この作品はいかがでしたか?
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「んん…」
隣で寝返りをする音と、甘ったるいような、そんな声がして俺は目を覚ました。
時計を見る。
「まだ5時か…」
俺にしては早く起きすぎだと思う。なんたって、いつもは昼過ぎに起きるような人間なのだ。
もう一度寝ようと布団の中に潜り込むと、隣に眠っていたニキがこちらに体を寄せてくる。
「ぼびぃ…」
寝ぼけているのか、おぼつかない口調で俺の名を呼ぶ。
やめてくれ、俺の心をかき乱すのは。
あぁ、これは眠れそうにないと確信した俺は、それならば終わっていない動画の編集を進めようと布団を出ようとしたそのとき、くん、と俺は後ろに倒れかけた。
ニキが俺の袖を掴んでいたのだ。あぁ、なんて愛おしいのだろう。
きっと夢の中で誰かを捕まえてるんだな、そう思った。その誰かが俺でなくとも、その行為はとても可愛らしく感じる。
「ぼびー、おはよ…どっか行くの…?」
「おはよ、まだ朝の5時や、もうちょっと寝ててもええで。昨日のみ行ったんやろ?疲れてるやろうし、もう少し休んどき。」
「ぅん…」
もしかして裾を引っ張ったのは俺がどこか行こうとしていたからなのか。起きていたからなのか。そしたら可愛すぎないか。
そんなことを考えながら俺は作業部屋へと向かう。
しばらく俺がキーボードを打つ音のみが部屋に響いた。
1度きりが着いたと、時計を見ると、時計の針は7時を回っていた。
もう少しできるだろうと、もう一本目の動画編集に取り掛かろうとした時、2階からドアの開く音がした。
ニキが起きたのだろう。にしてもこんなに早く起きる派のは珍しい。俺がさっき起こしてしまったのか。それは申し訳ない。
しばらくして俺の作業部屋のドアが開いた。
「ボビーおはよ…今日なんかあったっけ…?」
俺はチラッと予定を確認して、
「今日はなんもないから家でゆっくりしよな」
そう返事を返した。
ニキは少し嬉しそうな顔をして、
「うん」
とだけ呟いた。
「朝ごはん食べるか。」
「ん」
「食パンあるから、それでええよな?」
「うん、焼く?」
「俺は焼く方が好きやから焼くけど…」
「じゃあ俺も焼く。」
「わかった」
黙々と朝ごはんの準備をして、机に皿を並べる。
2人揃ったところで「いただきます」をして食べる。
この何気ない日常が俺の心の支えだったりする。
「ボビー、明日海行かない?」
「海?」
「うん、昨日飲み会で海の話してたら行きたくなっちゃってさ。」
「でもまだ入るには早い時期やない?寒そうやけど…」
「じゃあ見るだけでもいいからさ!」
そう元気よく提案をするニキを見てもちろん俺は「行こう。」と返事をした。
「あ、やけど明日天気よくないって予報で..」
「え、マジで?」
「おん、確か降水確率80%とかじゃなかったかな…」
「げ、絶対それ降るやつじゃん…」
不満げには天気予報に文句を言うニキ。そんなに海に行きたかったのか。
「明日は降るっぽいけど、今日は降らないらしいし、ニキがええなら今日行く?」
「いいの?」
「おん、ニキが行きたいとこならいつでも行くで。」
その言葉を発した時には遅かった。まずい、これは間違いなくニキに馬鹿にされるようなセリフだ。なんなら動画内でいじられるやつだ。そう思いチラッとニキの方を見ると、ニキは口元を隠して少し顔が赤くなっていた。
「…なに、照れてるん?」
少しからかってみたくなった。
「だ…って、ボビーが変なこと、ゆうから…」
「ふーん?」
ニキも俺のからかいに気づいたのか、
「ボビーのばか、知らない。」
と拗ねてしまった。
「悪かったって。」
そんなやり取りをしながら海へ行く支度をする。
かといって海に入るわけではないのでそんなに準備するものもないのだが。
2人とも運転は出来ないので電車で近くの海まで行くことにした。
ガタンゴトンと規則的に揺れる電車の中で俺とニキは静かに目を閉じた。
2人とも眠かったのだ。早く起きたのは目が覚めてしまったからで、眠くなかったわけじゃない。
どうせ俺らが降りる駅まではまだ時間がある。少しくらい寝てもいいだろう。
はた、と目を覚ました時には俺らが降りる1つ手前の駅だった。危ない、このままだと寝過ごしてしまうところだった。
ニキが起きないよう電車を降りる準備をする。
ニキはまだ眠っているようで、俺の肩に頭をのせてすやすやと息をしている。その姿がとても愛おしい。
次の駅にはすぐ着いた。
「ニキ、着いたで。」
肩を少し揺らしてニキを起こす。
「ぅうん…」
眠たそうな目を擦りながらニキは目を覚ました。
まとめていた荷物を持って電車を降りる。
しばらく歩いていると砂浜が見えた。
「ぅわ…ほんとに久しぶりだ…」
「海なんて何年ぶりやろ…」
高校生の頃友達と行ったっきりだったような気がする。
「ね、ボビー足だけ入ろうよ!」
さっきの眠気はどこかに吹っ飛んだのか、元気に俺に語りかける。
「おん、靴と靴下は脱げよ?」
「わかってるって!」
パッパと靴下を脱いで海に入るニキ。
こんなにはしゃいでいるニキを見るのは久しぶりかもしれない。
ニキと過ごす時間はあっという間で、いつの間にか日が翳って暗くなりかけていた。
「…そろそろ帰るか。」
そう言うと、ニキは少し不満そうな顔をして、
「まだ遊びたりないんだけどな…」
と呟いた。
「ん、また来ような。」
「…うん。」
沈黙が続く。
その沈黙は気まずいとか、そういう感じはなくて。むしろ心地良ささえ感じた。
「なぁボビー…」
その沈黙を破ったのはニキだった。
「何?」
「あのさ…」
その言葉の続きは出てこず、再び沈黙が続いた。
その沈黙に耐えきれず俺は思わず口を開く。
「なんや、」
「あの…あんまこっち見ないで欲しいんだけど、」
そう言うとニキは俺に背を向けてしゃがんだ。
「なんや、そんな改まって。」
「…あのね、引かないで欲しいんだけど。」
「ぉん、」
「俺、ボビーが好き。」
「……は、」
一瞬、ニキが何を言ったか理解ができなかった。いや、一瞬じゃない、今もだ。
その言葉の意味を理解した俺の心臓は、ドクドクと力強く波打った。
「嫌なら、俺から離れてっていいから。…俺は、こーゆーの、慣れてるし…平気だから。」
そう言ったニキの手は震えていた。
慣れてるわけないやろ、平気なわけないやろ。
俺はニキのそばに行ってニキの手を握った。
「ニキ、俺も好きやよ。」
「え…」
「ニキが好き。ずっと前から。嘘やないよ。」
慌てふためいてこちらを振り返るニキを見て、俺は笑みが溢れた。
「ふふっ、ニキ顔真っ赤、」
「う…っ、夕日のせいだし…」
そんなバレバレな嘘をしながらニキはバッと立ち上がった。
すぅ…と息を大きく吸ってニキは叫んだ。グッと手に力が入る。
「ボビー、好き!付き合って!」
俺は静かにニキの手を握り返した。
「もちろん。」
コメント
2件
すっっっっご!! 読んでる間ずっとニヤニヤしてました!また作ってくれたら嬉しいです…!!
良すぎます.....ありがとうございます🤦🏻♀️🤦🏻♀️