日も落ちかけ、帰る場所のない僕はただ、ふらふらと歩く事しか出来なかった
頭の中では(おなかが減ったなー、死ぬのかな、でも死ぬことはできないし、)と何度も考えては無意味な時間を過ごす
こんな僕に今は生きている価値はないだろう。
だからといってこのまま飢え死にする事は無い
なぜなら、僕には月下獣という異能があるからだ。
月下獣はいわば超回復。傷口を回復し、毒も効かない。死ぬ事は決してない。だからといってこの異能がいいものという訳でもない。
死ぬ事がない=幸せ では無いからだ。
生きる事に幸せが無いと言ってる訳では無い。他の人からしてみると、腕をもぎ取られても瞬く間の間に生え変わるなんて、おぞましい以外の何物でもないだろう。
そして、それを見たものは近ずかなくなる。差別する。虐める。
人間は自分とは違うものを排除したいと思うのが当たり前だからだ。
そして、その事は僕がいちばん分かっている事だ。
何年もの間、遠ざけられては思い出したくも無いような事をされてきたんだ。
何度も繰り返し傷つけられたところには痛々しい跡がついている。
痛みさえないとはいえ、見る度に心が締め付けられるような思いをする。
そんな僕は1週間前から自由になった。
いや、追い出されたと言った方が正しいだろう。
僕は存在しているだけで邪魔らしく、孤児院から追い出されてしまったのだ。
出ていけ!と言われた時には心が軽くなるのを感じた。
だが、追い出されて良かったー!!!とはならないのが人生らしい。
まずは衣食住に困った。何をするにもこの3つはなくてはならない。
衣食住を安定させるにはお金が必要だ。
たが、まともな服も着ていないような人を雇おうとするものはいない。
なら、どうすればいいか、
奪うしかない。
僕は極限の状態でこの結論を出してしまった。
僕でも勝てそうな人、、
思い浮ばない。
僕はため息を吐きながら、夕日が照らされる川を見る。
、、、?
なんだあれは、、
僕は気づいた瞬間青ざめる。
それは足だったからだ。
僕は川の方へと走った。
(助けるべきだろうか、)
考えるまでもない!僕は靴を脱ぎ捨てて川へ飛び込む。
空腹の中の泳ぎは体にこたえる
溺れた人を引きずって陸に上がった時にはバタッと地面に倒れ込んでしまった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
目覚めた時にはどこかの室内だった。
周りを見渡すが、見覚えは無い。
すると、手前の扉の方から喧嘩をしている声をさせながら2人の男が入ってきた。
? 「だから、てめぇは余計なことしかしねぇって言われてるんだろ!」
??「うるさいよ、少しは静かに出来ないの?ほら、待てだよ。」
? 「犬扱いすんじゃねぇ!!」
僕は体を強ばらせながら2人の様子を伺う。
?? 「あれ?起きてたの?ごめんね、私は太宰治。こっちのうるさいのが中也。君が私の自殺を止めた人だよね?」
敦 「はい、えっと、え!?」
太宰 「だから、私の自殺を邪魔したのは君かと言っているんだけど」
敦 「自殺!?僕は助けようと思って、、」
太宰 「まぁ、いいよ。私はクリーンな自殺を心掛けているんだ。君を巻き込んだ時点で私の落ち度だ。」
太宰 「って事で、君にお詫びをしたいんだけど、、君孤児院の子だよね?」
敦 「えっと、はい」
中也 「、、おい、太宰こいつ、」
太宰 「そうそう、私が探してた子だよ」
敦 「?」
太宰 「君は月下獣の異能持ちだね」」
敦 「はい。でも、なんで、、」
太宰 「実は君の異能を探していたんだ。」
太宰 「超回復 君の異能はおおまかには外傷をなおすって感じかい?」
敦 「はい。」
太宰 「君の異能はわかっていない部分も多いんだ出来れば教えて欲しい。」
太宰は敦の目の前にあった椅子に腰かけ目を見つめて聞いてくる。
敦は何かとお願いに弱い。
僕は気づくと異能の特性を事細かに教えてしまっていた。
いや、正直頼られたのが嬉しくて、聞かれていないこともつらつらと喋ってしまった気がするが、、
僕は少し嬉しくなった。
太宰 「なるほどね、じゃあ実質君は不死身なのか凄いね!」
敦 「それ程でも、」
僕は顔を少し照れされながら言う。こんな風に異能を褒められるなんて!!と感動さえ覚えていた。
太宰 「そんな君にお願いなんだけど、もし良かったら一緒に働いてはくれないだろうか?」
太宰 「断ってくれても構わない」
敦はさっきとは打って変わって真面目な表情で言われ、少し戸惑ってしまう。
だが、返事は決まっていた。
僕には行く場所もお金もない。
そんな状態で「働いてくれないか?」など、天からの恵かという状態だ。
敦 「僕の方からお願いしたいぐらいです。」
僕は初めて異能を褒めてくれた太宰さんを信用している。初めて、ちゃんと人の扱いをしてくれて、優しい言葉をかけてくれたんだ。
生きていて良かったと心の底から思った。
太宰さんは僅かに口角を上げ、中也と呼んでいた人に目線を送る。
僕はその目線を追うように中也さんの顔を見る
中也さんは太宰さんとは打って変わった様子だったが、言葉では言い表せない。
太宰さんが僕の手をとる。
太宰 「ありがとう!君ならそう言ってくれると思っていたよ。で、早速で悪いんだけど来て貰えるかな?、一応森さんにだけは紹介しとかなきゃだから」
敦 「わかりました、」
太宰 「じゃあ、ついてきて 、一応点滴と傷口のケアをしたから大丈夫だと思うんだけど立てる?」
敦 「はい、大丈夫です」
僕は太宰さんの背中にピッタリとくっ付いて置いていかれないように歩いた。
少し歩くと、人目で高そうだとわかる扉が出てきた。僕は不安になり太宰さんの方を見る。
太宰さんはこちらを見て、大丈夫だよといい扉を開けた。
太宰 「森さーん!紹介したい人がいるんですけど」
森 「なんだい?太宰くん」
太宰 「敦くんって言うんですけど超回復の異能持ちなんです。森さんが探してた人材にピッタリじゃないですか?」
森 「毒耐性は?」
太宰 「あります」
森 「どのくらいの傷を耐えられる?」
太宰 「片腕を失うぐらいは平気だそうです」
森 「再生速度は?」
太宰 「1秒もかからないそうです」
そこまで聞くと、森さんと呼ばれてた人はたいそう嬉しそうに言う
森 「太宰くん。良くやったね!今度焼肉を奢ろう」
太宰 「ありがとうございまーす」
僕は何が行われているか理解できない。
そんな状況を見えかねてか中也さんが僕の肩に手が置き太宰さんを睨みつけながら小声で僕に
中也 「太宰に目をつけられたのが運の尽きだ。」 と言う。
頭の中には?が浮かぶ。
太宰さんに目をつけられたのが運の尽き?
それは、間違いじゃないのか、
だが、薄々気付いていたことが確信に変わる
太宰 「じゃあ、敦くんを”実験室”に連れていきますね。」
無慈悲な言葉が脳を埋め尽くす
そっか、僕騙されてたんだ、、
さっきまで異能の説明を聞いてくれてたのも、僕の異能を探してたって言ったのもただ、実験体に適するかの確認だったんだ。
僕は酷く死ねない事を憎んだ
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