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ー兵庫県立辰巳小学校 昼休みー
明のいるクラス(1年2組)の廊下は、順番を待つ女の子達が一列に並んでいた
「アッキーズからのお願いです!アキ君へのプレゼントやお手紙は、アッキーズ運営係に渡してください!アキ君には直接渡さないでください!!」
生徒会長の野々村さんが、列を作っている女子生徒にメガホンで叫んでいる
給食後の昼休み、ほとんどの生徒が外遊びをしているにも関わらず、明は真ん中の机に座って、向かいの女の子のノートにサインをしている
「麗華よ・・麗華のれいは・・・」
「こう?」
明がサインペンで女の子のノートに名前を書いてあげている
「サインは自分の名前ひとつだけです!書いてもらったら、速やかに席を離れて次の人に代わってください!」
明の後ろで美化委員の浜田さんの指導が飛ぶ、明に話しかけたり触ろうとしようものならルール違反として、すぐに退場させるように目を光らせている
そして次の順番の女の子がノートを胸に抱えて、明の前に座った
「ハーイ!アキ君!こんにちは!」
「こんにちは!」
::.*゜:.
「せんせ~~!女子が入口を塞いで教室に入れないよぉ~」
一人の男子生徒が担任の近藤に言う
「そ・・・そうだね・・・そろそろ上級生の女子には帰ってもらおうか」
新任ではじめてクラスを受け持った近藤が、額の汗を拭いて、胃薬2錠を水で喉に流し込む
そして昼休み中ずっと見守っていたけど、とうとう勇気をもって黒板の横の教員席から立ちあがり、明を囲んでいる上級生女子達に声をかけた
オドオド・・・「え~っと・・・野々村さん達すまないけど、午後の授業もそろそろ始まる事だし・・・サイン会はそれぐらいにして・・・ 」
くるっと野々村さんと永原さんが振り向いて、ギロリと近藤と睨む、ビクッとひきつりながら近藤が彼女たちの顔色をうかがう
「あ・・・あの・・・もっもう授業が始まるから・・・また・・ね? 」
明が野々村さん達に言う、たちまち野々村さん達がぱぁっと笑顔になる
「そうですわよね!アキ君の言う通りですわ!」
「みなさ~ん!サイン会はこれで終了で~~す 」
「ひどいわ!」
「給食食べてからずっと並んでいるのよ!」
廊下まで並んでいる、サイン待ちの女の子達からブーイングがおこる
アッキーズが教室に来るようになってから、近藤の胃薬を飲むペースが速くなっている
「レオく~~~ん!上級生の女子が怖いよぉ~~ 」
その時1年2組の廊下で外遊びから帰って来た、男子生徒「桐谷レオ」が、詰め寄っている女子生徒のおかげで教室に入り切れず、立ち尽くしている同じクラスの男子生徒に泣きつかれていた
レオはクラスでも一番背が高く、男子生徒のリーダー格だ
スポーツ刈りでキリリと一重のレオが、大好きなサッカーを思いっきり楽しんで帰ってきてみれば、ここ最近いつも昼休み中教室は、上級生の女で溢れている
目当てはあの「成宮明」だ、ムカつく野郎だ
あたかも颯爽と男子生徒の期待の元、女子達の黄色い声に負けじと叫ぶ
「どけよっ!ブスどもっっ!自分のクラスに帰れ!!」
「うっせーーー!!〇ね!キャー――アキくぅ~~ん(はぁと)」
あっさり玉砕されレオが悔しさにしかめっ面をした
この上級生の女どもにはほとほと手を焼いている、しかも集団になったらたちが悪い、レオは憤った
「れ・・レオく~~んあいつムカつくよ~~~~」
「女の子にモテるからって、いい気になってんじゃねーの?」
レオが廊下の窓にもたれて、じっと女子生徒と笑顔で話す明を睨む
そして誰かがぼそりと言った
「アイツいじめて学校に来れなくしてやろうよ」
:.*゜:.
「へぇ~・・ファンクラブねぇ~」
直哉は向かいでカレーを食べている明をチラリと見た、彼特製のビールを片手にほろ酔い加減だ
今年のビールはとても良い出来だ、しかしアリスが来る以前よりかは、直哉の酒の量は減り、今では何日も正気を保っている時期が多い
「凄いじゃないか!大したもんだ」
北斗がアリスにカレー皿を手振りでお代わりを頼む、もちろん北斗が作ったカレーを、アリスがよそってみんなに出しているだけだが
「カレーに醤油をかけるのは邪道だぞ!」
直哉が北斗を見て言う
「福神漬けは良くてなんで醤油はダメなんだ」
「エビフライが欲しかった」
「そこまで言うなら自分で作れ」
「カレーはスリランカレストランでしか食べたことがなかったわ」
「またお嬢様の異次元発言が始まったぞ」
北斗が明るく笑い、直哉は嬉しそうにアリスをいじる
大きな母屋の丸太小屋はアリスのおかげで、とても居心地が良く
食事はここのダイニングテーブルで、北斗夫婦と兄弟達で食べるようになり
最近では北斗とアリスも兄弟達と夕食を済ませて、母屋でゆっくりしてから
自分達の家に引き下がるのが日々の日課になっていた
食事を終えリビングに移った直哉が、ソファーに座ってギターをポロンポロン引きながら北斗に言う
「なんでも巷では恋人を作らず『推し』活動をする若者が増えてるらしいぞ」
「俺はわからんな・・・・その人を追いかけても、自分のものにはならないんだぞ?」
北斗がウイスキー片手に、海外のニュースサイトをノートパソコンで見ている
腹が一杯になった二人はのんびりとくつろいでいる、最近ではこんな何でもない様な事が、北斗にとってはとても幸せだった
アリスがいて弟達が幸せに暮らしている
「それでも『推し』を見つけて、その人を応援して、ある程度時間やお金をかけた方が、自己肯定感があがるという研究結果も出てるそうだ。日本は『推活』天国らしいぜ」
「ふぅ~ん・・・まぁ・・俺には関係ない話だ」
ふと北斗が、まだダイニングテーブルにいる明とアリスを見た
アリスの瞳はキラキラして何か明に言い聞かせていた
キラキラ・・・「アキ君・・・・この時代誰かに「推し」て頂くと言うことは、とてもありがたい事なのよ、ファンの皆さんあっての私達ですからね・・・ 」
「なんだ?なんだ?何が始まった?」
「わからん」
直哉がギターを止めて笑いながら二人を見ている北斗が首を振った
「アッキーズの皆さんにはいつも感謝の気持ちでね。素っ気なくしすぎてもダメ!馴れ馴れしくしすぎてもダメ!」
「うん♪僕みんな好きだよ♪」
「素晴らしいわ」
「なんか・・・アリスがアイドルのマネージャーみたいになってるぞ」
プッ「本当に・・・まぁ二人が楽しいなら、俺は何でもかまわん 」
北斗と直哉が笑った