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コメント
1件
枕要素あまりないね友人ごめんちょ💕︎
コメント欄のお題か気紛れで書く安吾受け。
初回は友人からのお題「枕」
※ちょくちょく安吾さんの敬語が外れます。
※そう言う感じはないけど昨夜は交わっていたので情事後です
※部屋とか家具などについては全て捏造です。原作ではこのような記述はされておりません。
朝の陽光が窓からゆるりと差し込む、冬の空っ風が僅かに開いた窓から吹き、アイボリーのカーテンを翻らせた。ブルリと身体が寒さに震え、浮上した意識と共に気だるさを連れてきては、目の前に眠る赤銅色の彼の体温の恋しさを思い出させる。
「ん、、、」
身体は未だに眠りの淵に浸っていた余韻が消えなく、上半身とも下半身ともつかない身体のどこかが重たい。寝ている間に寝返りを打ちすぎたのか、昨夜の行為が激しすぎたのか定かでないが、シャツが草臥れてもはや服としての機能を成していなかった。
「、、、さむい」
よたよたのシャツのせいで外気に晒されていた肩を撫ぜると、指先に灯る体温が妙に温かった。この時期は空気が冷たいし乾燥する、たったの1晩、窓に少しの隙間を開けていただけで唇はぱさぱさだ。最も、幼気な生娘でも無いので気にはしないが、昨晩までは乾燥どころか、僕も彼も身体中が濡れて濡れて仕方なかったのに。いやはや、冬とは凄い物だ。傍らで眠りの海をゆるりと漕ぐ彼の肩を揺さぶったら、優しく少し蕩けたブルーグレイの瞳が、僕を真っ直ぐ捉えた。
僕はこの人の隣で寝る様になってから、存外冬の魅力に気付き始めた。
だって、寒さを言い訳にしてしまえば、いつもしないような甘え方だって出来るから。
「織田作さん」
無精髭の残った顎を指先で撫でながら、いつもより素直な声が出る。
「どうした?」
「さむいんで、はぐして下さい」
焦点の合わぬ視界でも、彼が軽く腕を広げているのが分かった。
ほうら、この通り。
布擦れの音が、僕を彼の胸の中へと導いて、昨夜獣に返った筈の貴方の体温は温かい。こんなふうに甘えたのなんて今まででそんなに無いけれど、いつものように貴方の首下に潜り込んで密かに笑んだ。
冬が好きだ、背を撫でる貴方の手の優しい体温が、いつもより分かりやすいから。
「織田作さん」
「ああ」
「いま何時ですか?」
時計を見ようとしましたけど、眼鏡が無くて見れなくて。
寝起き特有の掠れた声で返事をしてくれた貴方が、僕を胸に抱き込んだままそっと壁に掛けられた時計を見る。つられて、僕ももう一度見てみようとしたが、前裸眼で見た時より数字が滲んで見えてしまった。目を凝らしても変わらなかったので、諦めて彼の腕の中でジッとする事にした。
「今は、、、えーとな、6時半前だ」
「何分ですか?」
「すまん、よく見えなかった、お前に似てきたのかもな」
「おや、眼鏡、一緒に選んであげましょうか?」
「丸眼鏡にしたら、俺もインテリな男になるか?」
そっと目元を親指で撫でて笑み混じりに言われた言葉につられて、思わず喉から笑みが漏れた。貴方が僕に触れたみたいに僕も貴方の頬に触れると、柔い感触を指先に感じて、ちょっとだけ赤らんで熱くなった頬が可愛らしくて、愛しくて。どうしようもなく鼓動が高鳴るのは、きっと貴方が注いでくれる暖かさのせいでしょう。
「俺は今日は休みだ、お前は?」
「僕も休みにせざるを得ませんでしたよ、何せ貴方が仕事の連絡中に迫ってくるものですから」
1日一緒に居られる喜びと少しのお咎めを含み、そう言ったら、貴方の顔を走る眉が少しばかりバツが悪そうに顰められた。
「それは、、、すまん」
