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毎年、キルロンド王国が執り仕切る国家公式戦は、18歳未満の学生を対象に、未来の国家騎士に選抜される為のブレイバーゲームが開催される。
そこで、現役の国家騎士や、国王、並びに貴族院の重鎮たちも見物に集まり、キルロンド学寮を始めとする、様々な学生たちが任意で参加することができる。
しかし、ソル率いるSHOWTIMEのように、確実な選抜枠を狙う為、一年生から参加するパーティは少なく、基本的には実力を付けた者のみが参加していた。
そんな中、遠方の強い魔物や、魔族の残党との死闘を、今も尚繰り広げている国家騎士パーティや、他国の使者なども、前乗りしてキルロンド王国へと集まっていた。
『と言うことだから、ヒノトくん!! メンバーを集めてすぐに来てくれ!!』
と、ヒノトは早朝から、リオンからの電話により起こされ、寝ぼけ眼を擦りながらリリムとグラムを連れ、キルロンド王城へと足を運んだ。
しかし、その寝ぼけた目は、城内に足を踏み入れた瞬間に、三人ともしっかりと見開かれる。
「な、何…………この魔力…………!!」
「さっきリオンが言ってた…………現国内最強パーティに次ぐ、魔族軍との戦争にも参加していた生きた英雄の2パーティが王城に来ているって…………。ここまでの威圧感を感じるほどなのか…………!」
三人は、強い魔力を感じた場所へと足を運ぶと、既にレオが剣を構えて数人と相対していた。
「レオが対面してる奴……知ってるぜ……! 父さんの昔の写真に写ってた……!! 確か……水の剣士……!」
「水魔法の前衛ってこと!? 水魔法は基本、ヒーラーやサポーターになることが多いのに……剣術にしちゃうなんて……どんな戦い方をするのかしら…………」
すると、背後からリオンが駆けてくる。
「ちょっと……すぐに来てとは言ったけど、王城に来たならまず僕を呼んでくれよ…………」
息を切らしながらも、レオの相対する人物を視界に入れると、呆然と口を開く。
「レオ…………相変わらず凄いな…………。あの方を前に剣を構えられるだなんて…………」
「俺たちも強い魔力を感じてここに来たんだけど、そんなに凄ぇ奴なのか…………? と言うか、魔族戦争に参加したパーティにしては……若いような…………?」
レオと相対する青年は、青い短髪に、整った細身に細長い剣を構え、爽やかな20代を思わせる容姿だった。
「彼もルークと同じ、エルフとのハーフなんだ。名を、シルフ・レイス。魔力も当然強力だが、何よりも、現在で剣術において彼の右に出る者はいないだろう…………」
「前衛剣士最強の男ってことか…………!」
そして、ヒノトは更に目を見張った。
シルフの水魔法は、レオの雷魔法の弱点属性となる。
水魔法を展開させても、雷撃が当たれば自身にも感電を受ける可能性があるからだ。
「でも……彼の剣撃は…………」
“水牢・叢雨”
ヒュンッ!!
その場から一歩、踏み込んだ瞬間、レオの剣は一瞬で砕けてしまった。
「さ、流石です……シルフ様……。貴重なお時間を頂き、ありがとうございます…………」
悔しそうな顔を浮かべながらも、レオは律儀に頭を下げた。
「彼の剣撃は、精密に自分の剣のみに水魔力を集中させ、相手に反撃の隙を与えない。まさに最速の剣……!」
「おやおや、どうやら見物人が多くなってきたようだ。久しぶりだね、リオンくん」
シルフは穏やかに近寄り、リオンに軽く会釈をした。
「お、お久しぶりです…………シルフ様…………」
リオンが会釈を返したその時――――
キィィィン!!
