テラーノベル
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暗さを増す橙色の空の下、大体育館の中から外にかけて長蛇の列が伸びる。
食事を受け取った人達は、思い思いの場所で夕食を口にしている。
土壁の上に座り、外を眺める東条の手にも、今しがた賄われたレトルトのカレーと白米がある。
「けっこー豪華だな」
「ん」
彼女のシュパシュパと動くスプーンの先には、既に無くなりかけている今日の夕食。ノエルは最後の一口を飲み込むと、物欲しそうに東条のカレーを見つめた。
「……あげねーよ?」
「けち」
いつ作ったのか、即席の釣り竿で釣りをするノエルの横で、彼が足をぶらつかせながら静かにカレーを食んでいると、
「どうやって上ったんだ?」
後ろから、新が胡桃と共に歩いてきた。
「気合」
「流石まさだ」
胡桃が壁に階段を作り、ノエルの横に座る。その横に新も座った。
「釣りですか?」
「ん」
「何か釣れましたか?」
「全然。胡桃餌になって」
「嫌ですよ⁉」
驚きつつも生餌になることを拒否した胡桃の顔は、乾いた笑みを浮かべ段々と曇っていく。
「……やはり足りませんか?」
「ん。足りない」
ノエルの素直な意見に、彼女の表情に更に影が差す。
助けられた者達の殆どは、まだ感謝が不安や理不尽さ、無力感に勝っている。
しかしそれが当たり前になった最近、安心と安全の隙間から人の欲が漏れだすことが多くなっていた。
その中で最も顕著に表れているのが、言わずもがな、食欲。
自分がもっと頑張れば……。自分に力が足りないから……。
優しすぎるが故に、彼女は避けられない切先《問題》を自らに向ける。
新も隣で寂し気な笑みを浮かべているから、どうせ同じようなことを考えているのだろう。まったく、揃いもそろってこのカップルは。
東条は溜息を吐いた。
「辛気臭い顔上げて、飯食ってる奴等見てみな。お前等って、この為に頑張ってるんじゃねぇの?」
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東条にその感情は分からないが、彼は、佐藤は、確かにその為だけに生きていた。
顔を上げ後ろを向く二人の目に、明かりに照らされる笑顔が、談笑が、暗闇を抜けて飛び込んでくる。
冷たい血溜まりの中で、強く輝き温かく燃える場所。そんな自分達の目指した光景が、眼前に広がっていた。
遠くから手を振る少女に、二人は慌てて手を振り返す。
「お前等凄ぇぜ?こんなに沢山の命、守り抜いてきたんだからよ。
……人間誰だって見返りを求める、そういう風にできてんだ。お前等だって例外じゃねぇ。
勝手にあいつ等助けんなら、勝手に対価貰っちまいな。
お前等が求める報酬は、随分安いみたいだからな」
二人の脳裏に、先の少女の笑顔が浮かぶ。新が苦笑し、胡桃が涙を拭った。
「為せなかった事ではなく、成したことに目を向けろ、か。……いいな」
星を見上げる彼はとても絵になる。
そんな彼に東条は唾を吐き、湧いてくる自分が並べた言葉の恥ずかしさにむず痒くなっていた。
「……(じー)」
「……なんだよ」
ニヤニヤと此方を見てくるノエルを睨みつける。
「カッコイーなーって」
「はっ、知ってるわ」
恥ずかしがるのも癪だ、とわざと強がって見せるも、その声音は若干上ずっている。
ガラにもない事はするべきじゃないな、と胸中で反省した。
しかし、
「はい。カッコよかったです」
「ああ。カッコよかったな」
二人がノエルに続き、東条の羞恥心を抉る。
「やめれやめれ」
「いえ!本当に!」
「恥ずかしいんじゃぁ」
東条の頭を漆黒が包んでいく。
「……私、感動したんです。人の為に言葉を紡ぐのって、こんなにも美しいんだって。
私もまささんみたいに、もっと皆を笑顔にできるよう頑張ります。励ましてくれて、ありがとうございます!」
……何故だろう。
何故イケメンや美女がカッコイイ言葉を言うと、ちゃんとカッコよくなるのだろうか。
「俺も感謝するよまさ。有難う」
「へいへい」
この世の不条理さに、天を仰いだ。
コメント
1件
うわあ、めちゃくちゃいいシーンでした……! 東条まさの「辛気臭い顔上げて」って言葉、ズシンと響きました。自分たちが守ってきた笑顔をちゃんと見せてくれる仲間たちがいて、それに気づかせるまさの不器用な優しさにグッときました。最後の照れ隠しとノエルたちの追撃で笑っちゃうのも、このチームらしくて大好きです。