コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
いつものように朝の散歩に出ていた俺は、シロとヤカンを連れ参道の階段を上り、鳥居をくぐって境内へ入ろうとしていた。
あれっ、境内に誰かいるなぁ。
うすいピンク色のジャージを着た、黒髪肩ぐらいの女の子が手水舎 (てみずや) で手を洗っている。
んん、ご近所の参拝者さんかな?
するとシロがトトトっと近寄っていき、女の子の周りを尻尾を振りながらクルクルまわりだした。
「やーシロたんおっはー! アメちゃん食べるか~」
昨日のように不〇家の棒付きキャンディーを貰っている。
えっ……、えぇ――――――っ! ギャルマリなの?
昨日とまったく別人じゃんよぉ。こりゃたまげたわ!
「おはようマリ。早いなー」
「おはありゲンさま。だってもうみんな起きてるし」
「化粧はしないのな」
「今日は巫女さんやるし。メイクすると紗月 (さつき) も紗月のパパたんも激おこみたいな」
「あ――――っ、だろうな。神職だし。その辺はきびしそうだよな」
「しかたないっしょ。バイト代ももらってるし」
「しかし、今でも十分いけてるとおもうぞ。可愛くておけまる! なんつってな」
「も~ぅからかって。ぷんすこ!」
「からかったつもりはないぞ。実際に可愛いわけだし。……それでな」
「可愛い、○×△□、○×△□、○×△□」
「おっ、おいマリ? マリ? 戻ってこ――――い!」
――やれやれ。
1分間程フリーズしたあとギャルマリは再起動した。
「それでなマリ、ダンジョンに潜るにあたって得物の話になるんだが、何か気になる物とか使ってみたい物ってあるか? 俺的にはレイピア (刺突剣) 辺りがいいと思うんだが、どうだろう?」
「私のことはどうぞ茉莉香 (まりか) と呼んでくださいゲンさま。得物の方はお任せします。どの道素人ですし」
「わかった。じゃあ名前もそのまま茉莉香と呼ぶことにするよ」
「はい!」
花笑みを浮かべる茉莉香。ギャル語は完全に忘れ素にもどっている。
母屋へもどり、いつもより幾分早い朝食をみんなで頂いた。
そのあと少し時間をもらって、実際に片手剣を見てもらった。
ダガー、ショートソード、レイピア、ブロードソード、それぞれを茉莉香に持たせてみる。
う~ん、ショートソードが良いような気もするが……。
片手ではすこし重いか? レベルが上がれば問題ないだろうが。
ふむふむ、
ショートソードを改良してみるか。
刀身は60㎝、両手で持てるように柄は少し長めにする。
軽くするため刀身は細くしたが、ミスリル合金製なので強度は十分にあるだろう。
おお、わりかし良い出来じゃないか。軽くて使い安そうだ。
んん、紗月がこちらを睨んでるような……。
そういえば紗月にもレイピアを頼まれているんだったな。
そろそろ仕度があるとのことで、紗月と茉莉香の二人は居間の奥にある部屋へ入っていった。
茂 (しげる) さんは朝から本殿に上がり神事を執り行なったあと、祈祷をおこなうため大幣片手に各所をまわっている。
昼になり参拝者が増えてくると神社の境内はだんだん賑やかになってきた。
授与所には巫女服に身を包んだキロと茉莉香が詰めており、お神札やお守りなどを求める参拝者に授与している。
本殿巫女である紗月も朝から大忙し。境内をあちらこちら飛びまわっていた。
母屋の方では、茂さんの姉である祥子 (しょうこ)さんが氏子の奥方連中をまとめ台所に詰めている。
主に関係者への日中のお茶出しや、にぎりめしなどをこしらえてくれているのだ。
もちろんフウガをはじめ、家の影たちも陰ながらお手伝いしている。
それでもって、
俺は今日何をしているのかというと、
沿道に座って【ボンボン釣り】の売り子をしておりやす。
倉庫の奥でねむっていたボンボン釣り用のトレイとのぼりを引っ張り出し、参道脇にタープを張って営業しているのだ。
昔の話になるが、
町で行われていた祭りでは年に一度、こうしてボンボン釣りの売り子をやっていたのだ。
準備の方は ”水風船” と ”こより紙” のセットを須崎 (すざき) の問屋さんから購入。
こよりの方は3日前からボチボチ作っており、水に浮かべるボンボンの方は今朝から影たち総出で200個程こしらえた。
あとはボンボンの売れ行きを見ながら、俺がその都度作っていけば間に合うはずだ。
テキヤの屋台は参道を挟むように6軒が出店しており、昼過ぎからは家族連れなどを中心にそこそこの賑わいをみせている。
中でも【梅が枝餅】の屋台は人気が高い。
屋台の後ろには運動会テントが張ってあり、そこでお茶と共にお餅を頂けるようになっているのだ。
かく言う俺も、先ほど梅が枝餅を大量買いして、みんなに配ってまわったところだ。
健太郎? 健太郎は防犯パトロールだな。
地域住民といっしょに『腕章』をはめて神社周辺をまわっている。
そして我らがシロちゃんなんだが、
看板犬としてシロも頑張っているぞ。
首輪にカラフルなボンボンを3つぶら下げ、あっちこっちに顔を出してはお客さんを引っ張てきている。
「ほいっ、イカ焼き2本おまち! しかし、にーちゃんとこのワンコはよく仕込んであんな~」
隣でイカを焼いてるテキヤのおっちゃんも感心していた。
その分、イカ焼きもかなり貢がされてはいるんですがね。(笑)
そうこうしているうちに、
――ワッショイ! ――ワッショイ!
――ワッショイ! ――ワッショイ!
賑やかしい掛け声が裏の駐車場の方から響いてくる。
【こども神輿】だ。
鳥居を潜り、神輿が境内に入ってくる。
ハッピを着た子供たちが、チンチンして立ちあがったシロに導かれるように……。
――何してんだよ!
まぁ盛り上がってるみたいだから、これはこれで良いのか?
……いや、それだけじゃないな。
今、転んで膝を擦りむいた子供が参道に座りこんで泣いている。
そこに登場したのが、カラフルボンボンをいっぱい付けたシロちゃん!
するとシロは泣いてる子供の側へいきペロンと膝を一舐め。あーら不思議、傷は何処にも残ってない。
「痛いよう……、あれ痛くないぞぉ? なおってる!? 犬さんありがとう!!」
子供はシロにお礼を言うと神輿の隊列に戻っていった。
「………………」
あのやろう……。 イカ焼き買っといてやるかな。
こちらでは正装した茂さんが、こども神輿の到着を見守っていた。
一応、『神様が神輿に乗られておいであそばされる』という体で行われているのだからね。
………………
こども神輿も無事に終わり、
駄菓子がたくさん入ったビニール袋を子供たちが嬉しそうに受けとっていく。
これは地域の子ども会が用意したものだそうな。
駄菓子を配る奥様方に混じり慶子 (けいこ) の顔も見えているな。
ダンジョン探索はお休みにして、母屋の方を手伝っているようだ。
東京から来たダンジョン探索組には、
マリアベルとメアリー、それに連絡係としてヤカンが同行しているのでこちらも支障はない。
すると何処からともなく黒子が現れると、綱を渡した仕切り用のポールが境内に置かれていく。
家の影たちであるが、いったい何をするつもりだ?
その手前には簡易式の長テーブルが置かれ……、えっ!