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ペルレ星物語

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ペルレ星物語

1 - ペルレ星物語

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2025年03月31日

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昔むかし、天気のよく変わるドイツの街、シャトレーヴィヒに、きれいなおとめがいらっしゃいました。

くびに掛けられた名札に、【ペルレ】と記してありました。


ペルレのからだは、透き通ってなめらかでした。風景の移ろいに合わせ、遥か向こう側まで、何にだって染まります。

絶え間なく引っ付いた光のかけらが、パールの揺らめきを湛え、眩く楽しく麗しく、まるで夢かのようにきらめくのでした。


ペルレは、ガラスからうまれた美しい子でした。


シャトレーヴィヒには、とてもすてきなおとめの他に、やわらかいヒュプシューたちが、賑やかに住んでおりました。かたくできた子は、ペルレだけなのでした。

ヒュプシューたちは、毎日まいにち、ペルレの愛らしさに酔いしれ、ガラスのつるんとしたはだを、シルクで優しく磨いてくれました。


きよらかなペルレは、あいにく言葉を知りませんでした。(もし歌うことができたのなら、さぞ美しかったでしょうに。)

ペルレは代わりに、踊りが得意でした。晴れでも雨でも風でも駆け回り、雪でも雷でも飛び跳ね、あちらこちらを行ったり来たり。ペルレは自由な子でした。


明るく澄んだ、おとめのまんなかで、とくん、とく、と震えているのはケルンです。

嬉しいときは温かいコーラル。 悲しいときは静かなラピスラズリのように。ひし形のケルンは、色色に輝くのでした。


ペルレのケルンはいつもコーラルに光るのですが、春が訪れてから、なんだか様子がおかしいのです。


原っぱの角っこに潜む泉に、ペルレや獣たちはつどいます。ペルレは、得意な踊りを披露することもせず、しきりに泉のなかを気にしては、ケルンをラピスラズリに曇らせるのです。


雪が降りやまない冬の日、凍った泉で知り合った世にもきれいな女の子を、ペルレは忘れられないのでした。

まるで彫刻や、他の芸術品のように、ほんとうにきれいだったのです。透き通って、なめらかで、眩く楽しく麗しく、美しい。ことばを尽くしても限りないほど、みなさんの想像がわずかにも及ばないほど、すばらしくきれいなのです。


ペルレと泉の子は、おんなじように踊り、おんなじように駆け回り、おんなじように飛び跳ねました。二人は常にお互いにみとれ、笑みを絶やしませんでした。シャトレーヴィヒは、ペルレと泉の子のコーラルで、太陽よりも明るく辺りを照らすのでした。


しかし、泉の氷がぱきんと割れたころから、泉の子は姿を消してしまったのです。

ペルレのケルンがラピスラズリなのは、友達が現れないからなのでした。


ペルレは曲げたからだを戻し、勢いよく立ちました。泉の子を探して、再び一緒に踊りたいから。

すると、バランスが崩れたのか、だれも叫ぶ間もなく、ちゃぽん、とペルレは泉にのまれてしまいました。


とうめいな水に、とうめいなペルレが沈んでゆきます。


獣たちは慌てふためき、泉を掻き回すものや、泉に潜り込むものもいましたが、どちらもとうめいなせいで、みんなペルレがわからないのです。


ペルレはくるくると落ちてゆきます。


獣たちは諦め、泣き出すのでした。



いくつ時間をまたいだのか、おそらく、知っているのは空だけでしょう。


ペルレは気がつくと、葉の茂る木の根っこに座っておりました。

しばらく、眠っていたみたいです。


ペルレは、じぶんのからだに、二つの影が差していることに気がつきました。

木の子と、合金の子が、ペルレの姿を静かに観察しておりました。


「ペルレっていうの?」

木の子が喋りました。柔らかく、温かな声です。

「ぼくはバオムだよ。隣の子はクロム」

ペルレが首を振ります。

「喋れないのか」

クロムが固く、冷ややかな声で呟きました。

「うわあ。ほんとうに、きみってすごくきれいだね。 カプトヘレの子じゃないんでしょう」

怯えるペルレに、バオムが歩み寄ります。ペルレのケルンが、ラピスラズリに染まります。

「迷子だろ。からだが濡れてる。別の街の川から流れ着いたんだ」

クロムがそっぽを向きながら吐き捨てます。

「ねえペルレ、ぼくたちの家においで。しばらく住む場所がいると思うから」

バオムがしゃがみ、涙を浮かべるおとめに笑みを浮かべました。



カプトヘレは、シャトレーヴィヒよりも天気の移り変わりが激しい街でした。

ペルレは、なんでも作れる木のバオムと、なんでも直せる合金のクロムと共に過ごしながら、二人の仕事を助けました。


具体的には、踊りです。

ペルレの快いステップには、よどんだカプトヘレに爽やかな空気を呼ぶような力が込められていると、街中で噂になりました。

バオムとクロムのお店に赴いたお客さんは、かわいらしいペルレのステージに喜び、チップを弾みました。


みんなが、ペルレを愛しました。みんなが、ペルレを呼びました。みんなが、なんてきれいな子なんだとペルレを褒めそやしました。

ペルレはカプトヘレでの新たな心地よさに酔いしれ、次第にシャトレーヴィヒでのことを忘れてゆくのでした。



秋も過ぎかけた日の夕方、三人で草の実を取りに森へ向かいました。お昼から空が怪しく、黒い雲に覆われていたのですが、雫が一粒降ると、雨が三人を襲いました。


「困ったことが起きた」

バオムが嘆き、クロムが俯きました。木のバオムは濡れると腐りやすく、合金のクロムは濡れると錆びやすくなってしまうのです。


ペルレは友達を守ろうと、持っていたバスケットから敷き布を引っ張り出し、二人を隠すように掲げた、

ときでした。


びゅおうっと風が吹きました。

石が、暴れる風に乗ってペルレを打ちました。

何度もなんども、繰り返し打ちました。

ペルレの透き通ってなめらかなはだに、白い線がいくつも流れます。

まるで、星のようでした。


ぱりんと澄んだ音が響きました。


バオムも、クロムも、じぶんのからだの調子は厭わず、急いでペルレをかばうように抱きしめました。


風は一向にやみません。

ペルレはがらがらと崩れてゆきます。


ガラスのおとめは、粉になってしまいました。


バオムはべたべた樹液の涙を溢れさせ、クロムはどろどろ合金の涙を零しました。

腐るのも錆びるのもかまわず二人は、ペルレのかけらを、黙って拾いました。


ただ不思議なことに、ひし形のケルンだけは、いくら辺りを確かめても出てこないのでした。

なんでも直せるクロムですが、人形を元に戻すには、必ずケルンが無ければならないと知っていたので、酷く悲しみました。


「あっ」


バオムがふと、空に向かって叫びました。

クロムはつられて天を仰ぎました。


流れ星です。


いつの間にか、雨も風も止まり、星が空を泳いでゆくのみです。

星はいずれも、コーラルか、ラピスラズリの色なのでした。


「きっとペルレなんだ」と、木の子も合金の子も密かに思いました。


二人は静かに星の雨を浴び、野に散らばった草の実を集めて、並んで家に戻るのでした。

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