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#禪院甚爾
欲 。
89
さーもん
48
641
とーにゃん
94
それから数年の時が流れ、すべてが終焉を迎える時が来た。禪院家の崩壊。かつて自分がその頂点に立つと信じて疑わなかった誇り高き家系は、皮肉にも甚爾の血を引く少女の手によって一晩で壊滅した。そして直哉自身もまた、泥と血に塗れ、呪力を持たない母親の手によって背中から刺されていた。
「なんで……俺が、こんなところで……っ」口から溢れる鮮血が、冷たい床を赤く染めていく。エリートとして生きてきた男の最期としては、あまりにも無様で、惨めな結末だった。体温が急速に奪われ、視界がかすんでいく。死の恐怖のなか、脳裏に去来したのは、やはりあの男の背中だった。結局、自分はあの人のようにはなれなかった。あの圧倒的な「強さ」にも、何者にも縛られない「自由」にも、何一つ届かなかった。
(結局……あんたの記憶に、俺は残れたんかな……)
金を払わなければ見向いてもくれなかった、冷酷な男。最期まで自分を「都合のいい金蔓」としか見ていなかったかもしれない。それでも、あの人がいない世界は、直哉にとって一秒だって生きる価値のない地獄だった。
(あぁ、でも……)
薄れゆく意識の向こう側で、直哉の視界に突然、鮮やかな黄色が広がった。それは血生臭い屋敷の床ではなく、十歳のあの日、自分が一人で泣いていたあの夏の庭。太陽に向かって狂おしいほどに咲き誇る、大輪のひまわり。
「顔、拭いとけ。弱そうなツラしてっと、余計に付け込まれるぞ」
幻聴だろうか。耳の奥で、あの低くて気怠げな声が、とても優しく響いた気がした。あの時、甚爾が投げてくれた手ぬぐいの感触。あれだけは、金を介した歪な関係になる前の、嘘偽りのない本物の記憶。
「……甚爾、くん…」
直哉はかすかに口元を緩め、最後に小さくその名前を呼んだ。それは、傷つけられることでしか繋がれなかった男への、最初で最後の、純粋な恋情の吐露だった。直哉の身体から完全に力が抜け、その瞳から光が消える。誰もいない真夏の庭で、ひまわりが静かに揺れている。たとえ男の記憶には残れず、独りよがりの一方通行で終わった人生だったとしても。直哉の魂は、あの夏の日の光の中にだけ、確かに自分の居場所を見つけていた。焦がれ続けた太陽に、ようやく焼き尽くされるようにして、禪院直哉の物語は静かに幕を閉じた。
コメント
1件
読了したよ…!!😭💔 直哉の最期、あまりにも切なくて胸がぎゅーってなった…。甚爾のことを「あの人」と呼び続けて、最後にやっと「甚爾くん」って名前を呼べたのがもう、報われなさすぎて涙止まらんかった。ひまわりの記憶が鮮やかに映るラスト、彼の魂がやっと居場所を見つけられたんだなって思うと、苦しいけどどこか救われた気持ちにもなるよ…。完結お疲れさま、欲。さん!!素敵な物語をありがとう🌸✨