「あはは、怒ってませんよ」
思わず笑みが漏れたのは、バカにした訳じゃないから許して欲しい、ぽそぽそ謝る貴方が仔犬みたいで、どうにも可愛らしくて。仕方が無かったの。
「怒ってませんが、今日は9時頃まで寝かせて、身体中痛くて何も出来ないんで」
「、、、本当にすまなかった」
怒ってないと言ったのに、どうにも悲しそうな顔をして貴方は謝った、ほんとに、かわいいひと。昨夜はとんでもなくケダモノらしく僕を組み敷いていた癖に、待ってと言っても待たなかった癖に、朝になって身体が痛いと言ったらショボくれちゃうのがかわいくて、温い朝がどうにもいとおしい。
「そんな顔しないでくださいよ、いじめてるみたいな気分になるでしょう」
まあ、そのいじめてる気分とやらも大層良いものではあるのだけど。
ぺたぺた頬を撫でて居たら、彼はムッとした顔をして僕の顔を両手で包んだ。
「うわあ、大きい手ですね」
無骨で硬い、いつかの暗殺者の影の消えぬ掌、それでも、その温もりに籠るのは確かに優しさであった。だが偶に、ほんの少しだけ、その温もりがうざったく思う事もある。
「ちょっと、あまり顔を撫で回さないで」
「安吾はほっぺが柔いなあ、、、」
ほら、こうゆう時だ。僕は人なのに、猫でも撫でる様に触る、それが少しだけいやだ。それでも、貴方の手はなんだか無性に眠たくなるから不思議だな。
「眠いなら寝てしまえ、今日は休みだし、まだ寝ててもいい時間だよ」
彼が顔を近付けたと思えば、降ろされた前髪越しに柔い感触を感じた。甘やかされるのは大層気分が良くて、安心して、ようやく登ってこれた筈なのに、睡魔が足を引っ張ってゆっくりと眠りの淵に連れ戻そうとする。
「あなたは、、、?」
「俺はお前が寝てる間に洗濯やら朝食やら済ましておく」
「そんなもの僕がやるのに、、、ねぇおださくさん、一緒に寝てましょうよ、まだ寝てて良い時間でしょ」
身体を抱いていた温もりが離れて、彼はベッドから立ち上がる、毛布の隙間から入り込む空気が冷たくて、また痩躯を震わせた。
「いかないで」
そう言って彼の服の袖を少しだけ引っ張った。我儘ではあるけど、偶にしかしないから、いいでしょう、もどってきてよ、一緒にねてよう。
「大丈夫、お前が寝てる間には終わらせて、また戻ってくるさ」
貴方の手が、髪の乱れた頭をあやす様に撫でる。それでもさびしいけれど、貴方を困らせたくないから、信じてねることにしよう。
「ほんとに、すぐもどってきてくださいね」
「嗚呼」
空気が震えて、彼が笑った気配がした。残されたのは彼の使う枕だけ、仕方ない、抱き枕として使わせて頂こう。
「んん、、、」
彼の身体よりも頼りなくて、そう暖かくもない、だが彼が使ったと思えば、そう悪くも無いかもしれない。睡魔はいまだに足を掴んだまま、僕はそのまま温い眠りの海へと沈んでいった。
今朝の温い陽光が強くなり始める頃、ふわりと香ばしい匂いが鼻腔に広がる。少しパサついた卵焼きにベーコン、これまた少しだけ焦がしてしまった食パン。休日の朝に彼がよく作ってくれるメニューだ。質素かと言えばそうでもないが、豪華でもない、平凡な1日の1番始めの食事、暖かく優しい味が好物の咖喱の並ぶくらいには、私は存外気に入っていた。
カチャンと音を立てて食器が擦りあった、白い食器に食事を盛り終わり、テーブルに置き食事の準備を済ませると、私は徐に寝室へと続く階段を登った。
