テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
鷹槻れん

54,628
鷹槻れん

27,288
猫塚ルイ

2,437
宇津Q
2,658
「……湊、さん? あの、離して……」
抱きついたのは自分だから強く拒むことが出来ない和葉は戸惑いながらもやんわり伝えていくけれど、湊は腕の力を緩めることなくゆっくりと和葉へ顔を近づけた。
「――ずっと、こうしたかった……」
「……っ!」
切なさを滲ませた囁きに和葉の肩が小さく震える。
「……湊、さん……」
その苦しげな声を聞いた瞬間、和葉の中にある離れなければという理性が少しずつ霞んでいく。
(駄目……早く離れないと……)
そう思っているのに身体は動いてくれず、拒むことも逃げることもできないまま、ただ湊に抱き締められていた。
やがて湊はゆっくりと腕をほどき、二人は向かい合う形になる。
『…………』
視線が重なり合い、どちらも目を逸らせない。
そんな静寂が二人を包む中、湊は覚悟を決めたように口を開いた。
「……和葉の気持ちを一番にしたいし、急かしたくもない。いくらでも待つつもりだった……けど、ごめん。やっぱりもう、限界なんだ」
湊の真っ直ぐな瞳が和葉だけを映している。
見つめられ、想いを紡がれた和葉は今にも泣き出しそうな程に瞳が潤んでいた。
(……駄目、その先を、言わないで……)
聞いてしまえばもう後戻り出来ない、そんな気がして言葉を遮ろうと口を開くも声が出ない。
こんなにも真剣な湊の言葉を遮ることなんて、和葉には出来なかったのだ。
「好きだ……」
「…………っ」
短い言葉に、湊の想いの全てが込められていた。
「もう、離れたくない……離したくないんだ……和葉、もう一度俺と、付き合って欲しい」
湊の告白に息を呑み、ただ彼を見つめることしか出来ない和葉。
本来なら迷うことなんてないはずだった。
もう二度と、誰とも恋愛をするつもりも無かった。
だけど、再会して、連絡を取るようになって、休日に会ってどこかへ出掛けて、詩音を一番に考えてくれる湊。
そんな彼を間近で見ていた和葉は考えが揺らいでいた。
そもそも別れたのだって、嫌いになったからじゃない。
だからこそ、湊の想いに触れるたびに決意は揺らいでいた。
「あの時、きっと俺に至らないところがあったから和葉は離れたんだろ? あの頃の俺は、まだまだ自分のことばかりだったと反省してる。だけど、今は違う。今の俺なら、お前を悲しませたりしない。どんなことがあっても、守ってみせる。もう一度、やり直させてくれ……頼む」
湊の言葉に和葉は困惑する。
(違う……湊さんは何も悪くない……悪くないのに……)
別れた原因は湊にあったわけでは無い。
それなのに、彼はずっと自分を責めていたのだと分かった和葉はどうしようもなく辛くなる。
「……違っ、……湊さんは、……悪くない……私が……、私が……っ」
そして、和葉が自分を責めるような言葉を口にしたその時、
「もう何も言わなくていい。今更別れた理由なんて必要無い。ただ、やり直す機会をくれたら、それだけでいい。和葉、もう一度俺の彼女になってくれ」
ポロポロと涙を零す和葉の身体を再び抱き締めた。
コメント
1件
わあ……もう、切なくて胸がぎゅっとなりました。湊さんの「ずっとこうしたかった」という台詞が、溜め込んできた想いの重さを感じさせてぐっときました。和葉が「もう後戻りできない」と分かっていながらも湊の真剣な眼差しに抗えない心情描写、すごく丁寧で引き込まれました。別れた理由を湊さんが自分のせいだと責めているのが切ない……お互いを想い合うほどすれ違う二人の描写が、本当に繊細でした。この先、どうなるんだろう……続きが気になります!