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山中 Side .
体育祭当日、グラウンド。
「柔太朗ー!次リレー出るんだろ!」
「は!?聞いてねえんだけど」
「今決まった!」
「ふざけんな!!」
騒がしい空気の中、俺は無理やりハチマキを押し付けられてスタート地点に立たされる。
最悪だ。
こういう目立つやつ、嫌いなんだよ。
「頑張れよー!」
「転ぶなよ!」
「うるせえ!」
周りの声を適当に流しながら、ふと視線を上げる。
少し離れたところ。
はやちゃんが、フェンスにもたれてこっちを見てた。
目が合う。
ニヤって笑われる。
……なんなんだよ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「位置について——」
ピストルの音。
一斉に走り出す。
「柔太朗速っ!」
「え、あいつやばくね!?」
そんな声が聞こえる中、ただ前だけを見て走る。
バトンを渡して、息を切らしながら立ち止まった瞬間。
「柔太朗」
後ろから、低い声。
「……はやちゃん」
振り返る前に、腕掴まれる。
「ちょ、どこ行く——」
「いいから」
そのまま、テントの裏まで連れていかれる。
人目、ギリ死角。
「はやちゃん、今普通に人いる——」
「かっこよかった」
「……は?」
予想外すぎて止まる。
「走ってるとこ」
距離が近い。
「なんでそんな普通に言うんだよ」
「本当に思ったから」
真顔。
心臓に悪い。
その後ぐい、と引き寄せられる。
「ちょ、バレるって」
「バレない」
「いやバレる」
押し返そうとした瞬間——
「おーい柔太朗ー!」
ビクッとする。
クラスのやつの声。
距離が近すぎるまま固まる。
「今いたよな?」
「絶対この辺だろ」
やばい。
ガチでやばい。
「……離れろって」
小声で言う。
なのに
「やだ」
即答。
「はやちゃん」
「静かにして」
腰が引き寄せられる。
完全に密着。
「っ、だから——」
その瞬間。
カーテンみたいに垂れてたシートが、少しだけ揺れた。
「……今なんか動いた?」
「え、マジ?」
足音が近づいてくる。
終わった。
「……っ」
逃げ場ない。
と思った瞬間。
「こっち」
はやちゃんが俺の手引いて、さらに奥に引き込む。
完全に死角。
本当に距離ゼロ。
「……近い」
「今それ言う?」
小声で笑うな。
「静かにしてって」
「お前がな」
外の足音が止まる。
「……なんか声しなかった?」
「え、マジで?」
やばい。
息が止まる。
その瞬間——
「ん、……!?」
不意打ちすぎる。
声が出せない。
出したら終わる。
「……っ」
口を塞がれて、必死に耐えるしかない。
外では——
「……気のせいか」
「だな、戻るか」
足音、遠ざかる。
ようやく、離れる。
「……はやちゃん、ほんとに……!」
小声で睨む。
「バレたらどうすんだよ」
「バレてないじゃん」
「結果論だろ……!」
でも。
さっきのキスの余韻が残ってて、うまく怒れない。
「柔太朗」
「なに」
「顔、やばい」
「うるせえ」
「今の、他のやつに見せたくない」
「見せねえよ……」
「じゃあいい」
軽く笑って、今度はちゃんと距離とる。
……と思ったら
手が繋がれたままだった
「離せ」
「やだ」
「だからバレるって」
「今いないからいい」
ほんと適当。
「柔太朗」
「なに」
「好きって言って」
「…今じゃねえだろ」
「今言って」
「……はやちゃん」
「ん」
「好き」
ちゃんと目を見て、小さく言う。
はやちゃんが満足そうに笑う。
「俺も」
そのまま、軽く額くっつけてくる。
「体育祭、終わったら」
「何」
「もっとちゃんとキスする」
「……今もしてただろ」
「足りない」
即答。
「……バカ」
遠くで歓声が上がる。
まだ体育祭は続くのに、
俺の心臓だけ、これからも持つ気配がなかった。
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コメント
3件

こういうの本当に好きです✨️ ありがとうございます!!