「ウニャ……退屈なのだ、退屈すぎるのだ」
グライスエンドからイデアベルクに帰ってから数日が経った。ミルシェは指示を出しながら動き回り、ルティは自分の店作りで忙しくしていた。
国を再建するだけ――とはいえ、それまで旅に出ていたおれたちがいきなり手伝えるはずが無かった。ルティだけは例外だが、シーニャは基本的におれの言うことしか聞かない。
それだけに誰かの所に行かせて手伝わせることは決して容易なことじゃない――ことを知った。
「シーニャと仲がいいのは誰だ?」
「フィーサなのだ。でもフィーサは眠っているのだ……ウニャ」
神剣フィーサはイデアベルクへ戻って来ても全く目覚める気配が無い。ウルティモが言っていた邪気についても良く分からないままで、今は休ませてやることしか出来ないのが現状だ。
そしておれは今、シーニャと二人で散歩している。本来であれば魔法の力で色々手伝えるはずなのだが、今のところ声がかからないままだ。
国内を見て回るにしてもどこから回ればいいものか。
考え事をしながら歩いていると、突然ドンッ――!! という音が響いた。
「――ウニャニャ!? い、痛いのだ……何なのだ、誰なのだ!?」
どうやらシーニャと誰かがぶつかってしまったらしい。お互いに前方不注意というべきか。
「オマエこそ誰ニャ!!」
「シーニャは、シーニャなのだ!」
「ボクはネコ族ニャ!! ここを通りたいだけニャ!」
「避けて通ればいいだけなのだ。シーニャは避けないのだ!!」
どうやらネコ族の子らしいが、お互いに譲らず避けるつもりはないらしい。どっちかが右か左にズレればいいだけなのだが。このまま黙って争わせるわけにもいかないので、おれが出るしかなさそうだ。
「君! 君はネコ族だな。名は?」
「ニャッ!? あるじ様ニャ!! あわわわ――!? は、初めてお会いしたニャ。ボクはネコ族のリーウェルと言いますニャ」
「リーウェルか。よろしく。君はどこへ行こうとしているんだ?」
「ボクはシャトン様のお使いをしているのニャ」
釣りギルドマスターのシャトンはイデアベルクに顔を見せた時、沢山のネコ族を連れて来た。エルフや獣人もそれなりにいるが、ネコ族が物凄く増えた。
それこそルティの店のスタッフなんかはほとんどがネコ族だったりする。小さな体で一所懸命に動いている姿は見かけてはいたが、直接話したことが無かった。
いつも「ニャ~ニャ」としか聞こえて来なかったし無理も無いが。
「あぁ、それで急いでいたわけか」
「そうですニャ!」
「君はどこで作業をしているんだ?」
「ギルド街区で現場監督をしているニャ!」
新たに作り変える街区のことだな。色んな所で作業をしてくれているのは有り難いことで、これもシャトンが来てくれたおかげでもある。
それにしてもネコ族か。虎娘のシーニャとはまるで違うが、惹きつけられる魅力は同じのような気がする。
「ニャ……あるじ様、あのその――し、失礼しますニャ!!」
「あっ――」
逃げられてしまった。どうしてこうもネコ耳に触れたくなるのだろうか。
「アック、シーニャがここにいるのだ。ネコじゃなくてシーニャがいるのだ!! ウニャッ!」
「そ、そうだな」
危うい所だった。これまであまりネコ族と関わることが無かったとはいえ、不注意に触れ過ぎた。
「アック。ギルドって何なのだ?」
「あぁ、職業別の組合――と言っても分からないだろうから、そうだな……ルティなら錬金術ギルドを作るだろうな。そこで仲間を集めて、錬金術を極めたりスキルを磨いたり――」
「――分かったのだ!! そうと決まれば、シーニャも作ってくるのだ。ウニャッ!!」
「えっ?」
「アックは楽しみに待っているのだ~!」
何か閃いたのか、シーニャはさっきのネコ族リーウェルを追って走って行ってしまった。何にしても彼女の退屈が解消されるならそれはそれでいいと思うしかない。
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