コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
※ピクシブに載せてたやつ
帝からの命で妖怪退治を終えた道筋、安倍晴明はふと我が身を落ち着かせるその甘く淡い香りに心を惹かれた。地を輝かせていた雪も春を訪れに身を任せる様に溶けていく。
春の花が咲くのには時期が早いなと思いながらもその甘い香りに誘われるように目を閉じた。
小一時間寝ていたのだろうか、屋敷の者に声をかけられ、まだ重みのある眼を開いた。
その瞬間、身体がずしりと重くなるような衝動に襲われた。冷静に感覚を研ぎ澄ませようとすると、先程の甘い香りが層が増したように濃くなっていることに気づく。
屋敷の者の様子を見るに、これに気づいているのは自分だけなのだと推測し、
自分がいない間に何かあったのかと屋敷の者に聞いてみる。
側に居た女官達が顔を見合わせ言いづらそうに身じろぎした。
「実は…」
_____________________
晴明は自分の屋敷の離れにある客間に赴いた。
するとそこには式神である玄武と青龍がいた。
「晴明様…!おかえりになられていたのですね。出迎えもできずに申し訳ありません…」
「いや、構わないさ。それよりこれは一体どういうことだい?」
率直に聞くと、玄武は身じろいてやはり言いづらそうにする。
率直に聞き過ぎたなと思い、
「すまない、責めているわけではないんだ。ただ君達の身に何が起こっているか、無事なのか主人である僕にはおしえてくれないかな」
少し開かれていた瞳を細め、いつものように微笑みながら尋ねる晴明に青龍はおずおずと客間を一瞥し恐る恐る口を開く。
「実は…
白虎が発情期?らしいんです…」
そうか、と発し、
「神様でもそういうことがあるんだね」
と晴明は特別驚きもせずいつものように冷静に答えた。白虎は神獣ではあるが、もとをたどれば虎、さらにたどれば猫である。それなら猫と同じように発情期が来ることもめづらしいことでもないのかと思うが、何故こんなにもまごついているのか。
「高天原では、このようなことはなかったので、我々もどのように対処すればいいのか…」
玄武が答える。
すると青龍が、
「玄武、私、屋敷の者ども声はかけてはいるのですが、毎度雷を喰らわれる羽目でして…」
成程、どうやら皆よそよそしいわけだ。
しかしどうしたものか先程より増した匂いに頭を重くさせると、白虎がとても辛そうにしているのが伝わってくる。
もうすぐ日も暮れてくる、あの子をこのまま暗い海に沈ませらようなことはしたくはないし、
客間にいるあの子を思うと心がいたたまれる。
玄武と青龍が不安そうに客間を見つめている。
途端、彼等の不安さも胸に波紋を広げるように伝わってくる。
目を細め、考えた後、
「玄武、青龍。白虎のこと心配だろうけど、僕に任せてくれないかな。」
彼等の心を落ち着かせるように、
白虎は大丈夫だ。と、自分達の愛しい主人は曇っていた心をゆっくり晴らすように微笑みかけ今日の別れを告げる。
「晴明様…」
言葉をかけようとするも、頬暖かな手に触れられ、何故か悲しそうな顔をする主人にかかる言葉も見つからず立ち尽くしてしまう。
「君たちも、今日は疲れただろう。
ゆっくりおやすみ」
自分達の頬を離れていく手をおしむと同時に、不安の海に月明かりを照らしてくた主人は ふわりと、人除けの結界を張る。
主人の背中が帰るのを見届け、
玄武と青龍は完全に暗くなる前に明かりをともにして屋敷を後にした。
_____________________
「白虎…起きてる?」
晴明は客間の前に立ち、中のあの子に声をかけた。
すると、言葉を吐き終える前にまた一層匂いが濃くなったのを感じられた。
返事を返される前に、襖を開けた。
目の前には布団に包まるように身を丸めている白虎がいた。
「!? 晴明様っ!?」
布団から真っ赤な顔の白虎は目を大きく見開いて驚いた。その横にはボロボロになった箱枕と、爪で剥いだであろう布団が事の
状況を物語っていた。
「どうして…!!」
「すまない。あまりにも君が辛そうだったから。」
「ッ!!
