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翌朝。
元貴はいつもより少し早く目が覚めた。
隣には、優しい寝息を立てる滉斗の顔がある。昨夜、駅前でのハグの後、自然な流れで滉斗の家に来ていたのだ。あの手帳の出来事から、もう何も隠す必要はない。
元貴は、そっと滉斗の寝顔を見つめる。昨日までの胸を締め付けるような不安は消え去り、今はただ、穏やかな幸福感で満たされていた。
「…ん、元貴…?」
滉斗がゆっくりと目を開け、元貴と視線が合う。寝起きのぼんやりとした表情も、なんだか可愛らしい。
「おはよう、滉斗さん」
「…おはよう」
滉斗は、優しい笑顔で元貴の頭をそっと撫でた。そして、そのまま元貴の額に、チュッと軽いキスを落とした。元貴の顔が、じんわりと熱くなる。
朝食を済ませ、身支度を整えた二人。会社に向かうため、マンションを出た。
「……手、繋ぐ?」
滉斗が当然のようにそう言うと、元貴は少し照れながらも、素直に頷いた。
会社の最寄り駅まで、二人はしっかりと手をつなぎながら歩いた。朝の通勤時間帯で、周りには多くの人がいるけれど、もう人目なんて気にならない。繋いだ手から伝わる滉斗の温もりが、元貴の心をじんわりと温かくする。
「今日の企画、うまくいけばいいな」
「うん。でも、滉斗さんのチームなら大丈夫ですよ」
他愛もない会話をしながら、二人は笑顔で駅へと向かった。隣に滉斗がいるだけで、世界が色鮮やかに見える。朝からこんなにも幸せな気持ちでいられるなんて、元貴は想像もしなかった。
会社に着き、エントランスで別れる時も、滉斗は元貴の手をぎゅっと握りしめてくれた。
「じゃあな、元貴。また後で」
「はい! 滉斗さんも、頑張ってください」
それぞれの部署へと向かう足取りは、昨日までとは比べ物にならないほど軽やかだった。朝からこんなにも幸せな気持ちでいられるなら、仕事もきっと捗るだろう。
営業一部のフロアに入ると、涼ちゃんがすぐに滉斗に駆け寄ってきた。
「若井! おはよう! 昨日どうだった!? 元貴くんと、ちゃんと話せた!?」
涼ちゃんは、まるで自分のことのように興奮した様子で尋ねてくる。
滉斗は、涼ちゃんの顔を見ると、自然と口元が緩んだ。
「ああ、涼ちゃん。おはよう。…全部、話せたよ。涼ちゃんのおかげ。」
滉斗は、正直に昨日の出来事を涼ちゃんに話した。手帳のこと、元貴の気持ち、そして自分も元貴のことが好きだということ。そして、最後は駅前で抱きしめ合ったことまで。
涼ちゃんは、滉斗の話を聞きながら、目をキラキラさせて頷いている。
「やったー!僕、やっぱりキューピットの才能あるかも?」
涼ちゃんは、嬉しそうに飛び跳ねた。滉斗は、そんな涼ちゃんを見て、心から感謝の気持ちでいっぱいになった。
「本当にありがとう、涼ちゃん。涼ちゃんいなかったら…俺たち、ずっとすれ違ったままだった」
「いーのいーの! 友達のためだもん! …にしてもさぁ、若井って、手早いイメージだったのに、元貴くん相手だと意外と慎重なんだねぇ?」
涼ちゃんが、楽しそうにニヤニヤしながら、核心を突いてきた。
「は?」
滉斗は、涼ちゃんの言葉の意味が分からず、首を傾げる。
「だってさ!まだキスしてないよね」
涼ちゃんは、真面目な顔で、まるで当然のことのように尋ねてきた。その言葉に、滉斗の顔がカッと熱くなる。
「っ…うるさい……!」
滉斗は、慌てて涼ちゃんの口を右手で塞いだ。周囲の視線が、ちらりとこちらを向いた気がした。
顔を真っ赤にして制止する滉斗に、涼ちゃんは、塞がれた口元で「んんーっ!」と抗議するように唸りながら、楽しそうに笑っていた。
涼ちゃんは、そんな滉斗の様子を見て、二人のこれからの関係がますます楽しみになったのだった。
(そりゃ……したいけど…!)
