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テラーノベルの小説コンテスト 第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで
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今日の放課後は、美化委員の仕事がある。


私の掃除担当は水曜日。


普段生徒が使う教室の掃除ではなく、資料室や、教材の整理が美化委員の仕事だ。


真面目にやる人が少ないから、どうしても校舎内の掃除は週2回ぐらいになってしまう。


使わなくなった教室の教材の整理とかの日は、どうしても週2回じゃペースダウンする。


それでも先輩や、新しく入った後輩にとやかく言うほど、私に勇気は無い。


私はいい子ちゃんとか、誰かに褒められたくてやっている訳では無いけれど、何となく1人になれて、放課後静かな空間にいられる水曜日のこの仕事は好きだ。


今日はもう今は使われなくなった旧校舎の教室で教材の整理をする。


先週に教室のゴミや、ホコリは片付け終わっていた。


あとは教室の端にまとめた教材を先生に渡されたプリントの通りに分けるだけだ。


それだけなんだけど、量が多くてまぁまぁ骨が折れる。


早速先週綺麗に掃除をした椅子に腰をかけ、机に置かれたものから分別する。


少しホコリがかかった教材を乾拭きしながらダンボールに詰めていく。


そんな作業をしながら孤爪くんに会った日から今までの出来事を考えた。


初めて彼を見た時、本当に綺麗だと思った。


バレーボールのことはあまりよく知らないけれど、孤爪くんはきっと、攻撃に繋ぐポジションっていうのが、あの時人目でわかった。


だってあんなにボールが生き生きと上がっていた。


実際の試合で見る孤爪くんは、また違う雰囲気でボールをあげるのかな。


そう思った時、頭に孤爪くんと話す、小春の赤く染った笑顔が浮かんだ。


小春は、私がまだ知らない孤爪くんを、沢山知ってるのかな。


小春だけが知っている、孤爪くんの顔を。


ああ、いいな。


「はぁ。」


私は自分に嫌気がさした。


どうしても自分の気持ちを制御することができない。


小春を傷つけたくないのはわかっているはずなのに。


孤爪くんと一緒の最寄り駅で、同じ組になれて、私に優しく笑いかけてくれて、こんなに喜びをかみしめている。


そんな私を、きっと許してくれないだろうけど。


小春、ごめんなさい。




数時間後、外がオレンジ色になってきた。


私は、もう入り切らなくなったダンボールの蓋を閉じて、作業を終わらす。


今日は半分まで分別できた。


蓋をしたダンボール1箱を廊下にだし、教室の扉を閉めた。


2キロほどのダンボールを両手で持ち上げ、新校舎の教材室に移動させた。


ほんのり赤くなった手のひらはホコリだらけだったからトイレで手を洗ってから1階にある委員会掲示板に向かう。


美化委員は毎週担当日に仕事の〆として、チェックリストに進行状況を記入する。


委員会用の鉛筆を手に取り、チェックリストを見る。


前回の記録は、5月9日、1週間前の私の記録だ。


先月と今月で、他の美化委員の生徒の記載はない。


掃除はしてるけど書いてないのか、ただ単にしてないだけか。


まぁ参加してようがしてなかろうが私にはあまり関係ないかな。


いつもの事だ。


私はその下に5月16日、今日の日付を書いた。


【日付】5/16日

【場所】旧校舎教室

【備考】教材あと半分。

【担当】2-1 ○○ ××


普段通りに仕事を終え、一息ついたあと、私は階段を上った。


この時間帯に校舎内に誰かいることはまずなかった。


静かな廊下に響く自分の足音。


西側の階段から戻った私は2年3組の教室を静かに覗いた。


孤爪くんのクラス。


孤爪くんの席はどこだろう、教室では、どんな風に授業を受けるのかな。


