サクヤと共に王都に行った帰りに、プロポーズに近い告白をサクヤにされた日から、2週間が経った頃。
アリーシェはようやくサクヤに告白の返事をすることを決める。
直接本人に手紙を渡すのは、少し恥ずかしさを感じた為、サクヤの護衛騎士であるルイーズにサクヤ宛に書いた手紙を渡すことにした。
「ルイーズ先輩、あの、これサクヤ王子殿下に渡してほしく思います」
「ああ、わかった」
「ありがとうございます」
アリーシェはルイーズに礼を言い、足早にその場を後にした。
遠去かるアリーシェの後ろ姿を見つめながらルイーズは呟く。
「なんて書いてあるのか非常に気になるな」
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翌日。
アリーシェと再び王都に出掛けることになったサクヤはとても緊張していた。
「アリーシェ、もしかして、この前の返事をする為に手紙で出掛けないかと誘ってくれたのか?」
「まあ、はい。そうですよ」
「そうか」
アリーシェとサクヤは互いに緊張しているせいか、普段よりも会話が少なく、気まずい雰囲気が流れていた。
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王都にある広場に着いたサクヤとアリーシェは広場にあるベンチに腰を下ろし、会話し始める。
「サクヤ王子殿下と初めて会話したのが、随分、前のように感じられます」
「そうだな」
「この前、サクヤ王子殿下から真剣に気持ちを伝えてくれた後、自分はサクヤ王子殿下のことをどう思ってるのか考えました」
正直、最初は良くない噂のこともあって、サクヤ王子とは関わりたくないなと思っていた。
けれど、関わりが増えていく中で、サクヤ王子という人物が、自分が思っていたような人ではなかったと気付いてたから、サクヤ王子のことを少し良いなと思っていた部分もあった。
最初にサクヤ王子殿下と出会った頃の私はきっと思いもしなかっただろう。まさか、自分がサクヤ王子のことを好きになるなんて。
「私もこの先ずっとサクヤ王子殿下の側にいたいです。そして、貴方を支えたい」
「アリーシェ、ありがとう。じゃあ、これからは遠慮なくアリーシェに触っていいということだよな?」
「え、人目がつく所ではやめてください」
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そんなこんなで、私はサクヤ王子殿下の婚約者になり、お付き合いすることになった。
その事を自分が仕える主であるティアナに伝えると、嬉しそうな顔をしてお祝いされた。
「あらあら、おめでとう。それにしてもまさか、貴方とサクヤ王子殿下が婚約者同士になるなんてね。びっくりだわ」
「まあ、そうですよね」
「ええ、でも、よかった。サクヤ王子殿下の恋は報われたのね」
ティアナの言葉にアリーシェは、ティアナも誰かに恋をしているのだなと気付く。
「誰かを好きになると、辛くなったり苦しくなったりしますけど、まずは相手に自分の気持ちを伝えることが大事なのだなと思います」
「そうね。そうよね」
アリーシェはこれからも騎士として、人として、成長していきたいと強く思ったのであった。
「殿下、今やってる仕事が終わったら、気分転換に散歩でもしませんか?」
「ええ、いいわよ」
***
数年後。
城の中庭を歩く一人の少女は、母親らしき女性に名前を呼ばれて、振り返る。
「ルテア、ちょっとこっちに来てちょうだい」
「うん!」
ルテアと呼ばれた少女が、同じ青色の髪をした母親らしき女性の元まで走り寄ると、女性は優しい笑みを浮かべて少女に言う。
「リボンが少し曲がってるわよ。よし、これでいいかしらね?」
「ああ、大丈夫だ。治ってる」
女性《アリーシェ》の背後にいた金髪の男《サクヤ》は少女のリボンが曲がっていないことを確認して頷く。
「お母さん、お父さん、ありがとう!」
少女は両親に満面の笑みで礼を告げてから、両親と手を繋いで歩き始める。
そんな三人の家族の姿を包み込むように、穏やかな春の風が吹いた。