テラーノベル
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いつも逃げてばっかりで、前に進もうと努力することさえできない。そんなわたしが、貴方と少しでも多くの時間を共に過ごしたいと願うことを赦してくれますか。
あの日、夏の暑さが和らいできた秋霖の日。
入浴介助も終わり、いつものように寝る支度をしているときに、なんの前触れもなく主様はそう仰った。
なんてね、と下手くそな笑顔を作る主様に
え…っ、なん…と声にならない言葉が次々と喉の奥でつっかえるだけで、主様が眠りの挨拶を言うまでうまく伝えることができなかった。
いつも穏やかな笑顔を浮かべて、執事たちのことを暖かく包み込んでくれるような主様がそんなことを考えていただなんて微塵も思っていなかった俺は、酷く動揺してしまったのを覚えている。
どうにか顔には出さなかったと思うが、主様が眠りにつくまで見守っていてもその言葉は頭から離れなかった。
家に帰るのが遅くなってしまった学校からの帰り道、路傍に堕ちていた指輪を見つけた時から全ての歯車が廻りだしたのだと思う。
学校行って、塾行って、寝るだけ。
家族や先生、周りの人からの評価を貰う為だけに、勉強以外で特に秀でた点もなく、いわゆる優等生としてただただ真面目に過ごしてきた。
時に怠けて、勝手に一人で罪悪感に押しつぶされそうになる。
そんな、ありふれた学生生活を送っていた私にとって、あの春の日が私の人生の中の一等星になったのだった。
指輪を嵌め、ベリアンや他の執事たちと出会い、天使たちと戦っていくうちに、自分が生きている意義を見つけられたような気がした。
人のために生きられる、みんなのように美しくはなれないけれど。
どうか彼らを最も近くで支えられる存在で居続けられますように。
そんな強欲さが出てきてしまうくらいにはみんなに愛してもらい、傲慢になっていたのだろう。
しかし、学校で辛いことがあって泣いて帰ってきたわたしに暖かい言葉を沢山かけてくれた彼らに感謝じゃ表しきれないような尊い気持ちを感じた日の夜。
夜の帳が降りる星月夜にわたしは、うまく言葉にできないような胸が張り裂ける想いを感じてしまった。
いつも尽くしてくれている彼らに、なにもできていない。そう思った日からわたしは常に罪悪感に苛まれるようになった。
そんな日から少しが経ったある宵の時、わたしはついぽろりと本音を零してしまった。
こんなことを言っても困らせるだけ。そんなことは心の端ではわかっていたはずなのに、どうしても言葉にしてしまった。
フェネスにこの気持ちを訴えて、少しでも心を軽くしたいと思ってしまった醜い私がいた。
どうか、わたしがフェネスに与える愛が一番小さなものでありますように
どこかで聞いたことのあるようなセリフを、盗んで自分のものにして心の中でそっととなえて、目に困惑の色を浮かべながらも、いつもどうりに振る舞い、寝るまで見守り続けてくれた、深緋の髪と鬱金色の目をした、愛する人に眠りの挨拶を告げたのだった。
おやすみなさい、フェネス
MAKO
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カワカミ・ハナマルの嫁
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コメント
1件
うわあ…第1話からすごく重くて美しい空気感だね…読んでて胸がぎゅっとなったよ。主様が「なんてね」って笑うところで、本当は笑えてないのが伝わってきて切なかった。フェネス視点と主様視点が交互に出てくる構成も好きだし、指輪から始まった運命の重さを感じた。続きすごく気になる…!AYAさんの言葉選び、本当に繊細で素敵です🌙🤍