの海は、ここよりも綺麗なのか?」
「負けてませんよ。でも、故郷の海が一番です」
「ハハッ、違げえねえ」
驚いた。こんな風に笑えるのか、俺は。
二人は暫く、海を眺めた。
言葉はいらない。二人の間には、さっきまではなかった絆ができていた。
「そうだ!」
セージは、思い出したように口を開く。
「グズマさん、実は連れとはぐれてしまって、捜しているんです。もし、小柄で長い黒髪のピカチュウを連れた女性がいたら、すぐホテルに戻って連絡するように伝えていただけますか?」
「分かったよ」
グズマは、セージになにかを投げて寄越した。それは、銀の王冠だった。
「やる。言っておくが、ガラクタじゃねえぞ。アローラの記念にとっとけや。それと……悪かったな」
少し、大人気なかったと思う。
セージは目を瞬くと、王冠をぎゅっと握り、「ありがとうございます」と、笑みを浮かべた。
フンと鼻を鳴らし、グズマは背を向ける。
次に会う時は、こうはいかねえ。必ず俺たちが勝ってやるからな。覚悟しとけ、セージ。
おまけ
「セージ、それなに?」
「銀の王冠だよ。ある人にもらったんだ」
「へえ。わたしは、おじいさんにカプ・コーンのお守りもらったよ」
「カプ・コケコだよ」
「あっ、そうそう、コケコ! ねえ、まだ怒ってる?」
「あれほど側を離れるなと言ったのにいなくなるし、ライブキャスターは繋がらないし、事件に巻き込まれたのかと思ってヒヤヒヤした」
「ごめんね。もう離れたりしないから」
「それはアルトマーレの時も聞いた」
「うっ……ごめんなさい」
「はあ、仕方ない。新発売のマラサダで許すよ」
「あ……実は、おじいさんとサングラスの男の人にあげちゃったの」
「なるほど。じゃあ、あれで許す」
「あれ?」
「……コホン」
「ふふっ、わかった」
さくらは、セージの頰にキスをした。
コメント
1件
読み終えたわ!これ、めっちゃ良かった……。 グズマ視点で始まると思いきや、まさかセージにボコボコにされる展開で「あっ!?」ってなったw でも、その後の二人の会話がめちゃくちゃ刺さった。お互い「似た者同士」って感じで、グズマが心開いていく流れが自然で熱いわ。おまけのさくらとのやり取りも可愛くて好き。続き読みたい🔥