テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
#ベリアン・クライアン
ぷち
296
主は仕事終わりに指輪を着けて、執事達の居る世界に行く事が日課になっていた。
その日は休日前夜で、どうやって過ごそうかと思っているとドアをノックする音が響き渡った。
「どうぞ。」
主が返事をすると、ベリアンとムーが入って来た。
「主様、お疲れ様です。おやすみ前のカモミールティーはいかがですか? ノンカフェインでリラックス効果もあるので、おやすみ前にぴったりですよ。」
主はせっかくならと紅茶を頂く事にして、しばらくベリアンとムーとお話をしていた。
「フフッ…主様の世界ではそのような風習があるのですか?聞けば聞くほど、東の大地と似ていらっしゃいますね。」
主は執事達の世界と似ているところを話していると、どうしても東の大地と似ているところが多いようだった。
「僕も主様の世界に行ってみたいです!行ける方法があれば良いんですけどね…」
ムーは少ししょんぼりした表情で主に喉元を撫でられていて、気持ち良さとほんの少しの歯がゆさが、ムーの心を揺さぶった。
「そうだね…もし、皆んながこっちの世界に来る事が出来るなら、私は皆んなに平和な世界で生きていて欲しいな。
でも…それが皆んなの良心を痛める事に繋がるのなら、私は…此処で皆んなと一緒に戦いたいって思ってる。
私は皆んなみたいに戦う事が出来ないし役立てる事なんてないけど、私にも出来る事は何かあると思うんだ。
…って、ごめんなさい。私、変に語りだしちゃったよね。でも、本当にそう思ってるよ。」
ベリアンは主の心からの思いを、しかと受け止め主の前で跪いた。
「主様…私は、主様にそのように思って頂けて嬉しく思います。私はそんな心優しい主様だからこそ貴女の支えになりたい、貴女の側に居たいと思ってしまうのです。
私達執事は、主様が居ないと悪魔の力を解放する事は出来ません。…私達が主様を支えます。主様の側に仕えお守りする事を此処で誓わせて下さい。」
ベリアンはそっと主の手の甲に誓いのキスをして尊敬と敬愛、忠誠を示した。
主の膝の上に居たムーも慌てて降りて、主の手の甲にそっとキスをした。
「…なんか、照れちゃうね。ありがとう。」
その時─
再びドアをノックする音が部屋に響いた。主が返事をすると、アモンが入って来た。
「失礼しますっす、主様。…すみません、盗み聞きするつもりはなかったんすけど、全部聞いちゃったっす。
…俺からも、誓わせてくれないっすか?主様の事は俺も守りたいって思ってるんすから。」
アモンはそう言うと、主の前に跪き手の甲に優しくキスをした。
主は恥ずかしくなり、アモンが部屋に来た理由を問い掛けた。
「これっす。今日、完成したんすよ。」
アモンはそう言って主に小瓶を手渡した。
「…これって、」
主は小瓶を開けてみると薔薇の良い香りが鼻をくすぐり、アモンをより近くに感じさせた。
「薔薇の良い香りっすよね♪庭の薔薇でコロンを作ってみたんすよ。主様に使って欲しいっす。俺の事…これでいつでも、思い出せるっすよ…?」
いつものイタズラな顔で主に向かって片目を瞑った。
「ありがとう、アモン。大事に使うね。」
主は胸の高鳴りを抑えながら、お礼を言い試しにつけてみる事にした。
薔薇の香りが鼻腔をくすぐり、アモンの腕の中に居るような温かな感覚を覚えた。ベリアンとムーも香りに酔いしれて庭に居るような感覚を覚えた。
「流石、アモン君ですね。目を閉じると、まるでお庭に居るようです。」
「良い香りです。お庭でお昼寝してるような気分ですね〜」
「へへっ…主様はいかがっすか?」
主は赤色と白色のリボンが結ばれている事でアモンを連想して、優しい気持ちになる事を伝えるとアモンは頬を緩ませた。
「それは良かったっす。俺はそろそろ戻るっすけど、もう寝るっすか?俺で良ければ安眠サポートするっす♡」
アモンは猫のように主にすり寄り、安眠サポートをしたそうにしていた。
「…じゃぁ、お願いしようかな?」
「では、私はこれで失礼致しますね。おやすみなさいませ、主様。ゆっくり休んで下さいね。」
主がお礼を言いベリアンが主の部屋から出て行くと、主はベッドに横になりムーもベッドの中に潜り込んだ。
「…吸って、吐いて…」
アモンの言葉に従いゆっくりと呼吸をしていくと、 主はゆっくりと夢の中に誘われていきムーも主の側で寝息をたて始めた。
主が完全に寝た事を確認すると、アモンは主の額に優しくキスをした。
(可愛い寝顔っすね♡)
✢✢✢
私が小さい頃、父方の家に行った時はよく罵倒されていた。私が女として産まれてきてしまった事が原因だった。
兄と弟は男だからという事で甘やかされていた。別に私もその中に入りたかった訳ではないけど羨ましかった。
元々そんな大した家柄でもないのに、医療系家族の元に産まれて来てしまったがために私も医療系の道へ進む事を余儀なくされた。
今でも鮮明に覚えてる、大人になった今でもあの言葉があの顔が頭からどうしても離れずにずっと苦しませてくる…
『産まれてこなければ良かったんだ!』
『お前なんか要らない子なんだよ。』
嫌…止めてよ。なんでそんな事言うの?