キイ、と扉が不格好な音を鳴らした。視界に広がるのは今朝とあまり変わらぬ部屋の風景で、少し隙間風が弱くなって陽光の強くなった程度である。翻るアイボリー色のカーテンは白壁の部屋に良く似合い、家主は相当趣味の良いものだといつも思うのだ。元来アンティークな物を好んでいるらしいが、棚の上に置いてある時計なんて特にセンスを感じる。まあ、アンティークだとか綺麗な部屋作りだとかの知恵は無いが、それでも安吾の置く家具だとかは、数こそ少なくとも、どれも小綺麗な趣のある美品であった。
「、、、ふふ」
どれも綺麗にされているのに、本人に聞いてみれば2年前とか半年前とか、前はいつ買ったかは覚えていないと言われたから、私はあっと驚いたのを覚えている。それほどに大切にしているんだろうなと思うと、それを見つめたり触れたりする事の許されているのが嬉しくなり、胸の真芯が熱くなる。 だがその中でも、私の心の温もりを1番強くさせるのがその安吾であった。普段は仏頂面の癖に、ときたま見せる無防備な1面が可愛くてずるこい。
「、、、んん」
ほうら見ろ、この蕩けんばかりの寝顔を。警戒心ゼロどころかマイナスを振り切ったようなあどけない寝顔は、まるでうちの養子達と相違ない癖に、零れる寝息は甘そうで、女の様に柔らかくもないのに、思わず唇に触れたくなるから不思議だ。だけど1つだけ気に食わない事があったりもする。
「安吾、戻ったぞ」
惰眠を貪る彼の腕の中の枕が気に食わない、俺よりも情けない触り心地の癖して、絡まってくる安吾の脚とか腕とかを享受しているのが腹立たしい。それは俺の持つ特権だと思っていたのに。
「おい、戻ったからその枕を離せ」
「いやです〜、、、」
いやってなんだ、いやって、さっきまで引き留めてくれてた癖に。
思わずそうむくれてしまっても、あどけない寝顔で言われたら強く出れないんだから不思議だ。だとしてもずっと枕に対してひっつき虫になっていられても悲しい、あんなに寂しそうに俺の事を呼び止めてたのに、部屋を出る間際に見た表情は凄くいじらしくて、すぐにでも布団に戻ろうかと思うほどだったのに。
「お〜い」
グイグイと枕を引っ張ったとて、安吾も成人済みの男である、そうしがみつかれては引き剥がせまい。
「あぁやだ、おださくさん持ってかないでください」
いや、いや。モゾモゾ呟いては枕に頬擦りをする様を見て漸く気付いた、こいつ、枕を俺だと思ってるのか。いやはや、この男と添い寝をし始めた頃から気付いたが、寝起きは案外お馬鹿な事をよくする。茶目っ気があってかわいらしいが、ケータイとリモコンを間違えて耳に当てていた日は流石に仕事を休ませたのを覚えている。
「安吾、それは織田作さんじゃなくて枕だ、織田作さんはこっちだぞ」
「あれ、、、?」
ギュウッと閉じていた瞼が開かれると、ウルリと蕩けたオリーブ色の瞳が顕に。きっと私しか見た事の無い顔色が、瞳の潤みが愛くるしい。
「、、、ほんとだ」
「おちゃめだな」
「うふふ、おちゃめなことしちゃいました、ごめんなさあい」
二人で顔を綻ばせて笑う。ごめんなさいなんて言う癖に、悪びれどころか幸せそうな顔をするのは可愛いから許した。
「ほれ、おいで」
「おいで?」
長い腕を広げて誘い込む君に、そう復唱した、おいでと言われるのも悪くはないが、今言われたいのは違う。ちょっとしたイジワル心でニヤリと笑ったら、トロンと笑っていた君が少し困ったような顔をした。
パタッと腕をベットに放って、私を見れば、赤らんだ顔で言った。
「、、、ハグしてほしいです」
いじけたように眉を下げてオネダリをする君が可愛くて仕方なくて。思わず唇を噛んでベットに飛び込んだ。そうだよ、それだ、お前から甘えてほしかったんだ。甘やかされる側も大層気分が良いが、どちらかといえば甘やかす側の性分だ。
「良い子だ」
黒髪を撫でれば、彼が頭を寄せて私の手を享受し始めた。飼い慣らされた猫の様で可愛くて、どうしてか胸の奥がギュウとする。