巨大な両手剣を携えた小さな老人の攻撃を、瞬時にシルフは受け止めていた。
「何故、ここに魔族がいる」
狙いは、リリムとグラムだった。
二人の剣はギリギリと音を響かせ、その衝撃波は地面を揺らしていた。
「バーン殿、お忘れですか? この子は勇者殿が連れ帰った三王国に認められた魔族の子ですよ」
決して力は緩めないが、朗らかにシルフはその巨大な剣を受け止め続ける。
説明を聞き入れた老人は、そっと剣を消した。
「剣を消した……? 魔法で創られてたのか……」
「ふふ、失礼したね。彼はバーン・ブラッド。岩魔法使いのグラディエーター。魔族戦争の折、パーティメンバーを魔族に殺されてしまったんだ。許してあげて欲しい」
「し、しかし……彼らは僕のパーティメンバーです……! 魔族だからと言って、すぐに斬り掛かってしまわれると、人殺しの罪人となってしまいます…………」
リオンは必死に二人を庇うが、バーンは睨み付けるようにリオンに振り返った。
「だからワシらが外に出払っていても、国内に魔族を簡単に引き入れてしまっていたのじゃろうて。生温い考えを持っていたら、大切な人まで失うぞ、若き王子よ」
恐らく、リオンが魔族に連れ去られた一件を聞き及んでおり、忠告の意味もあったのだろう。
リオンは、拳を強く握って言葉を返せずにいた。
「でもさ、ぶっ倒せれば問題ないんじゃないの?」
ヒノトの言葉に、全員の視線が集まる。
「ヒノトくん…………」
「へぇ…………」
シルフも、予想外の発言に目を細める。
その言葉に、バーンは睨みながらヒノトに近寄る。
「小僧、名は?」
「ヒノト・グレイマン。ソードマンです」
「グレイマン…………ラスの息子か。一丁前なことを。そこでシルフに一太刀も入れられなかったレオよりも弱いのだろう。そういうデカい口は、強くなってから……」
「俺は、強くなって、勇者になります」
ヒノトの言葉の瞬間、バーンの魔力が膨れ上がる。
“岩防御魔法・岩陰”
“水防御魔法・水槽”
“闇魔法・黒繭”
ゴォッ!!!
大きな音を立て、ヒノトは棒立ちのままバーンを見つめ続けたまま、グラム、リオン、リリムが魔法を放ち、三人の力でバーンの攻撃を防いだ。
「ふっ、ちゃんと成長しているようだな……」
傍目で見ていたレオもニタリと笑みを浮かべる。
バーンも、目を凝らし、ヒノトの目を見続けた。
「魔族を引き入れた俺たちパーティの力、公式戦で見せてやります…………!!」
その言葉を聞き、バーンは剣を消した。
「流石に、罪のない子供を始末する気はない。これはワシの5%程の力じゃ。しかし…………」
「それでも、バーン殿の単体火力は騎士団でも随一。その一刀を、仲間を信じて棒立ちで受け止めるなんて、現役騎士団にもそうはいない。ですよね? バーン殿」
「ふん」
そう言うと、バーンは去って行った。
「これから騎士たちを召集させた会議があるんだ。僕もそろそろ向かうとするよ。ちなみに……ヒノトくん、僕も公式戦での君の戦い、楽しみにしているよ。ふふ、いい仲間を持ったね、リオンくん」
ニコッと笑うと、シルフも去って行った。
一礼をし、レオもヒノトたちの元へ駆け寄る。
「貴様ら、今の魔法…………」
そう、生きた英雄の、たった5%と言えど、それを打ち消すほどの防御魔法など、王族の魔力を持った防御専門のシールダーでも難儀なことだった。
しかし、レオはその正体に一見して理解した。
「 “複合魔法” だな…………?」
「ああ、俺たちの弱点は、やっぱり防御力だと思ってな。リオンは基本、ガンナーで中遠距離攻撃魔法を得意とするけど、防御魔法を扱えないこともない。だから、グラムとリオンの防御魔法を、リリムの闇魔法で属性融合させ、更に強化した複合魔法を編み出したんだ」
「闇魔法で属性融合…………そんな力になんの代償もないのか…………?」
「流石レオだな。魔族の力を使うわけだから、もちろん代償はある。ま、今は教えねーけどな! じゃ、生きた英雄さんたちも見たし、帰ろうぜ〜」
ニシシと笑みを浮かべ、ヒノトたち三人も学寮へと帰って行った。
「おい、リオン……アイツ、まさか…………」
「たぶん、お察しの通りだよ……。なんと言うか、破茶滅茶で、着いて行くのもやっとだ……」
「まあ、昔よりはいい面構えじゃないのか」
「え?」
「なんでもない」
砕けた剣を回収しながら、レオもその場を後にした。