涼ちゃんに不意を突かれた滉斗の脳内では、激しい葛藤が巻き起こっていた。
あの映画を観た瞬間から、元貴へのキスの意識は高まっていた。元貴の唇を親指でなぞった夜、どれだけ我慢したか。
しかし、昨日ようやく気持ちが通じ合ったばかりの元貴に、すぐに強引な真似はしたくない。元貴のペースに合わせてあげたい。そう、紳士的に振る舞いたいのだ。だが、涼ちゃんの言葉が、その理性を揺さぶる。
定時になり、滉斗は仕事を中断して元貴にLINEを送った。
滉斗:終わった?
すぐに返信がくる。
元貴:終わりました!
その返信に、滉斗の口元が緩む。すぐさま自分のデスクを片付け、営業二部のフロアへと向かった。
エントランスで待ち合わせ、元貴の姿を見つけると、滉斗は自然と笑顔になる。
「お疲れ様、元貴」
「お疲れ様です、滉斗さん」
自然に差し出された滉斗の手に、元貴は迷いなく自分の手を重ねた。指を絡ませ、しっかりと繋ぎ合う。
その温もりが、一日を終えた二人の心をじんわりと満たしていく。
電車に乗り込み、晃斗の肩に元貴の頭が寄り添う。最寄り駅で降りると、二人はそのまま元貴の家へと歩き出した。
繋がれた手は、離れることなく温かい。
昨日までの気まずさなど、まるで嘘のように、穏やかで幸せな時間が流れていた。
元貴のマンションに着くと、元貴は振り返り、滉斗に感謝を伝えた。
「今日も、送ってくださってありがとうございます」
「どういたしまして。…じゃあね元貴」
滉斗は、別れの言葉を言いながら、いつものように元貴の頭を優しく撫でた。その大きな手が髪を梳く感触に、元貴は嬉しそうに目を細める。
すると、映画鑑賞会の時の記憶が、鮮明に蘇った。
頭を撫でられ、その手が頬へと滑り、そして…唇をなぞられた、あの瞬間。
滉斗の脳裏にも、元貴の柔らかい唇の感触が蘇っていた。
最初は嬉しそうにしていた元貴の顔が、次第に赤く染まっていく。滉斗もまた、元貴の潤んだ瞳に吸い込まれるように見つめ返していた。
二人の間に、甘く、そして期待に満ちた沈黙が走る。
滉斗は、元貴の頭を撫でていた手をそのままゆっくりと下ろし、元貴の顎にそっと手をかけた。
熱を帯びた指先が、元貴の柔らかな肌に触れる。
「……キス、していい?」
元貴はその言葉に目を見開き驚くが、同時に喜びと期待に目を輝かせる。元貴は滉斗の温かい手の感触に、目を閉じた。顔がゆっくりと持ち上げられ、視線が合う。
滉斗は、元貴の潤んだ瞳を真っ直ぐに見つめた。そして躊躇いもなく、元貴の唇に自分の唇を重ねた。
コメント
5件
私まで幸せ
初キス記念日で休日にしましょ。(?) かあいいねぇ🥰(?) みんな可愛すぎて爆発しちゃいそう🫠❤️🔥 好きですほんと😘🫰🏻(←きも)
初キッスおめでとうございます。このふたりの見守り隊の一員として出来る事なら涼ちゃんとお赤飯を食べたい所存です。 ただこのウブさ……ふたりがエチをした際には私はスタンディングオベーションをしてしまうのではないかと思います。神様、なぎさ様……どうかどうかキュンキュン後はエロをお願いいたします……