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時計の針は既にテッペンを通り過ぎているが、少し歩くと眩しいくらいに明るく、煩いくらいに賑やかな通りに出る。引かれていた袖は離されて、前を歩く源ちゃん。小さくスキップをしているのか、ふわふわと飛ぶ髪。可愛い。
数件通り過ぎた所で源ちゃんがピタッと止まり振り返る。
「ここ、専門のbar」
上目遣いで目を細め、地下に続く階段の上に貼り付けられた店のであろう看板を小さく指差す。
「行き、つけなんですか?」
「たまに来るぐらいかな。」
「そうなんですねぇ…」
「取り敢えず入ろうよ」
「はい!」
階段を下りて、ネイビー色の小洒落たドアを開くとカランコロンと軽快にドアベルが鳴る。源ちゃん込みで雰囲気に圧倒されながらも、手招きされて足を踏み入れた。
店内は落ち着いた雰囲気で、ジャズが掛かっている中にチラホラと人が数人居た。源ちゃんは真っ先にカウンター席へ座って、また、俺を小さく手招きする。招かれるまま隣の席へ座ると、バーテンが会釈をしながらスッとコースターを出して、そのまま流れるように濡れたコップを拭う。源ちゃんは俺を横目にマスター、とバーテンを呼んだ。
「ご注文はお決まりですか?」
「いつもの、お願い。」
「はい。いつものですね。…お連れ様はどうしますか?」
「あっ、うーん。じゃあ、せっかくなので源さんのおすすめを…」
「いいの?じゃあ、マティーニを。」
源ちゃんが頬杖をついてこちらに笑いかけるように言う。可愛い。バーテンは一言、度数が高いですが、大丈夫ですか?と聞いて、俺は大丈夫と告げた。
暫くカシャカシャと酒と氷の混ざる音がする。その間の無言は店内のジャズで補われて、少しの気まずさで源ちゃんの方を向く。
「え、」
いつから、見つめられてたのだろう。あぁ、可愛い、可愛い!もっと俺を見て、笑いかけて。その顔を、見せて。…あ、バーテンが間を割って酒を出す。良い所に。覚えとくからな。
ライムが浮かんだ薄琥珀色の酒は源ちゃんの方に出される。モスコミュールというカクテルらしい。源ちゃんは片手でグラスを持って、手首のスナップでカラカラと氷の音をさせながら回す。色っぽくて、好き。
「…先、いい?」
「あ、どうぞ!」
「ふふ、ありがと」
グラスの縁に口を付けて、少し傾ける。喉仏が上下する姿が本当にえっちで、見すぎてしまった。なぁに?なんて聞かれて。
「なっ!にも…!」
「そう?…あ。」
俺の分の酒も届く。小さなグラスにオリーブの浮いたクリームイエローの酒。鼻に通るハーブのドライな香り。少しキツイな、と思いつつも、源ちゃんの前だ。ここで無理だと言ってしまえば、源ちゃんに呆れられてしまう。
「大丈夫?笑」
少し嘲笑気味な笑み。大丈夫。俺は、源ちゃんのためならなんだってできるから。少しグラスを傾けて、喉に流す。喉の熱と風味、爽快感が流れてくる。思わず喉を抑える。源ちゃんは、それを楽しげに見て、また酒を進めた。