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「俺と付き合ってください」
幼なじみはそう言う。彼と別れてからどれほど経ったのだろう。当たり障りのない日々を消化していると、突然若井に呼び出された。そういえば一日中そわそわして、目元には隈もあったっけ。今日は朝からずっとレコーディングで疲れていて、話は冒頭に戻るが上手くこの状況が飲み込めていない。
人気がなくて良かった。暗がりの中頭を深く下げているため顔は見えない。この光景既視感があるな、なんて呑気に考えながらだいぶ涼しくなった夜風に身を任せ彼を眺めていた。
「ずっとずっと、出会った時から好きだった。ミセスの活動に影響するのは分かってるけど、どうしても堪えきれなくて…。好きな人がいるのも知ってる。でも、もし俺でよければ付き合って下さい」
ばっと顔を上げ、今にも泣きそうな顔でこちらを見てくる。たった2人のメンバーで、親友に告白されるってこんな感じだったのか。君を思った以上に困らせていた事に気付く。段々若井が困惑が混ざった表情になっていき、返事を考えねばと思わされる。
「…いいよ。でも、1個聞いて欲しい」
一瞬明るくなった瞳に胸のどこかが軽く痛む。唇を湿らせ、続きを言う為口を開いた。
「俺実は失恋したばっかりなんだよね。前言った人なんだけど。若井はその人より、その人の分愛してくれるの?」
我ながら最低な事を問う。だが予想に反し彼は自信に満ち溢れた笑みで頷いた。
「勿論。嫌という程甘やかすし、誰よりも深く愛すから」
愛してくれるなら、いいか。半分やけくそになった頭でそう思う。よろしくお願いします、と言い軽く会釈した。すると彼はきらきらと子供のような笑みを弾けさせ、まじで!?という叫びに似た歓声が聞こえそのまま勢い良く抱きしめられた。
温かい。でも、あの時とは違う。
君の焦がれる様な、手離したくないといいたげなハグとは違った。相手は誰なのかな。ふと、思う。夢にまで見てしまうような素敵な相手で、涼ちゃんが好きになった人なら叶うわけないかと自嘲した。なんとなく、俺たちは無様な恋をしていたんだろうなと感じる。
最悪な奴としか言いようのない俺は、何もかも頭の中から追い出す。抱きしめ返し、彼の全て受け入れるようなぬくもりに溺れていった。
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読んで下さりありがとうございます!
これにて『直角三角形』、完結となります。果たしてこれはハッピーエンドなのか、それともトゥルーエンドなのか。その後などは皆さんにお任せします。この作品に限らず、沢山のいいね、温かいコメントなど本当にありがとうございます。
次のお話も読んで頂けると嬉しいです。
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