______________________________
去るものは日々に疎し______________________________
第1話『相惚れ自惚れ片惚れ岡惚れ』
生徒会の仕事も落ち着いて、静まりかえった教室、いつも通り日菜先輩と他愛のない話をし、さて帰ろうかと思ったその時だった。日菜先輩が突然静かになった。なんだろうと思い視線を向けた瞬間、日菜先輩が口を開いた。
「あたし、つぐちゃんが好き。」
「……っ」
一瞬何を言ってるのかわからなかった。好き、スキ、SUKI、…好きって何だろう。とりあえず私は発言の意図を確認するために日菜先輩の言葉を待った。
「あたし、ビアンなんだ。それでつぐちゃんのことが、好き。」
今度は理解できた、けど、それ以降の思考が止まった。
「あ、あの、ひな先輩……? 好きって……え……?」
頭に思ったことがそのまま口から漏れた。
「うん、あたしはつぐちゃんのことが好き。付き合いたい。……ずっと面白い子だなと思って興味があったんだけど、半年前くらいかな…? 気付いたの。これは恋だって。」
何か言わなくちゃいけない。頭では分かっていても心が追いつかない。好き? 日菜先輩が私のことを? 恋愛対象として? どうして? 色々な感情がうずまいて思考がまとまらない。 日菜先輩が動いた。ぐちゃぐちゃの思考のまま顔を上げると息が触れそうな距離に日菜先輩の顔があった。
「つぐちゃんは興味ない? そういう事。あたしはつぐちゃんとキスもしたいし、その…えっちなこともしたい。」
落ち着きはじめていたのに、また頭が真っ白になった。顔が火照るのが分かる。焦れば焦るほど思考がまとまらない。日菜先輩と……付き合う……? キスとか………え、えっち、、なこととかも……? めちゃくちゃな思考から言葉を絞り出す。
「あの……好きって言って貰えるのは嬉しいんですけど…私、ひな先輩のことは好きなんですけど……えっと……付き合うとか考えたこともなくて……」
日菜先輩の息が顔にかかる。甘い匂いがする。その度に感情が乱れる、思考が言葉にならない。
「あたしね、本当はすごく悩んだんだ。本当にこの想いを伝えてもいいのかなって。おかしいと、思われないかなって。でも、つぐちゃんはいつもあたしのわがままにも嫌な顔一つせず付き合ってくれて……。そんなつぐちゃんなら気持ちを伝えても大丈夫かなって。でもやっぱり気持ち悪いよね……ごめん。嫌いになった……?」
「……っ気持ち悪くなんてないです! 日菜先輩は私にとって憧れの先輩で……! 少しびっくりはしましたけど……絶対嫌いになんてならないです!」
口をついて出た、正直な気持ちだった。
「あはは…そっか。よかった…。つぐちゃんに嫌われたらどうしようって、ずっと不安だったんだ。でもやっぱりつぐちゃんはつぐちゃんだ。ありがとね」
日菜先輩は私から離れながら、わざと明るい声でそう言った。そしてまた言葉を続けた。
「でも……うん。フラれちゃったか……残念。でも今まで通り仲良くしてくれるといいな。」
いつもの調子に戻った日菜先輩は、そう言って帰り支度を始めた。私は何も言えなかった。心のどこかに安心してる自分がいた。そんな自分に嫌気がさした。
「さて、帰ろっか! 鍵閉めるからつぐちゃんもはやく帰る支度して!」
「あ、はい!」
今度は反射的にいつも通りの返事ができた。日菜先輩のことは好きだけど、それが憧れなのか恋なのかは自分でもわからなかった。心にはモヤモヤとした後味の悪い感情だけが残っていた。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!