「さびしかったですよ」
「その割には枕にご執心だったようだが」
「貴方とまちがえてたんですよ、同じ匂いがして、、、」
匂い、匂いか。
「犬みたいな事を言うな」
どちらかといえば猫っぽいが。
「動物扱いしないでくださいよ、僕は列記とした人です」
眉を顰めてそう言いつつも、頭を撫で回す手をからは離れようとはしない。心を許されているのがよく分かって、頬が緩む。その痩躯を力いっぱい抱きしめると、愛らしい呻き声が漏れた。
「うわっ!?くるしいです、、、!」
「可愛い、可愛いなあお前は」
顔が見たくなって腕を緩めたら、その隙に胸元へと潜り込まれた。男の癖に頼りない腕で私の背に手を回して、スリスリと頬擦りをする。
「、、、お前はやっぱり、犬と言うより猫だな」
「人ですってば、怒りますよ」
そんなに甘えながら言われても、ただ可愛がるしか出来ないよ。
「そうむくれるな、ほら撫でてやるから」
「、、、やっぱり枕のが良かったかもしれません」
なんだと、俺よりもあの布の塊が良いだって?天邪鬼め、部屋を出る間際に見た寂しそうな顔を俺は忘れていないぞ。それに、お前が俺の顔に弱い事も、知ってるぞ。
「、、、それは酷くないか」
「えっ」
ほうら、ちょっと悲しい声を出すだけで君は焦ってくれる、困ってくれる。仕上げに眉を下げて見つめればこの通り。
「ああ、そんな悲しい顔しないで、冗談ですから」
細い指が頬を滑り、指先に灯る僅かな冷たさが目元に登る。
「ごめんなさい」
ヘニャッと端正な眉を下げ、唇に柔く弧を描いた。優しい笑顔の君に宥められるのは、普通の子供になったみたいで好きだ。尤も、普通の子供が何たるかは知らないが、あの頃の自分よりは可愛くなれたものだ。
「うわあ」
「そんなに気にしてないがな」
細い指をとっぱらって、筋の浮いた首元に顔を埋める、トクリ、と胸の脈打つのを聴いた。君は抱きつかれるのがほんとに好きだな。出会い初めはあんな悲鳴を上げていたって言うのに。
「なあんだ、気にしてないんですか」
「お前に甘えたくなった」
あはは、とケラケラ痩躯が揺れる、その弾みで頬に押し付けられた胸部にドキリとしたのは、俺も男だから仕方ないと思う。
「貴方の方がよっぽど犬らしい!」
「安吾の犬か、、、」
「ええ、僕のワンコです」
「悪くないな」
もしも本当に犬なら、餌を食うだけでニコニコ撫で回してくれたのだろうか、時折オヤツの対価として芸を求められたり、お手をしたら猫撫で声で甘やかされたり。
「、、、うん、悪くない」
「なんですか今の間」
「想像してみた」
「そうですかあ、、、ですけど織田作さんが想像したような飼い主にはなれないと思います」
ポンポン頭を撫でながら言った。
「何せ馬車馬ですので、今度は貴方が枕を僕と勘違いするかと」
「それは嫌だな」
「でしょ?」
「人で良かった」
確かに、犬だったら交わる事は愚かキスだって危ないし、こいつを抱きしめてやる事は出来ない。家事の手伝いも、、、ああ、そうだ。
「そうだ安吾、洗濯物を回してる最中だから、起きたら一緒に干そう」
「そうですね、今日はお天気なのでよく乾きそうです」
起きる予定の時間は9時、今は大体7時半。眠気はさっぱり。よし、9時まで安吾の寝顔を堪能する準備は万端だ。
「7時だし、まだ身体の疲れは抜けてないだろ、寝ておけ」
顔を上げて表情を窺うと、元よりタレ目だったのが更にトロンとしている。本当に表情が読みやすくて可愛い。
「そうします、おやすみ」
「ああ、おやすみ」
絡みついてくる脚だの腕だのを享受しながら、枕に見せつけるように抱き返した。
傍らでユルリと眠りの海に沈みゆく彼の顔を眺めながら。