「内側から壊すって…どうやってさ」
脂ぎったジョッキを片手に、泥酔した客がニイナの演説を冷笑で遮った。
「ドラゴンたちを利用するの。外側の魔法生物たちを評議会に送り込み、中から食い破る。……ね、面白そうでしょ?私、評議会の研究者。あそこの構造なら、嫌というほど熟知しているから… 」
言葉が途切れるより早く、店内は濁った失笑に塗りつぶされた。
「馬鹿言ってんじゃねぇよ、お前!」
「寝言はベッドで言え。そんな御伽話、誰も信じやしねぇよ 」
湿った笑い声が、澱んだ酒お匂いと共に立ち込める。
ニイナの顔には、安物の仮面を貼り付けたような薄寒い笑みが凍りついていた。
脳内にKの厭世的な声が響く。
「おやおや。これが貴方の望んだ「絶望」への第一歩ですか?随分と賑やかで、そしてーーーー惨めな幕開けですね」
クスクスと囀る声が耳の奥で踊る。ニイナは視線を動かさず、ただ腐敗して行くようなその光景を、他人事のように眺めていた。
「そうね、黒幕には相応しくない幕開けのようね。うーん…ならば、報酬をつけるわ。報酬…1億でどう? 」
しかし、客たちは膨大な報酬には目もくれない。
「金なんて、あっても紙屑だ。ここじゃ何の役にも立ちやしない…!」
苛立たしげに吐き捨てて、男が再び酒を飲み漁り始める。
「そう、お金じゃダメなら…上層区域へ移動させて上げるっていうのはどう?」
その一言に、酒場の空気が凍りついた。先までの喧騒が、嘘のように消え去る。
「それ、本気で言ってるのか」
酒場の奥から冷徹な声が響く。
声の主の名は「ヴィクター」 かつて、上層の地位を追われ、この泥溜めに身を落とした男。それゆえに、彼はニイナの言葉に誰よりも鋭く反応したのだ。
「本気…だったらどうするの?」
ヴィクターは席を立ち上がり、ニイナに近づく。
「話を聞かせろ」
その言葉に、ニイナは密かに微笑んだ。






