午前0時14分。
メモリア・パークの中心にある巨大な観覧車が、軋みながらゆっくりと回り始めた。
空は月も星もない真っ黒な夜。
回転のたびに、一つずつゴンドラの中が“赤黒く”染まっていく。
「次の影探しの舞台は、観覧車みたいだな……」
秋冬が呟くと、大輝が口を尖らせる。
「前にも言ったけどさ、本当に“影探し”なんてやる意味あるのかよ? それに……俺、天音の記憶がほとんど抜け落ちてる」
「それは、“記憶が削られてる”からよ」
言葉を挟んだのは、美緒だった。彼女の瞳は鋭く、まるで何かに気づいているようだった。
「この影探し、私たちの“心”を試してるのよ。天音の“存在”にまつわる、私たち自身の思い出を」
「間違えれば、また記憶を奪われる……そういうことだろ?」
そう言って歩き出したのは、二ツ橋大輔。
「だからって、放っとけねぇよな。あいつを助けたいなら――いや、俺たち自身を守りたいなら、進むしかねぇだろ」
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彼らの足元に再び光が灯る。
観覧車へ続く道が、血のように赤いライトで照らされた。
その中央に、今回の指名者が浮かぶ。
次の影探し:一ノ瀬美緒
「……私?」
観覧車の下に立った美緒の背中が、わずかに震えていた。
ゴンドラがゆっくりと降りてくる。
それは、真っ黒に染まった異形のゴンドラ。
外からは中が見えず、扉には血で書かれたような文字があった。
「嘘つきには、影を返さない」
美緒が足を踏み入れた瞬間、空間が歪み――彼女は“過去のある一日”に吸い込まれた。
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場面転換:一年半前の放課後、音楽室。
天音と美緒が、向かい合ってピアノを弾いていた。
「ねえ、美緒ちゃん……私、あのね、秋冬くんのこと……好きかもしれない」
微笑む天音。
だが、次の瞬間、美緒の顔がわずかに曇る。
「そっか……でもさ、秋冬くんって、彼女いたんじゃなかったっけ?」
天音はきょとんとした顔でうつむいた。
「あ……そうなんだ……」
美緒はその瞬間の表情を、今でも忘れられなかった。
なぜ、あんなことを言ったのか――
あれは、ただの嫉妬だった。
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現実へ戻ると、ゴンドラの中には3つの選択肢が浮かんでいた。
天音の気持ちに、美緒は――
A:応援した
B:受け入れた
C:嘘をついた
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「……私が選ぶの?」
美緒は、自分の胸に手を当てた。
(ほんとは、天音の気持ち、うすうす分かってた。なのに、邪魔した。怖かった――)
彼女の手が、選択肢の「C」に触れる。
すると、ゴンドラが急停止し、闇の中から声が響いた。
「あなたは、“天音の未来”を奪いました」
“その罰として、あなたは“本当の自分”を失います”
「なっ……!」
突然、美緒の体が光に包まれたかと思うと、彼女の“天音に関する記憶”だけが一気に剥ぎ取られていく。
「誰……? 天音って……だれ?」
観覧車の外で待っていた仲間たちのもとに、美緒が戻ってくる。
だが、その目はどこか空ろだった。
「……天音って、誰?」
秋冬は思わず拳を握る。
(影を回収するたびに、誰かが“天音を忘れていく”……
まるで、“記憶を代償にして天音を取り戻している”みたいだ)
そして、その瞬間。
観覧車のてっぺんに、誰かの姿が浮かび上がる。
それは、黒い制服を着た“もう一人の天音”だった。
その天音が、ゆっくりと両手を広げて言った。
「ねえ、秋冬くん……あなたも、本当は気づいてるんじゃない?」
「わたしは、“本物の天音”かもしれないって」
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秋冬の心臓が、どくん、と鳴る。
何が“本物”で、何が“偽物”なのか。
“影”を集めることで、本当に天音を救えるのか。
いや、そもそも“天音”は一人だったのか?
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