そんな見ることも出来ない妄想をする自分に少し呆れて笑う。


隣の小春のクラス、2組を見ると、小春の席には誰もいなかった。


そりゃそうだ。待っててなんて言ってないんだから。


私は自分の教室に入り、椅子に座って机にうつ伏せになった。


座った途端に、今までの疲れが一気に来た。


ずっと同じ体制だったから腰が痛い。


考えすぎたせいかより疲れが増す。


そのせいか、だんだんウトウトしてきた。


今寝たらまずいのに、瞼が重い。


私はその場で、静かに寝落ちした。




暗闇の中で、小さく何かが聞こえてきた。


ピコピコとなる、電子音。


これは、夢、なのかな。


そうだきっと夢だ、だって。


この音は、孤爪くんのゲーム音…。


「ん…ん…。」


私はゆっくりと目を開けた。


横向きに見える窓の景色は、紫色で、夕日が沈んだ瞬間だった。


ピッ…カチカチっ…。


夢で聞こえたはずの音が、まだ聞こえた。


幻聴、って思ったけど、私の左耳から確かに聞こえる。


私は体を起こした。


「あ、ごめん、うるさかった?」


小さく、囁くような優しい声。


横に向いていた顔は、自然と正面に戻る。


その時、綺麗な瞳が私を見つめていた。


「えっ!?」


驚きすぎて、いつもなら言葉なんて出てこないけど、今日は反動で勢いよく言葉が出た。


誰もいない静かな教室で、また心臓がうるさくなる。


孤爪くんはゲームを止めて、自分の膝に置いた。


「えっ…え?なん…で?」


ほぼ喋れていないと言ってもいいくらいの声量で分かりやすく困惑した。


すると突然、目が合っていた孤爪くんの口角が上がる。


孤爪くんは顔を背けて小さく噴き出した。


そのまま彼は俯いて、口を覆いながら肩を揺らしていた。


「ははっ、変な顔。」


どれだけ自分は変な顔をしていたんだろう。


孤爪くんはしばらく笑ったあと、「ごめん、」と謝った。


「驚くよね、起きて目の前に人がいたら。」


「えっ…あ、うん…まぁ、そうですけど。」


何とか言葉を返すと、孤爪くんは不思議そうな顔をした。


「ねぇ、敬語、やめない?」


不思議そうな顔を見せたあと、孤爪くんの目尻が下がって、優しい笑顔になる。


昨日駅のホームで見せてくれた笑顔よりも、自然な、優しい顔。


昨日だけじゃなく、今日も見せてくれた、孤爪くんの笑顔。


私だけに向けられた笑顔だ。


ドキドキが止まらなくて、自分顔が微かに赤くなるのを感じる。


「俺、年下の人とか、同級生とか…せっかく知り合った人と、その…体育会系の上下関係築くのとか…好きじゃないから。」


膝に置いたゲームを机に移動させながら言った。


孤爪くんの視線から自分が外れたことにより、ちょっとだけ心臓の鼓動が遅くなった。


このまま黙って変な顔してる変人だと思われるのは嫌だと思った私は言葉をひねり出した。


「わかっ、た。あ、ありがとう…。」


今度はちゃんと、孤爪くんの顔を見てぎごちない笑顔を見せた。


「あと、研磨でいいよ。」


「えっ?」


「苗字じゃなくても、いいから。」


まだ寝起きで頭が上手く回らなかったが、これはきっと夢じゃない。


私は孤爪くんの言葉に、その気もないまま小さく頷いた。


ごめん、孤爪くん。


それは、できないかな。


多分、一生呼べないから。




「はぁ…良かった。」


「えっ?」


孤爪くんは安心したように目をつぶって背もたれに倒れた。


そして私がまた困った顔をしているのを察したのか、体を起こして言った。


「昨日の帰りとか、昼休みとか。やっくんとクロとは笑って話してたけど、いつも俯いてたから。あんま、話したくないのかなって思って。」


「!ち、ちが!!」


困り顔で頬をかきながらそういう孤爪くん。


違う。


話したくないわけない。


いつも遠くから見ていた君と、気づいたら2人きりの空間にいる。


これ以上の幸せなんて、ない。


