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桜が舞っている。煩わしい春がやってきたんだと溜め息をついた。僕はベットから降り、洗面
所へ迎い、コンタクトレンズをつける。カップ麺をすすって、母に線香を上げる。
「行ってきます」
幸せそうに微笑んでいる母の写真にそう呟いた。
外は日が照っていて、僕は目を細めてもう一度溜め息をついた。学校は賑やかだった。突然後
ろから肩を組まれた。
「わっ!」
あまりにも突然で思わず声が上ずってしまった。
「おっはー、相変わらず暗いねー蒼野っち!」
茶色い短髪が右耳をくすぶる。
「やめろって言ってんだろうが。あとおはよう。」
久しぶりな挨拶に少し和んだ。
「あれ〜?2人ともおはよう!」
流行りのマッシュルームヘアの奏汰が言った。
「おう。奏汰!相変わらず可愛いねぇ」
爽快に誠が笑って、奏汰の頭を撫で回した。
「可愛くねえし!」
怒って奏汰が誠の手を振り払った。
「うん、おはよう。奏汰。」
そんな感じで新しいクラスへ向かっていると、隣のクラスが騒がしかった。何人かの女子も泣
いている。通り過ぎてから2人に何があったのか聞くと、あ〜と奏汰が苦笑した。
「なんか先週?女子生徒が死んだらしいんだよね。」
「なんで?」
誠が眉尻を下げて聞くと
「え?多分だけど交通事故とかだったような?」
奏汰も詳しくは知らないのか顔をしかめて答えた。
僕はと言うと1人物騒な事を考えていた。
(いいなぁ。こんなこと思うのは失礼かもだけど・・・)
やっぱりいいなぁと思ってしまう。自分で言うのもなんだけど僕は死ぬことに憧れを持ってい
る。なぜなら「生きること」に意味を感じないのだ。僕が小学二年生の時に、母が交通事故で
他界した。父はとんだ遊び人でパチンコや競馬で金をかなり使い込むようなヒモ男だった。
母が死んでからもその癖は治らず僕が小学三年生の時に、金の無さに嫌気がさしたのか家を出
ていった。それから一年後、病気で亡くなったという。葬式の時、僕は泣きもしなかった。
ただ思いっきり父を殴りたかった。それから家を点々としていた。父の悪いイメージと僕の
この眼のせいで嫌がらせや悪口は日常茶飯事だった。でも、母方の祖父達の家は暖かかった。
この親にしてこの子ありというのであろうか。母も僕を嫌わなかった。
「あなたの目はとてもとても綺麗な青空色だもの。あなたの心も綺麗な証拠ですよ。」
といつも僕の頭を撫でて微笑むのだった。僕には今まで母だけが唯一の味方だったんだ。祖
父達も僕を嫌うことなく愛してくれた。僕は決めていた。高校生になったら一人暮らしをする
と。別に祖父達をきらった訳では無い。早く恩返しがしたかった、母の分も。だから僕は一
人暮らしをしている。アルバイトも頑張っていた。たが祖父が心臓病で他界したのだ。つい先
日、祖母もあとを追うように帰らぬ人となった。僕は泣かなかった。ただ呆然としていて、み
んなして僕を置いていくのだとショックを受けた。だから今の僕には生きる意味、生きがいと
言うのがないのだ。
「なんかね〜、子供を殺そうとしたのを守るフリして死んだらしいよ。バス停でバスが来た
のを見計らって押したとか?」
「えっ?マジ?女子って怖ー」
まだ話が続いていたのか奏汰と誠が話している。それ誰なの?と僕が聞くと同時にチャイムが
鳴った。まあいいかと席に着いた。この判断は外れていなかったのだろう。とんでもない出会
いが僕を待ち受けていた。
4校時が終わっていつもの様に屋上へと向かう。太陽の光に目を細める。青色が空いっぱいに
広がっていた。
「・・・嫌な天気だなぁ」
そう呟いて長椅子に寝転がる。手で空を仰いでまたひとつため息をついた。
ガタッ
「!」
物音がして後ろを振り向く。屋上は僕以外使用禁止のはずだから今までにない事だった。そ
う僕以外では。この高校の先生は僕の事情を知っている。辛くなったら息抜きに使うように
と僕に鍵ごと預けているのだ。この高校は校則に厳しいはずだったから誰かがいるなんて思っ
てもみなかった。
「誠か?奏汰?いるんだろ?」
僕の後をイタズラにでもつけてきたのだろう、と思い物音の方へ尋ねる。
「・・・・・」
沈黙が続いた。僕は仕方なく立ち上がり物音がした入り口へと歩く。ドアを開け、ドア裏を見
て驚いた。
「え?」
そこには女子が座り込んでいた。綺麗な黒髪が腰まで流れていて、目には沢山の涙を溜めてい
た。僕のその時の心音は速まっていて、彼女の今にも消えそうな透明感に目を見開いていた。
形の良い唇を開いた。
「・・あの、私が見えるんですか?」
彼女は僕にそう言った。僕は、へ?と間抜けな声を出してはっとした。
「見えるも何も君は人間だろう?」
僕はいまだに混乱していて、当たり前すぎる事を彼女に問いていた。彼女はまた涙をこぼし
た。
「・・・えっ?あっ。ごめんっ?、え?なんで泣いてるの?僕もしかしてなんかまずいこと言っ
た?」
焦って彼女に色々聞くけど彼女は首を振って顔を上げた。
「・・・いえ、ただ嬉しくて。ありがとうございます。」
溢れる涙を拭きながらお礼を言われて、僕は意味がわからなくなった。
(・・とりあえず大丈夫ってことだよな?)
自分に言い聞かせてただ彼女を見守っていた。彼女はやっと泣き止んだかと思えばとんでもな
いことを僕に言ったのだった。
「私は人間ではありません。つい最近死んでしまった幽霊です。」
と。僕は理解が追いつかず彼女にもう一度聞いた。
「・・・・幽霊?君が?え?冗談でしょ?」
人差し指を指して苦笑して言った。彼女はにっこりと笑って言った。
「はい、2年2組になるはずだった幽霊の西野愛優です。」