… 晴明様、早くここから離れてください。このままでは私は貴方様に危害を加えてしまいます。そうなる前に早くっ!」
ここから離れるよう促す白虎に晴明は少し顔を曇らせ、君をこのまま一人にはさせることはできないんだよ、と思いつつ、首から右肩まだ見えるように着ていた着物を緩めた。戸惑い、顔をさらに赤くする白虎の頬に手を添え誘い文句をたれる。
「噛んで」
_____________________
いつから自分は理性を無くした獣のようになったのか、回らない頭で考えようともするが、そんなこと今はどうでもいい目の前にある最愛に身を委ねた。
自分より背の高い思いびとの身体に喰うように歯形を刻ませる。噛み跡から流れる血を吸い上げると、んっ と、僅かに声を震わせる。それを感じるや否や、太い血管に牙を立て溢れ出した血を一滴残らず丹念に舐め、吸い上げる。「あっ、ん。」と舐める度に漏らす声にもっともっとと欲が深まる。
ふと、ふふ、と主人が肩を揺らす。
「本物の猫みたい。」
かわいいね、と言う主人の肩を押せば、
ぽすっと、意外にもそう簡単にその身体を見下ろすことができた。
普段なら眩しい貴方様を四神としてしか見上げることしかできないけれど、
今は、今だけは自分だけの者。
「良いのですね?」
「うん?」
「私はそこらにいる猫ほど、かわいくはないですよ?」
少し目を見開かせると
明日は晴れるかな?
と再び微笑み返した。
____________________
「おう晴明、お前なんで今日任務押し付けてきやがっ「ただいまー!今戻ったよー」
「朱雀、芦屋殿お帰りなさい」
「随分遅かったな」
「そうなんだよー。芦屋殿ったら今日はたまの休みだからって、西方の美女の湯浴みが見られなかったてご機嫌斜めでさー」
「それはお前だろうが!
あ?それより晴明は?」
「いや、それより何?なんかあったの?」
朱雀がひさしの間で柱に頭を打ちつけている白虎に目を向ける。
なんかぶつぶつ言っているが、よく聞き取れない。そしてなんか怖い。
すると、後ろからいつもの主人が顔を出した。
「朱雀、道満。急に用事を頼んですまなかったね。今日はもう仕事はないから、皆んなで
花見でもどうかなって。」
「花見ですか!?いいですね!
それなら私、とても良い場所を知ってますよ。」
「そうですね。やるなら、先日頂いた酒を持っていきましょうか。」
「はあ!?俺はこれから今日の分の穴埋めを…「まあまあ芦屋殿、たまにはいいじゃないのー」
「お前はさっきからなんなんだよっ」
「あれ、道満行かないの?」
「…はあ?
……チッ、…まぁ
タダ酒飲めるんだったら。」
「素直じゃないな〜」
「ふふっ」
まったく、僕の主人は誰にでも、 好かれちゃうんだから、こっちが気が気じゃない。
それもそのはず晴明君は高天原で、警戒心が強く凶暴で有名なあの白虎ちゃんも手懐けちゃうんだもん。
…でも昨日はちょっと違ったみたい。
そんなこと思ってると、やはり彼の方が白虎の事を手懐けてるみたい。
「ほら、白虎も行こう」
「…はい」
いや〜白虎ちゃん顔真っ赤。昨日はお楽しみだったようで。気づかないわけないじゃん?
ものすごくべったりとマーキングしてさー。
まあ、気づいてない子いるけど。
妬けちゃうな〜。
今度、僕にもお相手してもらおうかなー。
「朱雀、貴様 卑猥なことを考えておるな」
すぐさま、詰められ噛まれた。
____________________
陽の光が辺りを照らし始めた頃、隣にいる愛しい子に目を向けた。
本来、自分が主人として式神と繋がっているのだから、この子に何かあったらわかるはずなのだ。
自分の力が劣ってきているのか、はたまた、最近夢に見ることに関係があるのか。
「晴明様…」
すうすうと、寝息を立てて寝る愛しい子。
考えても仕方ないことだ。考えて未来が変わるわけではない、自分が行動したからといって結局、結末は変わらないのだ。
「晴明様…」
自分の名前を呼ぶこの子の頭を撫でる。
この子も、彼等も皆 未来を生き続けていく。彼等の一生を自分で縛りつけらわけにはいかないのに。
愛してる。
どうか、君が、君達が僕の事を忘れてくれますように。
_____________________
貴方様が世を去って千年、
晴明様
すみません、
私はあの時から
私の雪はやむことをしりません