車が止まった。火葬場の様だった。
私の身体は、小さな棺に入れられて火葬場へと運ばれていった。
私も遅れないようにと着いて行った。
骨でも火葬されるんだなと考えていた。
シャツを着たおじさん達に連れられ手を合わせられた。
そのうち坊さんが来て、多分お経を唱えてるのだろう。私には聞こえなかった。
燃えている骨を眺め自分なりにお別れを告げていた。
火の中に紛れ込んでもやっぱり熱さは伝わらなかった。
火が収まると私は身体と一緒に外に出た。
シャツを着たおじさんは私の身体を崩して壺に入れていく。
私の身体は、徐々に壺に収まっていった。
私は、少し期待していた。成仏する事が出来るんじゃないかと。お経を聞けば心穏やかに成仏させてくれるんじゃないかと。
現実離れした目の前の光景が、現実を突きつけていた。
私は、壺に入れられるとまた何処かへと連れてかれていた。
行き着いた先は、墓地であった。
そこには、何人かの幽霊がひっそりとしていた。
私も数ある骨壷とともにそこに埋葬された。
私は外に出た。シャツのおじさんとともに外に出なければ私も閉じ込められてしまうから。
外に出るとおじさん達は車に乗って走り出してしまった。
私は取り残されてしまった。
墓石の横で座り込む。私は、また1人になってしまった。
1人が嫌だから自殺したのに。
数日経ったある日、見覚えのある女性が花を添えて手を合わせた。
その女性は、メガネをかけて髪は長かった。
長い時間、黙祷を続け顔を上げた時思い出していた。
高校の頃、隣の席になったのをきっかけによく話しかけてくれた子だった。クラス替えをきっかけに話さなくなっていた。
誰のお参りにきたのかわからない。
でも、見知った顔を見ると少し、少しだけ気持ちが和らいだ。
その女性は、毎年来ていた。
ある年、男の人と一緒にきていた。
またある年、その距離は縮んでいるように感じた。
そして、翌年にはお腹が大きくなっていた。
その次の年には、男性が赤ちゃんを抱いてお参りに来ていた。
私だけ、私だけが時が止まったままだ。
こんなの望んでいた訳じゃなかった。
また、泣き声が出ている。涙なんて流れないのに。
自分で選んだ事なのに。時間が戻るなら戻ってほしい。1人で生きる努力も出来たかもしれないのに。
そんな事を考えていると彼女達はいなくなっていた。
少しだけ、私のために来ていると思いたかった。
もう何年経ったのかもわからない。どうして死にたかったのかもわからない。
私は依然として成仏の仕方がわからないでいた。
自分お墓へは寄らなくなっていた。何も手掛かりなんてなかったから。
お墓から出た後は、おじさんを探した。あの話しかけてくれたおじさんだ。
会ってみるとおじさんは尚も気さくに話してくれた。おじさんもまた成仏の仕方はわからないらしい。
今までの事を話した。お経も念仏も聞こえなかった話をするとえらく共感してくれた。
おじさんは、また日本を一周するらしい。街並みが変わっているだろうからと話してくれた。
私は、私は何をしたらいいのだろう。
街を歩いていると会社の同僚を見かけた。話す事はあまりなかった。
結婚したみたいだ。子供まで抱いていた。
会社に戻ってみた。相変わらず忙しそうだ。
私が住んでいたアパートに戻ってみると、知らないお兄さんが住んでいるようだった。
一家心中したあのおじさんは、消えた様だった。どうして、どうなったかはわからない。
自殺は罪だと何かで読んだ気がするが、こういう事なのだろうか。
誰かを恨んだあの者たちは、どこへ行ったんだろうか。
あの子供まで地獄に落ちたんだろうか。何の罪も犯していないのに。
私は、時間に取り残されたままである。
人々は、歳を老いていく。街並みも少しずつ変化している。
私だけ、私だけが何も変わらない。何も出来ないでいた。
目の前で交通事故が起こった。
引かれた女性は、頭から血を流していた。意識はないようだ。
私は、関与する事が出来ないが祈った。助かってくれと。
一緒に救急車に乗った。一緒に検査室に入った。手術も立ち会った。
その女性は、目を開ける事はなかった。
病室には、馴染みのある男性と少し大きくなった女の子が来ていた。
「ごめん、、」
聞こえる事はないのはわかっていた。言わずにはいられなかった。
その親子は抱き合って泣いていた。
葬儀にも立ち会った。家族だけでひっそりと。
途中から見ていられなくなった。
ずっと見守っていたが、その女性と会う事はなかった。
また、自分を恨んでいた。
その事故から数日、現場には花が添えられていた。
漫画みたく特別な力を期待したが、残ったのは無力感だけであった。
私は肩を落とし街を彷徨う。
他の幽霊達と同じように。
何年も何年も私だけ時が止まったまま。
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