「アルメリアったら酷いですわ、私はただアルメリアと仲良くしたかっただけですのに!」
そう叫ぶと、ダチュラは振り向いてムスカリを上目遣いで見つめる。
「ムスカリ聞いて下さい、私ずっとアルメリアとは仲良くしたくて努力してきたんですの。でも少し間違いを指摘しただけであんなにむきになられて……」
ムスカリは作り笑顔で答える。
「そうなのか?」
「そうなんですの。今まではムスカリの手前、我慢してアルメリアの悪行にも目をつぶってきましたわ。でもやっぱりアルメリアのことを思うなら、言わなければならないこともあると思いますの」
「では、今この場でその悪行とやらを証明して見せてくれないか?」
ダチュラは嬉しそうに微笑む。
「わかりましたわ、私も本当はこんなことしたくはありません。でも、悪いことは悪いと指摘してあげることって大切ですわよね」
そう言って、改めてムスカリに向きなおる。
「ムスカリ殿下、私にこのような場を与えてくださり、ありがとうございます」
恭しく一礼すると、ダチュラは嬉々として話し始めた。
「まず、アルメリアは公爵令嬢という立場でありながら、我が儘を言って城内に執務室を準備させました。これがなぜだかみなさんご存知でしょうか?」
ダチュラはしばらく沈黙し、周囲のものたちの顔を見て誰かが答えるのを待っていたが、誰も答えないのを見ると満足そうに続ける。
「それは自分の周囲に貴族令息たちを侍らせるためなのです。事実『自分は相談係だから誰でも執務室を訪れてよい』と大義名分を掲げ執務室を解放していました。そのお陰で午後になると貴族令息たちが入れ替わり立ち替わりアルメリアの執務室を訪れるようになったのです」
そこで大きくため息をつくと、アルメリアに向きなおり諭すように話しかける。
「アルメリア、淑女たるもの欲望のままにそういうことをされるのはよくありませんわ。ご自分を大切になさって? 私悲しいですわ……」
そう言って瞳を潤ませると、ムスカリに向きなおる。
「まだありますの。アルメリアは貴族令息だけでは飽きたらず、城内を闊歩し兵士たちや騎士の方々にも色目を使い始めましたわ。本当に痛々しくて私見ていられませんでした」
言いながらダチュラは涙をこぼした。誰かがハンカチを差し出してくれると思っているらしく、しばらくそのまま泣いていたが誰も声をかけないので自分でハンカチを取り出し涙を拭った。
そして顔を上げ深呼吸し自分を落ち着かせるような仕草をしたあと、周囲を見渡した。
「それに、ご存知だとは思いますがアルメリアはアンジーファウンデーションという怪しい組織を作り貿易にも手をだしました。ですが、そこで彼女がなにをしていたか、みなさんご存知ありませんわよね?」
ダチュラは今度はアドニスの方を見る。
「アドニス、貴男は海軍を率いていますもの。モーガン一派と呼ばれる海賊をご存知でしょう?」
突然話をふられたアドニスは一瞬戸ったあと答える。
「はい、もちろん知っています。長年騎士団を悩ませてきた存在ですから」
「実はアルメリアがその海賊と繋がっているのをご存知かしら?」
そう言うと、アルメリアに向きなおる。
「モーガン一派が海上で略奪行為をする裏で、アルメリアはモーガン一派と手を組んで海賊を後押ししていたんですの。きっと優秀なアドニスのことですわ、もうその事実は知っているのでしょう?」
アドニスは苦笑しながら答える。
「確かに、そのような書類はありましたが……」
アドニスのその一言に、ダチュラは『ほーら、今の聞いた?』とでも言いたげな視線をアルメリアに送ると勝ち誇ったように話を続ける。
「実は私もその証拠書類も持ってますの」
そう言うと、辺りをキョロキョロし始めた。
「イーデン、イーデン!」
ダチュラがそう呼ぶと、人混みの中からイーデンが一歩前に踏み出す。
「はい、お嬢様こちらに」
「よかったわイーデン。こちらにきてちょうだい。例の証拠書類を」
そう言ってアルメリアを見据えたまま、ダチュラはイーデンに手を差し出した。
「こちらで御座います」
イーデンは書類をダチュラに差し出した。証拠書類を受け取ると、まずはアルメリアに突きつける。
「これ、貴女覚えがあるんではなくて?」
アルメリアは無言で睨み返した。
「あらぁ、真実を突き詰められて怒っちゃったかしら?」
最初はゲーム内のヒロインのような話し方をしていたが、ダチュラは興奮してきたのか高揚したのか化けの皮が剥がれつつあった。
「これは貴女がモーガン一派に海賊行為をさせていたという証拠の書類ですわ」
その証拠書類をダチュラはムスカリに手渡す。
「こちらは大切な証拠のひとつです。ムスカリに渡しておきますわ」
ムスカリは書類を受け取ると、鼻で笑った。
「大切な証拠、か。確かにそのようだな、預かるとしよう」
ダチュラは満足そうに頷き続ける。
「それに、アルメリアがムスカリ殿下と婚約してから散財した証拠があります。イーデン!」
「はい、お嬢様」
「あの領収書をここに」
イーデンは言われるがまま、領収書をダチュラに手渡した。
ダチュラはそれをみんなに見せるように掲げてぐるりと見回した。
「これは大胆にもアルメリアが好き勝手にドレスや装飾品を購入し王宮にその支払いをさせるため、支払い先を王宮に押し付けた領収書ですわ。これは一部パウエル侯爵にも預けてありますから、調べがついていると思いますわ」
そう言うとダチュラはリアムを見つめる。
「ね、リアム」
「はい、預かっております」
その返事を聞いて、ダチュラは嬉しそうにアルメリアに向きなおり尋ねる。
「なぜこんなことをしたんですの?」
「ダチュラ、それは私が貴女に訊きたいですわ」
すると、ダチュラはクスクスと笑うと耳元で囁く。
「あら? 言葉がわからなかったかしら? 貴女、国語力が弱いの? 悲劇のヒロイン気取りの頭お花畑ちゃん。出し抜こうとしていたみたいだけど、残念ながらヒロインはあたしなの、あんたのやってたことは全部無駄」
アルメリアはこの台詞で、ダチュラもこちらが転生者であることに気づいているのだと確信した。
ダチュラは鼻で笑うと続ける。
「今日アルメリアが着ているそのドレスも、きっと王宮のつけで仕立ててもらったに決まっていますわ」
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