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「えー、しばらく1組の伊藤先生が欠席されるため、体育は他クラスと合同になります。」
教室中に少々ざわめきが走る。
停職食らったかとか、いや退職だろ、とか。
とうとう広瀬くんにこき使っていた上司の行為はより上の方々にバレたようだ。
私は広瀬くんに視線を向ける。
ずっと手下のように扱われてた身にしては無表情で先生の話を聞いていた。
私は、本当に広瀬くんはロボットなんじゃないかと確信してしまいそうだった。
合同体育か。
今年、小春とはクラスが離れた。
せっかくの合同体育だし、2組の小春のクラスがいいと思った。
先生がクラス中の騒ぎを落ち着かせる。
「落ち着けー、次話すぞー。お前らと一緒のクラスは、3組だ。」
「はっ?」
動揺が隠せず、誰にも聞こえないほぼ息のような声が出た。
今日も心臓がうるさい。
やばい、と思った。
嫌な予感がした。
きっとこの先の体育はしばらく3組と合同だ。
クラスが違うことがひとつの救いでもあったのに。
私は、孤爪くんと同じ組になってしまった。
「××?」
昼休み、中庭で小春と一緒に昼食をとっていた。
先生からの通達以来、頭がぼーっとしていた私を小春が不思議そうに覗き込んできた。
「大丈夫?なんかぼーっとしてるよ??」
心配そうな顔をする小春に私は全力で首を振る。
「大丈夫、大丈夫!お腹すきすぎちゃったかな〜。」
「そっか!じゃあ私のウインナーあげちゃう!はいどーぞ!」
そう言って私のお弁当箱の中に自分の卵焼きを入れてくれた。
小春はいつもみたいな可愛い笑顔をくれた。
私も「ありがとう」と微笑んだ。
小春には、ずっとこの笑顔でいて欲しい。
悲しい顔なんて、絶対させたくない。
なのに。
「おや、先客がいましたか。」
私たち二人の前に現れたのは、私をどこまでも悩ませる君。
「あ、黒尾先輩!と…!?」
神様はとても意地悪だ。
小春の顔が徐々に赤くなる。
黒尾先輩の後ろでコンビニの袋を持ちながらゲームをする金髪の君。
「せっかくだし一緒に頂きません?これも何かの縁だろ〜。」
困惑する私の穴をつくように黒尾先輩は提案してきた。
「私たちは、別に構いません…よ…!」
それに追い打ちをかけるように小春が答えた。
「研磨ー、小春ちゃんと××ちゃんと一緒に飯いいよなー?」
「えっ?あ、うん?…あ…ゲームオーバー…」
ゲームに夢中だった孤爪くんは急に話しかけられてゲームに負けてしまったようで黒尾先輩を睨みつける。
私の心は、揺れ続けた。
これ以上孤爪くんと仲良くなったらダメなのに、これ以上、好きになっちゃダメなのに。
なんで、こんなに喜んでいるんだろう。
私たちは、4人がけのテーブルに腰をかけた。
「そういえばよう、お前らの学年で停職だか退職なった先生いるだろ?」
私は突然の話題に食べる手が一瞬止まった。
「そうなんですよ!朝体育が合同になったっていう連絡されました!」
私の気持ちは半分どん底に落とされていた。
お弁当のおかずが、上手く喉を通らない。
「あ…確か俺、1組と合同だったっけ。」
「えっ。」
口数の少なかった孤爪くんが、口を開いて言った言葉に心臓がはねる。
それに小春は短く声を出した。
動揺で胸が高鳴る。
心臓の音が、どんどんうるさくなる。
耳鳴りがした。
私だけが感じる凍るような空気。
またその場の世界が、とても遅く感じた。
「….そっか〜!1、3が一緒だったんだ!私も××と同じが良かったな〜!」
すーっと心が軽くなるのを感じた。
私は思わず小春の方を見る。
小春は苦しい顔も、悲しい顔もしていなかった。
ただ笑顔で、いつもみたいにあどけなかった。
「あ、そういえば…孤爪くんに聞きたいことあってね、!」
「?…何、?」
「孤爪くんがやってるゲーム…私もやってみたいの!」
「え、あー。」
気づけば、小春によって話題は変わり、凍ったような空気は消え、小春も楽しそうに二人と話していた。
私も自然と会話に相づちをし、何も無いまま昼休みを終えた。
あっという間に放課後になった。
ずっと昼のことと昨日のことで授業なんて集中出来なかったけど。
今日の放課後は、美化委員の仕事がある。
私は教室に荷物を置いたまま、教室を出ようとした。
その時、扉のところで誰かと出会い頭になった。
「わっ!」
聞き覚えのある可愛らしい声に私はハッとした。
「こ、小春!?大丈夫?」
「びっくりした〜!××は?なんともない?」
小春は頷く私の顔を見るなりそっと胸を撫で下ろしとても安心した様子を見せた。
私はちょうど小春に美化委員のことを伝えに行くところだった。
「小春、ごめん、今日委員会の仕事あって帰れないんだ。だから先帰ってて。」
「そっか今日水曜日だもんね!全然大丈夫だよ!委員会、頑張ってね!また明日!」
優しい天使のような笑顔で背を向けながら私に手を振る小春。
私はそんな小春に、悲しんで欲しくない。
「小春!」
小春は数メートル先で驚いたように体を止めた。
「ん〜?どうしたの〜?」
小春の透き通るような高い声が、廊下に響く。
「その…ごめんね、私なんかが、同じ組で…。小春は…孤爪くんのことあんなに好きなのに。」
自分が一瞬何を言っているのか理解できなかった。
私なんかが小春にこんなことを言ったらきっと嫌味にしか聞こえないのに。
本当は「私が同じ組が良かった」って、小春自身が一番わかってるはずなのに。
小春の顔を見ると意外にもキョトンとした顔で私を見ていた。
小春はしばらく私を見たあと、口を開いた。
「××、そんなこと考えてたの??」
「えっ?」
「なーんだよぉ〜!あーびっくりしたな〜もう!」
小春はまた安堵した声で言った。
「××、昼休みとか、いや、今日1日凄いぼーっとしたりしてた!私てっきりなにかしちゃったのかと思ったよ〜!」
今日1日、変な行動をとっていた私を小春はすごく心配してくれていたみたいだった。
「ていうかー!××はなんにも悪くないよ!?組み分けは先生が決めたことで運だし、まー、2人のどっちかとはなりたかったけど!」
「あ、そっか。私も、小春と一緒が良かったな、!」
小春は、本当にいい子だ。
だけど私は小春にうまく言葉をかけられなかった。
小春の好きな人が、孤爪くんじゃなかったら、きっと私はもっとマシな言い方ができたはず。
なのに、今はうまく声が出せない。
「ごめん、そろそろ行かなきゃ。」
「うん!また明日ね!」
小春はまたニッコリ微笑んで階段を降りていった。
小春が去る背中を見て、また胸が苦しくなり、逃げるようにその場を後にした。