私が貴方に何をしたって言うの?何もしてないじゃない。私はただ産まれて来ただけじゃない。それが駄目だっていうの…?
私は産まれたくて産まれた訳じゃない。
✢✢✢
「……ま!」
「主…起き…い!」
「主様!」
ムーは必死に主の体を揺すりながら、起こそうとしていた。主は気が付くと、呼吸はまともに出来ず、汗をびっしょりとかいていて震えが止まらなかった。
「主様!やっと起きてくれたんですね。ずっと、うなされてたんですよ?僕、ルカスさんを呼んできます!すぐに戻るので待ってて下さい!」
ムーはベッドから飛び降りると、廊下を走ってルカスの元へと駆けていった。
その間、主はずっと震えが止まらず息が上手く出来ず、まるで水の中に居るような感覚に陥ってしまっていた。
「主様!ルカスさんを連れて来ました!」
「主様!如何されましたか!?」
主は涙で顔をぐちゃぐちゃにし、体を震わせ息が上手く出来ずに居た。
(…これは、過換気症候群ですね。主様はこちらに来る以前から何やら訳アリな様子でしたから原因はそれですね。)
「ムーちゃん、フルーレ君に服を貰って来てくれるかな?」
「はい!」
ルカスから指示を受けたムーは急いでフルーレの元へ向かって行った。そしてルカスは主の側へ行き、近くにあった紙袋を口元に当てゆっくりと呼吸をするよう促した。
しばらくすると主の呼吸は落ち着きを取り戻し始めたので、ルカスは主の頭を優しく撫でながら抱き締めた。
「大丈夫ですよ、主様。私が側に居ますから安心して下さい。…怖い夢でもみてしまいましたか?」
主は過去の自分のトラウマを夢にみた事を伝えると、ルカスは主の額にキスを落とした。
「今すぐに治るものではありませんが、私達執事が居ますから。主様はもう1人ではありません。」
「…うん。ありがとう、ルカス。」
ムーとフルーレは部屋に入ると、ムーは主の膝の上にフルーレは主の側に来た。
「主様…」
「主様、お体は大丈夫ですか?お着替えをお持ちしました。俺も手伝いますから服を脱ぎましょう。」
主が頷くと、フルーレに手伝ってもらい着替えを済ませると、ついでにシーツも新しいものに取り替えた。
寝支度が終わるとルカスとフルーレは部屋から出て行き、主はムーを抱き締めながら眠りにつこうとした。
「主様…僕、主様の役に立ててますか?僕は戦う事は出来ないですけど、主様のお役に立ちたいんです。」
主はムーの体を撫でながら、優しい声で話し出した。
「ありがとう、ムー。ムーは今でも十分に役に立ってるよ。その証拠にさっきだってルカスの事連れて来てくれたもの。」
ムーは主の言葉を聞くと主の体に自身の体を擦り寄せて、喉を鳴らした。
「主様は優しいです。…僕、主様に拾ってもらえて嬉しいです。」
ムーの正体はほとんど謎に包まれていて、絶望を経験しゴエティアと一緒に過ごし初めて悪魔と契約を交わした猫 という事以外は分からずにいるが、今はれっきとした立派な執事であり仲間になっていた。
ムーは主の側から離れようとせず、ぴったりくっついて主が眠りにつくまで待ってから目を閉じ眠りについた。
†††
朝日がカーテンの隙間からこぼれ落ち、主の部屋に入り込んで来た。
「…ん〜…朝、」
主はムーがぴったりと自身にくっついているのを見てずっと守ろうとしてくれていたのだと思うと、胸が熱くなった。
(ありがとう、ムー。…たとえ猫であろうとムーは私の大切な執事だよ。)
主はムーの頭を優しく撫でていると、ムーはゆっくりと目を開け始めた。
「…あるじさま…おはようございます。」
「おはよう、ムー。」
主とムーは身支度をして朝食を食べると、昨夜のお礼も兼ねて猫用のおやつをバッグから取り出した。
「昨日はありがとね。お礼のおやつ♪」
「やったーありがとうございます、主様♪」
屋敷に来て執事達に出会ってから、人生が変わっていった。
これからはきっと…
fin.
読んで下さりありがとうございます.
コメント
3件
第20話、じっくり読ませてもらったよ。ムーが主様にぴったりくっついて守ろうとしてる姿、本当に愛おしかった…猫の執事っていう設定がもう最高に刺さるんだけど、それ以上に「役に立ててますか?」って不安そうに聞くムーに胸がぎゅっとなったよ。主様の過去のトラウマ描写も生々しくて、でも執事たちがそっと支える優しさが沁みた。アモンのコロンのシーンも可愛くてニヤけたわ。温かくてちょっと切ない、素敵な話だった!