「…違う…。私は…。…孤爪くんと仲良くなりたい。」


緊張でとても震えた声で何とか言葉を発する。


今顔を見たら絶対に話せなくなるから、目をつぶって膝に置いたグーの手を固く握りしめながら言う。


ごめん、やっぱり言えない。


頭に思い浮かんだのはその言葉。


急にこんなことを言われた孤爪くんは、絶対に困る、キモイって思われるに決まってる。


私は孤爪くんの言葉を聞くのが怖かった。


今にも逃げ出してしまいそうだった。


目をつぶったまま、沈黙が続く。


恐る恐る、目を開く。


そこには、机に顔を伏せている孤爪くんがいた。


「えっ!?孤爪くん!?」


私はどういう状況か分からず、立ち上がって慌ててしまう。


キモすぎて撃沈された、え、どうしよう。


「…俺も。」


体も思考も全てが停止した。


「俺も、××と仲良くなりたい。」


その瞬間、心臓がこれまで以上に跳ねた。


顔を少し上げて、クシャッとした顔で言う孤爪くん。


まさか、こんな日が来るなんて、思ってもみなかった。


彼に初めて名前を呼ばれて、今まで以上に話して、こんなに沢山笑顔を向けてくれるなんて。


言葉に表せないほど、幸せだった。


「これからも、よろしく。」


私は唇をぎゅっと噛み、微笑みながら「うん、よろしく…。」と返した。


孤爪くん。


やっぱり、好きだ。


彼のことが、大好きだ。


今までなんも関わりもなかった彼に、どんどん惹かれていく。


私はきっと、この日を忘れることは無い。


どんなに頑張って忘れようとしても、私の頭から消えることも無い。


今までにないようなこの幸せを、今は1人で噛み締めたい。


ごめん、ごめんなさい小春。


たくさんの幸せを独り占めしてごめんなさい。


私にあんなに優しい接してくれる小春を、裏切るような真似をして、ごめんなさい。


もう、彼のことは忘れるから。


この気持ちは、消してしまうから。


だから、どうか許して。


今だけは私を、許してください。



「あの…。」


「ん?」


教室を出て、一緒に黒尾先輩の待つ校門に向かっていた時、私は勇気をだして自分から話しかけた。


「その…孤爪くんは、なんで…校舎にいたの、?」


孤爪くんは今日も部活があったと思うけど、終わってすぐ帰らなかった理由が気になって質問する。


「あー…えっと、教室にゲーム置き忘れてて。部活終わったら、取り行くってクロにも言って。だから。」


猫背のまま私の隣を歩く孤爪くん。


最後にちらっとこっちを見た彼と目が合い、またドキッとさせられる。


「西階段から上がってきて、帰りに1組の前通ったんだけど、誰か座ってるの見えてびっくりした。けどよく見たら××で、なんか寝てたし、起こそうと思ったけど、別に急いでなかったから、待ってた。」


私が勝手に寝てただけなのに、孤爪くんは気遣って待っていてくれたんだ。


嬉しくて泣きそうだった。


相変わらずか細いけれど最初よりハキハキ話してくれていることも、些細な事だけど嬉しかった。


「なんか、ごめんね。孤爪くんに、気遣わせちゃって。ありがとう。」


「いいよ、別に。俺が勝手に待ってただけで。」


孤爪くんはどこまでも優しかった。


ふと私はあることに気づいて、顔が赤くなるのを感じた。


私がどれだけ寝ていて、その間にどれだけ孤爪くんと私が同じ空間にいたのだろう。


寝顔を見られているのは、確実だった。


その場でどうしようもないぐらい恥ずかしくなり、穴があったら入りたかった。


「あ、そうだ。」


私が1人で慌てているのを遮るように孤爪くんは話し始めた。


「合同体育、よろしく。」


そう言って顔を背けた君。


背けた先で、一体どんな顔をしているんだろう。


きっといつか、私だけに、見せてくれるのかな。


「うん、よろしく。」

君の笑顔が見たいから

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